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第三章︙聖国、地下帝国編
聖国の裏側3
しおりを挟むとある神官SIDE
生まれてから毎日流されるように生きてきた。
子供のときはなにも考えず遊び、神殿の検査で光属性に適性が高い魔力があると診断された。
そのとき、私はそれがなにを意味するのか全く意味が理解できなくて、ただ珍しいものだと思っていた。
その日から、神官の服装をした人達が度々訪れるようになり、私は特別な魔力があるからと神殿で神官になる事を勧められた。
当時、私は神官という役職に悪いイメージも良いイメージもなく、特に断る理由もなかったため神官になることにした。
勿論、神殿で働くので給料はそれなりに貰えるし、聖女様が丁度降臨してくださった時期なので、神殿内も活気に包まれていて私に不満は無かった。
しかし、それも長くは続かなかった。
聖女様が神殿内を一新した後に私は神官になったので、旧体制の神殿を知らずに『綺麗な神殿』しか見てこなかったのだ。
聖女様が旅に出て時間が経てば経つほど、神殿、ひいては聖国から次々と必死に隠してきた綻びが浮き彫りになり始めた。
その中で最も顕著に表れたのが、大神官の裏切り。
いや、裏切りと言うよりかは、元に戻ったと言うべきだろう。
神殿を一新した聖女様だが、大神官は旧体制にいた頃の下級神官らしい。
元々能力が高く、なにより後ろ暗いことが無かったため、聖女様に大神官という役職を承ったのだが、それが大きな間違いだった。
恐らく、聖女様は改革する時に周りの貴族たちの反発を抑えようとしたのだと思う。
賄賂、裏金、俗に言う袖の下を行って手を貸してくれた神官が皆消えたら、他国の貴族達は焦るだろう。
一新したとはいえ、まだまだ未熟な出来だった新体制に上手く付け入る隙を与えないよう、元の神官に重要な役割を与えることにしたと思う。
それを踏まえて今の大神官様が選ばれたと思うが、聖女様がいなくなったことにより、元々の習慣がさらけ出されていった。
聖女様が旅に出て一年経てば、神殿は様変わりしていた。
賄賂は当たり前、治療を施すにも金が必要。
聖女様が考案し実行した『男女公平治療権利』というものも、大神官を筆頭に無視する者が増え始めていた。
街も暗く、夜になれば皆店を閉じ家に籠もる。
怪しい者たちが徘徊し、後ろ暗いめたいことを堂々としていた。
聖女様がいない今、一番上に立つのは大神官。
その大神官がこの有様なのだ。元々人、ひいては大人が変わるのは難しい。
あの時、多少のリスクを背負ってでも聖女様は本当の意味で一新するべきだったのだと思う。
結局、まだまだ下級である私はなにもできずにただ時が過ぎるのを待っていた。
「な……!?なんだ貴様ら!!」
いつもの朝礼を済ませている最中、一人の神官が驚きの声をあげ私は上を見上げると、なんと女神の像に人が乗っていた。
………これは一体どういうことなのだろうか。
「早くこ奴らを捕らえよ!!」
大声で神殿騎士に声を荒らげた神官によって、慌てて女神像にいる子供を捕まえようとしていたが、突然銅像のように動きが止まった。
「お前等如きが主に手を出すなんて………許される行為だとおもっているのかな?」
静かな声で、それでいて激情を込めた目で私達を威圧してくる『彼』は、白銀の長髪を靡かせ、魔法陣も詠唱もなしに魔法を使っていた。
その魔力はとても澄んでいて、自然のモノに近い。
………高位精霊。
どれだけ少なく見積もっても騎士団に匹敵、いや、それ以上の力を保有していると考えられる。
そんな存在に敵意を向けられた私は、恐怖のあまりその場で立ちすくんでしまった。
「ちょっとクロスくん。やりすぎですよ」
声変わりする前の、幼い頃にしか出せない高い透き通った男の子の声が、今にも殺す目線を向けてくる精霊の雰囲気を一変させた。
「でもこの人間達は主を……」
「いーからいーから、とにかくおれに、まかせなさい」
軽快な足取りで女神像から飛び降りた『黒髪』の子供は、私たちに向かって少し申し訳なさそうな顔をして事情説明?を始めた。
「うむ。これは、なんというか………てちがい、そう!!てちがいだ!!たまたまめがみのうえに、おっこちちゃっただけで、べつに、こわそーっておもってないんだぞ!!」
………。
やはり、まだ歳がいっていないからだろうか?
それとも、私の理解力不足なのだろうか?
とにかく、この子の言っていることの意味がわからなすぎて混乱してしまった私は呆然と佇んでいると、大神官が出てきて静かに子供を見据えた。
………不味い。
あれは獲物を観察している目だ。
高位精霊を手懐けている子供だ。上手く操れば強大な力を手に入れられるとでも思っているのだろう。
それでも女神像の上に居た事実が、そしてそれを皆に見られていたということが、幸いな事に大神官の欲望を上手く阻止する方向に働かせていた。
流石にあれだけの不敬なことをやっておいて、自分に利用価値があるからと不問にすることはできないだろう。大神官にはそれ相応の対応が求められる。
しかし、相手は高位精霊を従えた人族。それも黒髪の。
半端な対応をしたら、聖国諸共………なんてことはないよう願いたい限りだ。
「貴方方の意見はわかりました。ですが、貴方方に如何なる理由があろうと女神像を傷付けようとした行為は、当然許される行為ではないことは分かりますよね?」
大神官は高位精霊の威圧に耐えながらも、毅然と自分の意見を突き通した。
………やはりこの子供にはそれほどの価値があるからだろう。
しかし、予想に反して子供はニコリと笑顔で首を傾げた。
「ゆるされないこーい………だれが?」
「だれが、とは?」
突然の問いに疑問を顔に浮かべる大神官。
「だから、だれにゆるされないの?」
「誰?………それは勿論、女神様でしょう。粗相をされて女神様も大層お怒りで……」
「なんでめがみさま、おこってるのわかるの?めがみさまとあったこと、あるの?」
「それは……」
「もしかして、いっかいもない?じゃー、なんでおこるの、わかるの?」
言葉に詰まった様子の大神官に、まだ幼い子供は次々と疑問を言って大神官を押していた。
しかし、目の前の子供が言っていることは割と……いや大分強引な言い分なので、決して馬鹿ではない大神官には、勿論このまま押し通せるはずもなく。
「そんな乱暴な言い分が許されると思って………!?」
大神官が厳しく叱責しようとしたその時、目の前の子供の後ろから、膨大な神力が溢れ出した。
……美しい。
余りの奇跡に見惚れている私に、黒髪の子供は不思議そうに後ろを振り返ってなにかを拾い上げた。
「えー、なにこれ」
「それをさっさと寄越せ!!」
拾い上げた紙をすぐさま大神官に取り上げられ、呆れた目で溜息を吐く子供。
しかし、大神官はそんな行動には一瞥もくれず、食い入る様に紙の中を見つめていた。
紙自体から神聖な力が入り混じっており、それが普通のものなのではないことは一目見たらわかる。
暫くの間じっくりと紙の中を見つめていた大神官は、呆気にとられたような様子をしながらも紙から顔を上げて突然子供の方を振り返った。
「愛し子様、先程は大変失礼致しました。我々神官一同、愛し子様にご挨拶申し上げます」
………い、愛し子、様?
あり得ない、あり得るはずがない。
愛し子様とは、文字通り神の寵児のことである。
聖女や聖者、神子などは、神に遣わされた存在であり愛し子ではない。
愛し子が他と違う理由として挙げられるのは、神に愛されているということ。
違いを分かりやすく例えると、聖者や聖女はここでやるべき使命があるが、愛し子には無いのだ。
只ひたすらに、神の恩寵を受けている存在。
神話時代にも近い存在が居たとされているらしいが、勿論今まで愛し子なんて世界のバランスを崩せるような存在がいるはずもなく、架空上の存在だと思っていたのだが……
神から送られてきた紙に、一体どんな事が書いてあったのか……
余程のことがない限り御言葉を送られない神が、たった一人の人族の為に動いたのだ。
「ちょっとちょっと、クロスくん。このひとたち、めっちゃおかしーぞ。やばいぞ」
少しばかり引いた目で見てくる愛し子様は、不安そうな顔で高位精霊の指を掴んでいる。
「多分主が神に選ばれた子だったことを、神の方から直接言い渡されたんじゃないかな?それにしても凄いね神官って。こんなに鮮やかな手のひら返しが出来るとは思わなかったよ」
そんな愛し子様の様子と反して、高位精霊の視線は更に冷たくなっていく。
「それでは愛し子様、こちらへは何用で訪ねて来てくださったのですか?」
高位精霊の冷たい視線にもめげず、さっきの態度とは真反対の穏やかな声で愛し子様に接する大神官。
「えー……なんか、ここでさがしものを……」
「そうですか!!では、探し物が見つかるまでここにいてくださるということで宜しいでしょうか?」
「………?わかんない」
「それでは暫くの間神殿へと宿泊されては如何ですか?ここならば聖国の情報が一括して届くので、その『探し物』も捗るでしょうし、なにより万が一にも愛し子様を危険な目に合わせられませんので………」
ニコリと微笑んで神殿に宿泊しようと提案する大神官。
勿論、愛し子様のような方に最高の待遇をする準備なんて出来ていない。
ましてや今からすぐに家具や部屋を調えることができるなんて以ての外。
愛し子様を普通の客室に入れようとする大神官に、何人かの神官が目線を鋭くしていた。
嫌がる愛し子様をよそに、大神官のしつこい説得のおかげで結局好意を無碍にできなかったらしい。
客室に愛し子様を案内されたあと、大神官はすぐに祈りを捧げていた神官たちを集めた。
「今のことは他言無用だ。もし外部に愛し子様のことが漏れたのなら、お前達一人残らず首が飛ぶと思え」
……あぁ。
結局、愛し子様を利用する気満々な大神官を横目に、私の気持ちは暗く荒んでいった。
「た、大変です!!」
「何事だ」
下を俯いていた私はハッとして顔を上げると、慌てた様子の騎士が真っ青な顔で息を整えながら、とんでもないことを言い放った。
「く、黒髪の客人が、窓から脱走致しました!!」
「なに!?」
あんな高いところから飛び降りたなんて普通はあり得ない。
こんな事ができるのは……
「チッ……精霊の仕業か。さっさと客人を見つけて保護するよう、全騎士に伝えろ!!」
苛立った様子の大神官は叱責を飛ばし、消えた愛し子様の捜索が始まった。
そして驚くことはまだまだ続く。
「な……!?」
「こ、これは……!!」
空を飛び交う沢山の精霊達。
以前のように活気に包まれた街に、次々と精霊達に捕獲されていく人達。
まるで別世界にいるような光景が繰り広げられていた。
……変わる。
聖女様が降臨された時と一緒だ。
胸の動悸が抑えられない。
ここ聖国は、たった一人の、いや、奇跡の愛し子様により、大革変を迎えたのだった。
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いつも読んでくださりありがとうございます!!
そろそろ前期選抜の時代がやってまいりました。
そう。10代達の戦国時代到来でございます。
私立はもうやった!!という高校もありますでしょうか。
中学校受験生の皆さん、全力を尽くし、気力を尽くし、死力を尽くして頑張ってください!!
我々一堂(一人)全力で応援しています!!
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