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第三章︙聖国、地下帝国編
聖国の裏側2
しおりを挟む「……ふんっ!!」
「なんだぁ?その苛つく態度は」
「……ちっ」
「あぁ?今俺様に向かってなにをやった?」
「……ぺっ」
「……もう許さんこのクソガキ!!なに舐めた態度とってやがる!!」
飛び掛かろうとして周りの仲間に押さえつけられる男には一瞥もくれず、俺は周りをキッと睨みつけて威圧をかける。
本当にもう、イライラしてお行儀の悪い行為が止まらない俺を、すぐ横で心配そうに見つめるクロスは、周りを見渡しながら手を上げて魔法を発動させた。
「なっ!?」
「な、なにをして……!?」
「ちょ!?」
発動した本人は魔法陣どころか詠唱もせずに次々と透明な鎖で縛り付けられていくその光景は、聖国の住人たちに大きな衝撃を与えた。
「お前達みたいな不穏分子はなるべく早く捕まえとかないとね。いくら力が弱い魔族だからって、悪魔、ましてや原初共に知られたら困るんだよ。悪いけど、今回は容赦しないから」
ギリギリと力を込めて魔族達を縛り上げていくクロス。
「おいクロス」
「ん?あぁ。主には少し衝撃的な光景になるかもしれないから、目を逸らしといてね」
「ちがう、ちがう。このまぞく、どこからきたかわかんない。せーじょ、いたのにバレないの、おかしいぞ。しっかりしぼって、それでやってくれたまえ」
精霊王なのにうっかり屋さんなんだから。
情報はしっかり出し尽くした後に処理をしないと、ただの無駄死になるでしょ。
しかも周りには、飢えて痩せ細った子供がいて、明らかに異常な状況だと分かるのに、逃げようとする様子も見せない。
多分、逃げる気力もないんだろう。
子供たちの死んだ目を見て、現実はこんなにも残酷なのかと心に刻まされる。
ここは無法地帯。力の弱い者は搾取されるしかないのだ。
それに年齢や性別は関係ない。
「ふぅ。ここは………おれのほんきを、だすべきとき」
「はぁ?お前がなにできるってんだよ?年端もいかねえ雑魚は引っ込んでろや」
呆れた顔をして俺を見てくる悪者。
クロスにばっか警戒して、俺のことなど眼中にもないかのようなあしらい方に、心が広く優しくすべてを包み込むような暖かさを持つ俺の中のなにかがキレた。
「じゃあ、いくね?」
ニッコリ微笑んで俺は魔力を解放した。
今回は手加減無しの魔法だ。
こんな奴等に慈悲なんて要らない。せっかくレイナさんがくれたチャンスを逃してこんなことしてるやつに、他人から情けをもらう資格はない。
「………え?」
「な……なにあれ」
ぐふふ、さぞかし驚いているであろう悪者を眺めていると気持ちがいいな。
俺を中心にパキパキと音を立てて広がっていくいく魔法に、周囲の人達は慌てて後退る。
名前は、どうしようかな?
新たな魔法を生み出した場合名前は重要な役割を果たす。
名前によってどんな魔法現象を起こすのか『理』、ひいては『世界』に認知させるためだと俺は考えている。
ちょっとばかし難しそうな事柄なので俺も深く追求はしてないけど、つまり、名前を決めれば魔法が使いやすくなる感じだ。
そんな事を考えているうちにも、地面を伝って容赦なく広がっていく魔法に逃げ惑う悪者達。
「うん。きめた」
俺は手を上げて掌に魔力を収束させる。
「氷結世界」
名が『理』に組み込まれると同時に、俺は魔力を練り上げ氷の壁を創りあげた。
「こ、ここから出して!!」
「誰か魔法を使える者はいないの!?」
「だ、駄目です!!この氷の壁、魔力密度と精密度が高すぎて解除できません!!」
それはそうだろう。
嫌な感じを感じ取れる人達、まあ、人に偽装した魔族だろう。
そういう魔族たちは事前にクロスが縛って押さえてくれているし、恐らく偽装した魔族が力の実権を握っていただろうから、ここに俺の魔法を解けるやつなんてまずいないだろう。
俺は自分を中心に広がり渦巻く氷を加速させ、悪者達をどんどん凍りつかせていく。
「な、なんであんた私達にこんなことするのよ!?ちょっと脅かしたのは謝るわ!!でもこんな酷いことする程なの?」
………は?
「いや、たしかに、あんたべつにそんなひどいこと、してないな」
「じゃあ今すぐその魔法を止め……」
「でも、ここのこどもは、なんでこんなボロボロ?」
「そんなの知らないわよ!!さっさとこの魔法を止めて!!」
逃げ惑いながらキーキーと喚き散らす女を冷たく見据えて俺は今の現状を吐き出した。
「あのこども、かおにきず、できてる。あっちのこどもも。おまえたちが、あのこたちに、ぼーりょくしたんだろ!!」
ここは異世界。元の世界とは根本的な常識が違うんだ。
魔力や身体強化などによる個人の能力あるお陰で男尊女卑はあまりないけど、その一方で力の格差というのがより顕著に現れるようになっていた。
人を傷付ける者は、傷付けられる覚悟を持って貰わないとな。
いつの間にかキーキー喚いていた女も凍りついていて、残っているのは呆然としている子供達とクロス達だけになっていた。
「…………うん。主を本気で怒らせることだけは辞めようと思う。『世界』にまで干渉して攻撃してくるなんて、もう無理。死んじゃうね」
………失礼な。
「ふん。あんしんしろ、もちろんころさないぞ。きちょーな、ろーどーりょくが、なくなるのは……もったいない、だろ?」
「鬼畜すぎるね主………」
これでここら辺の悪者は一網打尽にできたし、今から後始末をしないと。
「………ねえ。きみってさ、どーして、こんなところにいるの?」
俺は近くの子供に歩み寄ってしゃがみそう聞くと、子供は怯えた様子を見せながら恐る恐るといったふうに口を開いた。
「だって…………おれに、帰る場所なんてない」
「………。」
「ほかにも、ここにいる仲間は皆、帰る場所なんてない。俺達はここで生きていくしかないんだ」
自分の境遇を当然のように受け入れ、諦めたような目で淡々と言葉を紡ぐ子供に、俺は言いようのないムカムカが湧いてきた。
「っ………わかった。じゃあ……おれがなんとかしてやるよ」
「なんとかって………お前が?」
「フフンッ、おれを、だれだとおもってる」
こういう時こそ俺が強気でいないと。
俺はニカッと笑って立ち上がると、クロスにパンを配って貰う。
おれがクロスと出会う前、メッチャ村や街の人達に貢がれていたパンがここでも役に立つとは。
「クロス」
「分かった。………来い」
クロスが呼びかけて数秒後、風の精霊がクロスの目の前にパッと現れた。
「ただいま参りました、精霊王」
「うむ。ちょっと、すごいたくさんの、やさいとおにく、もってきて」
「かわっ!?………かしこまりました、契約者様。私、神速で持ってきてまいります」
ヒュンッと消えた精霊さんにバイバイと手を振って、おれは下準備を始めた。
でっかい鍋を出して………一応神様から貰った調味料を出せる魔法瓶とかあるから、食材さえあれば料理は作ることができる。
「ただいまお戻りしました、契約者様。沢山と言われたので一応これくらい持ってきたのですが、宜しいでしょうか?足りなければもう少し補充いたしますので……」
目の前には沢山の野菜と、これまた沢山の魔物があった。
そしてそれらを運んできた精霊さん達も、いつの間にか沢山増えている。どういう団結力だこれは。
「君達、僕の命令には義務的に従うのに、主のお願いになると全力になるね。………ううん。いいんだよ。主は可愛いから仕方がないんだ……」
なんかクロスがボソボソと精霊さん達と話しているけれど、俺はまさかこんなに早く食材が集まんなんて思わなかったため、慌てて料理を開始した。
「君達、主の補佐をして」
「「「かしこまりました」」」
クロスの言葉にビシッと敬礼する精霊達。
「おてつだい、おねがいして、いい?」
「もちろんです契約者様!!私達一同何でも致します!!」
「なんでもお申し付けください。全力で取り掛かってまいります!!」
「噂には聞いておりましたが、実際に見ると素晴らしく可愛い姿の契約者様ですね!!魔力もとても豊潤で美しく、虜になってしまいました!!」
まるで推しに声をかけられたかのように嬉しそうに返事をする精霊達。
「えー、それでは、だいにかい……おりょーりだいさくせん、かいし!!」
精霊達による壮絶な料理作戦が幕を開けた。
グツグツと音を立て、温かな香りが辺りを満たす。
中は沢山の野菜と肉がたっぷりあり、具からギュッと旨味を凝縮されたスープがキラキラ光っている。
「………よっし!!できた!!」
でかい鍋で熱々の野菜スープが完成した。
他に後六つ程同じ大きさの鍋でストックを作っておく。
美味しそうな匂いにつられて寄ってきた子どもたちに、俺は精霊さん達と協力して次々と皿によそっていく。
因みに食器は飲食店の方から善意で貸し出してもらっている。街の人達に優しい人がいる………案外、まだ聖国も捨てたもんじゃないのかもしれないな。
いつの間にか街の人達も出てきて協力してくれるようになっていて、さっきまでとは違う温かい雰囲気が流れていた。
「ありがとうございます、黒髪のお方。こんなに街が活気づいたのは、聖女様のとき以来です。心から感謝もうあげます」
「いーえ、こまってるひとは、たすけるのが、あたりまえだ。おれはかっこいーから、りっぱにたすけられるんだぞ」
「そうですか。こちらとしても、改めてお礼を言いに参った次第です。まさか、こんなに小さい御方が助けてくださるなんて、夢にも思いませんでした」
少し涙ぐみながら感動する街の人達。
余程辛かったのだろう、聖国がどうしてこんなことになってしまったのかはしらないが、こんなの放っておけない。
だから………今から、俺は俺のしたいようにやる。単なる俺の偽善かもしれないし、こんなのに時間を費やすなんて無駄だと馬鹿にしてくれたっていい。
今の俺には、この現状を変えられる力があるはずだから。
「ねえ、せーれーさんたち、おねがい、あるの」
俺は息を吸い込んで頭を下げた。
「いまから、わるいやつら、たおしてきてくれる?たたかうの、いやなら、ことわっていー……」
勿論危ないことだって分かってる。
でも、聖国全体を変えるのは俺たちだけじゃあ無理だ。時間がかかりすぎる。
だからこれは精霊さんたちの意思に委ねようと思う。
大変だけど、どうか俺達を助けて欲しい。
そう思って頭を下げたダイキ。
そしてお察しのとおり、そんな言葉を無碍にする精霊なんてこの世界にいるはずもなく……
「「「わかりました今すぐ行って参ります!!」」」
神速で消えていった精霊さん達と、ストック鍋を渡して身寄りがない子供達への食料補給の精霊たちも嬉々として行ってくれた。
「せーれーさんって、とーってもやさしいな」
「………多分、主の『お願い』に興奮して暴走してるだけだと思う………あの精霊たちの顔、例え己が消滅してもやり遂げる!!って顔をしてたよ……」
後に精霊大革命と呼ばれる、一人の異世界人により精霊達による聖国への洗礼が幕を開けた。
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いつも読んでくださりありがとうございます!
【氷結世界】
すべてのモノを凍りつかせる魔法。
発動者の意思により制御できる。
発動者の魔力が続く限り永久的に侵食することができる、まさに氷結した世界を実現することができる魔法。
『理』を行使し、かつ魔素を操る特別な魔力を持った大輝しか行使することができない。
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