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消えたイスリスと勇者
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「陛下!殿下!!大変です!」
タリスマン王国の宮殿では朝からばたついていた。
かんかんかん、と兵士たちの鎧の金属音が響く。
「何事だ。」
「イスリス殿下が消えました!!」
「えっ⁉」
「なんだと、見張りも置いていたはずだ…。」
「それが、見張りが食事を受け取りに行った一瞬で…。」
「馬鹿な…。イスリスにはあの場所から逃げられるほどの力はない。魔法も剣も大したことはなかったからな。」
「お父様、一瞬で牢屋から出られるなんて……、それほどの腕のある魔術師でイスリスを逃がしたい者なんて…。」
あれほど醜態をさらし、真実が露呈した今、イスリスは軟禁されていた方がまだ幸せなのに。
「…………うぅん。アイツの派閥にそれほどの手練れがいた覚えはない。ならば、俺への怨恨、か…。」
「大変ですっ!」
また新しい兵が血相を変えて走ってくる。
「ローゼ=ワイズマン様が行方不明になりました!」
「えっ……ローゼが…!!?」
そんな馬鹿な。
ローゼが急に消える理由なんてどこにもない。
でも、僕じゃあるまいし、ローゼほどの者が拐かされるだろうか…………。
何が起こったんだ。
「同じようなタイミングで…。これは何かある。アーサー、ちょっと来い!」
父に連れられて向かった先は、母の宮だった。
父の寝室から進み、母の宮のエリアにある隠し部屋は、不思議とカビ臭くもほこり臭くもなく、窓もないのに明るく、清浄な雰囲気を纏う。
「俺が何回かやり直しているといったが、ここまで時間を進めたことはない。だから、俺にも未来は分からない。ここは聖女の祈りの間だ。ここで祈れば何か分かるかもしれない。」
「聖女…………。僕に出来るでしょうか。」
「これまでのお前は、今ほど聖女の力を目覚めさせていなかった。今のお前なら、もしかしたら。だが、気負うな。捜査も継続中。情報が少ない中、できたらもうけだ。やってみてくれ。」
目を閉じて、祈る。
ローゼはどこに…………。
「………………………う。」
えっと、確か。
俺はスパイスに呼び出されたんだ。
あいつと俺は、確かに『運命の番』だった。
だからだろうか、愛してはいなくてもどこか甘かったのかもしれない。
『きちんと心の整理をつけるために最後に話をしたい。』と言われて………。
頭が痛い……。
冷たい床に転がされ、体には毛布が掛けられているが、腕や足は縛られているようだ。
香辛料の匂いがする。
さては、ここはビリヤニ伯爵の所有する倉庫の一つかもしれない。
俺としたことが油断した。俺はオメガなんだから、会うにしても人目のあるところで会うべきだったし、飲み物にも気を付けるべきだった。
どれだけ時間が経過したんだろう。
アーサーは泣いてないだろうか。
(早く帰らなきゃ…。)
「ウインドカッター!」
力を加減して、体すれすれに自分に風の刃をあて、はらりと拘束を解く。
(まずは薬を飲まないと…!)
何日経過しているか分からない以上、服薬しなければ、危ない。
体を弄れば、薬を持ってはない。
入れた覚えのあるポケットからは、薬が綺麗に抜かれていた。
(ヒートコントロール薬を奪われたのか…⁉…………くそっ。)
カタッと扉の方から音がする。
誰か来たらしい。
おそらく、スパイス=ビリヤニ本人だろう。気配は一人分。
そして――――――酷く鼻孔につく、甘い香りが濃く、俺に纏わりついた。
タリスマン王国の宮殿では朝からばたついていた。
かんかんかん、と兵士たちの鎧の金属音が響く。
「何事だ。」
「イスリス殿下が消えました!!」
「えっ⁉」
「なんだと、見張りも置いていたはずだ…。」
「それが、見張りが食事を受け取りに行った一瞬で…。」
「馬鹿な…。イスリスにはあの場所から逃げられるほどの力はない。魔法も剣も大したことはなかったからな。」
「お父様、一瞬で牢屋から出られるなんて……、それほどの腕のある魔術師でイスリスを逃がしたい者なんて…。」
あれほど醜態をさらし、真実が露呈した今、イスリスは軟禁されていた方がまだ幸せなのに。
「…………うぅん。アイツの派閥にそれほどの手練れがいた覚えはない。ならば、俺への怨恨、か…。」
「大変ですっ!」
また新しい兵が血相を変えて走ってくる。
「ローゼ=ワイズマン様が行方不明になりました!」
「えっ……ローゼが…!!?」
そんな馬鹿な。
ローゼが急に消える理由なんてどこにもない。
でも、僕じゃあるまいし、ローゼほどの者が拐かされるだろうか…………。
何が起こったんだ。
「同じようなタイミングで…。これは何かある。アーサー、ちょっと来い!」
父に連れられて向かった先は、母の宮だった。
父の寝室から進み、母の宮のエリアにある隠し部屋は、不思議とカビ臭くもほこり臭くもなく、窓もないのに明るく、清浄な雰囲気を纏う。
「俺が何回かやり直しているといったが、ここまで時間を進めたことはない。だから、俺にも未来は分からない。ここは聖女の祈りの間だ。ここで祈れば何か分かるかもしれない。」
「聖女…………。僕に出来るでしょうか。」
「これまでのお前は、今ほど聖女の力を目覚めさせていなかった。今のお前なら、もしかしたら。だが、気負うな。捜査も継続中。情報が少ない中、できたらもうけだ。やってみてくれ。」
目を閉じて、祈る。
ローゼはどこに…………。
「………………………う。」
えっと、確か。
俺はスパイスに呼び出されたんだ。
あいつと俺は、確かに『運命の番』だった。
だからだろうか、愛してはいなくてもどこか甘かったのかもしれない。
『きちんと心の整理をつけるために最後に話をしたい。』と言われて………。
頭が痛い……。
冷たい床に転がされ、体には毛布が掛けられているが、腕や足は縛られているようだ。
香辛料の匂いがする。
さては、ここはビリヤニ伯爵の所有する倉庫の一つかもしれない。
俺としたことが油断した。俺はオメガなんだから、会うにしても人目のあるところで会うべきだったし、飲み物にも気を付けるべきだった。
どれだけ時間が経過したんだろう。
アーサーは泣いてないだろうか。
(早く帰らなきゃ…。)
「ウインドカッター!」
力を加減して、体すれすれに自分に風の刃をあて、はらりと拘束を解く。
(まずは薬を飲まないと…!)
何日経過しているか分からない以上、服薬しなければ、危ない。
体を弄れば、薬を持ってはない。
入れた覚えのあるポケットからは、薬が綺麗に抜かれていた。
(ヒートコントロール薬を奪われたのか…⁉…………くそっ。)
カタッと扉の方から音がする。
誰か来たらしい。
おそらく、スパイス=ビリヤニ本人だろう。気配は一人分。
そして――――――酷く鼻孔につく、甘い香りが濃く、俺に纏わりついた。
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