鬼伝説と不老不死の水、ツンデレ幼馴染といく冒険探索

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戦い

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 星河せいが達が郷土資料館に到着した時、知恵ちえ悟志さとしが対峙していた。悟志は優心にこを人質に取っている。悟志の右腕は食屍鬼グールのそれに化けていて、長いかぎ爪が優心の首に付きつけられていた。そこへ星河と玲子れいこが駆けつける。

「優心! 大丈夫か?」
「おっと、それ以上は近づかないでいただこう」
 悟志が爪を鳴らして警告する、星河は足を止めた。隙がまるで無い、これではうかつに近寄ることはできない。

「おじさん……何で?」
 優心の目に涙が浮かぶ、悟志は薄い笑みを浮かべながら優心を見ていた。
「俺の要求はふたつだ。ひとつ屍鬼切りをこちらへ渡すこと、ふたつ目は俺を見逃すこと」

「見逃したとして、その後どうするつもりなの?」
 玲子がするどい視線を悟志に向けたままそうたずねた。

「俺は里を去り北米の食屍鬼の群れに参加するつもりだ」
「そこでも人を食べるおつもりで?」
 そう言った知恵はもう臨戦態勢とばかりに手にしたナイフを握りしめる。

「もちろんだ、食屍鬼は人肉を喰わなければ生きていけない、しかし人肉さえ食っていれば老い衰えることも無い、俺が求めた不死の存在だ」
 悟志は不敵に笑う。

 ――ここが踏ん張りどころでありんす、主様、慎重に判断してください。
「でも優心が……」
 狼狽する星河、彼は本来こういった戦いをするのは大の苦手なのだ。

「さあ、星河君、屍鬼切りをこちらに寄こしたまえ」
「だめ……星河、あたしのことはいいから」
「いいわけないだろっ!」
「どうした? 優心ちゃんの事は諦めるのかい?」
 悟志は爪の先を優心の喉にあてがった。微かに血がにじむ。

「わかった! 屍鬼切りは渡す」
 星河は屍鬼切りを抜いて悟志の方へ投げた。
「いい子だ」
 悟志は優心を解放して足元の刀を拾った。優心はすぐに走って悟志から離れた。

「この刀さえなければ誰も俺を止められない」
 悟志は大きく息を吸い込んでそして、気合と共に屍鬼切りを地面に叩きつけた。甲高い音が鳴って……。
「あ……屍鬼切り」
 屍鬼切りは真ん中から真っぷたつに折れてしまった。

「そこよっ!」
 玲子が声を上げるとリボルバーの拳銃で悟志を撃った。悟志は食屍鬼化した腕で顔を守る、銃弾は腕に弾かれた。
「あとは邪魔者を始末して、高跳たかとびをするだけだ」
 メキッと音を立てて悟志の上半身がふくらむ、そのままあっという間に身の丈三メートルの食屍鬼へ変貌した。

「やっぱり……おじさんが……」
 優心の目に涙が浮かぶ。
「行きます、覚悟を決めてください」
 知恵が悟志に飛び掛かる。

 首を狙った見事な斬撃を見せるが、悟志は右手に持った折れた屍鬼切りでナイフを弾いた。
「知恵っ! 離れて!」
 知恵は玲子の声を聞いて、常人には絶対に不可能な速度で後ろへ飛びのく。

 玲子は残った五発の弾丸を全て撃ち込んだ。
 音速に達した鉛玉が悟志を襲う。火花が散った。
 しかし、食屍鬼の固い皮膚に弾かれ、大した傷にはならなかった。

「無駄だっ!」
 獣の咆哮の様な野太い声で悟志が言った。
 一瞬で玲子との間合いを詰めると、屍鬼切りを握った右手の拳で玲子の鳩尾を打った。
 あまりの威力に玲子の身体は宙を舞い、資料館の壁に叩きつけられた。

「うっ……うう……」
 玲子はその場に崩れ落ちる。
「玲子さんっ!」
 優心が玲子に駆け寄る。

「玲子さんっ! 大丈夫か?」
「うん……息はある。でも骨折とかしてたらわからない」
「くそっ……このままじゃ」

 星河はその時ある異変を感じていた。付近があまりに静かすぎる。
 途中まで一緒だった玲子の部下の警察官たちはどうしたのだろう? 確か数人がライフルを持っていたはずだ、拳銃とはけた違いの威力がでるライフルならもしかしたら食屍鬼にも通じるかもしれない。
 怒号や銃声までしたのだ、彼らが駆けつけてもおかしくないはずなのに。

「魔術で人払いをしたようですわね」
 軽蔑するように知恵が言った。
「ハハッ! そうだ、時間を稼いでも助けなんか来ないぞ」
「ならばここで滅するのみです」
 再び知恵が悟志に飛び掛かる。鋭い斬撃を浴びせるが、悟志は屍鬼切りで器用に受け流す。

「素晴らしい……鬼の力がどんどん馴染んでいくようだ……」
 血を飲み変化を繰り返すごとに、悟志は本格的に食屍鬼になっていっているようだ。動きの機敏さと力強さがどんどん増していく。

「くっ……やはり押し切れませんか」
 知恵の額に緊張の汗が浮かぶ、焦りの表情が色濃くなってきた。
 優心がスリングショットを取り出し、聖別され旧神の力が込められた銀の弾丸をつがえるが、撃てない。目で追うだけで精一杯な二人の戦いに割って入ることができなかった。
「星河っ! どうすれば?」
「どうしろって言ったって」
 一般人である星河は屍鬼切り無しでこんな戦いに入っていけるわけがなかった。

 ――まだ諦めるには早いですわ主様。
「屍鬼切りっ! しゃべれるのか?」
 ――刃を少し欠いた程度で無力化できるほど、この名刀屍鬼切りは甘くないんでありんす。とりあえずはあの食屍鬼から妾を取り返してください。
「でもっ! どうすれば?」
 食屍鬼にただぶつかって行っても捻りつぶされるだけだ。何か策を練らなければ。

「この女の人の声……刀がしゃべっているの?」
 ――しかり、妾は名刀屍鬼切り、妾を奴から取り戻すには娘……汝の助けが必要、主様と連携れんけいを取ってもらいます。
「うん、屍鬼切りちゃんよろしく、で……どうすればいいの?」
 優心はもう自分を取り戻している。星河もぼさっとしてはいられない、今は戦わなければならない時だ。

 ――あの半人半鬼の娘、そろそろ限界のようですね。
 その時甲高い金属音が鳴った。食屍鬼の左のかぎ爪をナイフで受けたのだが、そのナイフが折れてしまったのだ。
 すかさず悟志の右の拳が知恵の鳩尾を打つ。
 知恵の細い身体が打たれたボールの様に舞った。そのまま壁に叩きつけられ、ぐったりと崩れ落ちた。

「さあ……勝負はついた、優心ちゃん抵抗してももう無駄だよ」
 じり……と悟志は優心ににじり寄る。
「まだ終わってないよ……おじさんはあたし達が止めるんだから」
「出来れば俺は優心ちゃんを傷つけたくない、このまま逃がしてくれ」

 優心がスリングショットのゴムをぐっと引き絞る。
 ――今です、鞘で印を切ってください、形はこうです。
 星河の視界に五芒星の様な印が現れる。
 ――それをなぞってくださいまし。

「うっ……うん」
 慌てて鞘で印を切る。
「無駄だっ!」
 悟志が優心に迫る。左のかぎ爪を大きく振りかぶった。
 五芒星の印が燃え上がり炎となると、優心のスリングショットの弾が燃え上がる。
「いっけぇぇぇぇっ!」
 燃え盛る銀の弾丸が屍鬼切りを握っている手の甲を撃ち抜いた。

「ぐあぁっ!」
 思わず悟志は屍鬼切りを取り落とした。優心がすかさず屍鬼切りを拾って星河に投げた。
 優心は無防備のまま悟志の前に取り残される。悟志が再度かぎ爪を振りかぶった。

「星河……ごめんね……あたし先に……」
 そして、かぎ爪が振り下ろされた。
 間に合えっ! 間に合えっ!

 屍鬼切りのエネルギーが星河に吸収されて、身体に力が湧いてくる。しかし悟志のかぎ爪は容赦なく優心を襲う。
「間に合えぇぇぇぇっ!」
 ギインと耳をつんざく金属音が鳴った。

 悟志のかぎ爪を星河の屍鬼切りが受け止めていた。
「ありがとう優心……君の勇気に救われた」
 ぐっと刀に力を込めかぎ爪を弾き返す。

「グォォォォッ!」
 悟志が吼える。
「そして悟志さん……これで終わりだ」
 真っ赤に熱せられた屍鬼切りが悟志の腹部を一閃いっせん……致命傷ちめいしょうだった。
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