2 / 90
こんにちは、異世界。
しおりを挟む
「やった…??か?」
光と揺れが収まり、体に対する違和感も消え、離れから外を見ると、それが『成功』であることが一目瞭然だった。
離れの外は、屋敷の庭ではなく。
まだ日中であったはずの外は暗く。
赤い月が出ている。
「………う、うわぁあ。やった、やったぞ!!ついに俺は異世界に到達したんだ!」
・偶然異世界に召喚されました!
・死んだら異世界に転生しちゃった!
そんな都合のいい奇跡なんて、転がってくるはずがないんだ。
奇跡は自分で起こさなければ。
祖父母も両親もいない世界。
親しい友人も、恋人も、何もない世界なんてどうでもよかった。
だから、子どもの頃からの夢であった『異世界』へ行きたかった。
無謀でも、死ぬまでかかっても。
離れに閉じ込められ、搾取され続ける俺にとって、それがいつしか生きる支えだった。
俺がいなくなり、研究資料もサンプルも離れごと消えて、あいつらは困るだろう。
会社もどうなるか分からないが、それなりにデカい会社だし、どっかの競合会社が買ってくれる。
本当に優秀な社員ならそのまま残れるはずで、俺の研究成果を奪っていたことも何もかもバレて、困るのはきっとあいつらとあいつらの縁故で甘い汁を吸っていた奴だけだ。
国だってあっさり見捨てるだろうさ。
ざまあみろ!
幼い頃、俺は母が語ってくれる空想の話が大好きで、似たような空想小説もよく読んだ。
母は戯れによくできた異世界の言語を俺に教えてくれたものだ。
だから本当は、空想小説家になりたかった。
「うぅ、すごいぞ!自力で異次元の扉を開けるなんて俺はやっぱり天才だな!念のために発電は風力発電や太陽熱発電もできるようにしてあるし、まずはこの世界の環境を調査しなきゃな。危険な動物はいるのか、先住民はいるのか、人類みたいな知的生命体は?後は何より水や食料の確保!」
もしかしたら今は昼なのかもしれないが、月らしきものがあって暗いので、仮に夜だと仮定する。
夜の時間が地球と同じなのかもわからないが、探検は明るい方がいい。
とりあえず異世界転移に備えて備蓄しておいた食料から、宇宙食のレーション食べて寝ることにした!
その頃。
「…………なんだ?あの光は。」
騎士団の2階建ての団長の執務室からは、外が良く見える。
団員も帰宅し、一人で書類を片づけていた団長のカシュー=ナッツは遠くの山の異変に目を凝らす。
令嬢たちに人気の美丈夫は、整えられたプラチナブロンドをくしゃくしゃと崩し、青い眼を見開いて驚愕する。
あれは、神が降り立つ山と言われている霊峰シルヴァニアの麓。
セットが崩れて前に落ちた長い前髪を人差し指でくるくると弄び、考える。
「明日、部下を連れて様子を探りに行くか…。」
まさか、異世界から『転移者』でも現れたというのだろうか。
もしそうなら、わくわくが止まらない。
そう、この世界は稀に異世界へ飛んでしまう者、異世界からやってきてしまう者がいるのである。
地球では、度々『神隠し』と言われた現象は、『それ』だった。
光と揺れが収まり、体に対する違和感も消え、離れから外を見ると、それが『成功』であることが一目瞭然だった。
離れの外は、屋敷の庭ではなく。
まだ日中であったはずの外は暗く。
赤い月が出ている。
「………う、うわぁあ。やった、やったぞ!!ついに俺は異世界に到達したんだ!」
・偶然異世界に召喚されました!
・死んだら異世界に転生しちゃった!
そんな都合のいい奇跡なんて、転がってくるはずがないんだ。
奇跡は自分で起こさなければ。
祖父母も両親もいない世界。
親しい友人も、恋人も、何もない世界なんてどうでもよかった。
だから、子どもの頃からの夢であった『異世界』へ行きたかった。
無謀でも、死ぬまでかかっても。
離れに閉じ込められ、搾取され続ける俺にとって、それがいつしか生きる支えだった。
俺がいなくなり、研究資料もサンプルも離れごと消えて、あいつらは困るだろう。
会社もどうなるか分からないが、それなりにデカい会社だし、どっかの競合会社が買ってくれる。
本当に優秀な社員ならそのまま残れるはずで、俺の研究成果を奪っていたことも何もかもバレて、困るのはきっとあいつらとあいつらの縁故で甘い汁を吸っていた奴だけだ。
国だってあっさり見捨てるだろうさ。
ざまあみろ!
幼い頃、俺は母が語ってくれる空想の話が大好きで、似たような空想小説もよく読んだ。
母は戯れによくできた異世界の言語を俺に教えてくれたものだ。
だから本当は、空想小説家になりたかった。
「うぅ、すごいぞ!自力で異次元の扉を開けるなんて俺はやっぱり天才だな!念のために発電は風力発電や太陽熱発電もできるようにしてあるし、まずはこの世界の環境を調査しなきゃな。危険な動物はいるのか、先住民はいるのか、人類みたいな知的生命体は?後は何より水や食料の確保!」
もしかしたら今は昼なのかもしれないが、月らしきものがあって暗いので、仮に夜だと仮定する。
夜の時間が地球と同じなのかもわからないが、探検は明るい方がいい。
とりあえず異世界転移に備えて備蓄しておいた食料から、宇宙食のレーション食べて寝ることにした!
その頃。
「…………なんだ?あの光は。」
騎士団の2階建ての団長の執務室からは、外が良く見える。
団員も帰宅し、一人で書類を片づけていた団長のカシュー=ナッツは遠くの山の異変に目を凝らす。
令嬢たちに人気の美丈夫は、整えられたプラチナブロンドをくしゃくしゃと崩し、青い眼を見開いて驚愕する。
あれは、神が降り立つ山と言われている霊峰シルヴァニアの麓。
セットが崩れて前に落ちた長い前髪を人差し指でくるくると弄び、考える。
「明日、部下を連れて様子を探りに行くか…。」
まさか、異世界から『転移者』でも現れたというのだろうか。
もしそうなら、わくわくが止まらない。
そう、この世界は稀に異世界へ飛んでしまう者、異世界からやってきてしまう者がいるのである。
地球では、度々『神隠し』と言われた現象は、『それ』だった。
41
お気に入りに追加
1,005
あなたにおすすめの小説
王子!今日こそ貴方様から逃げさせていただきます!
krm
BL
ランヴェルセ王子の幼馴染であり世話係でもある僕、ルセットには悩みがある。
それは、王子が僕のことを好き過ぎるということ。僕はただの従者なのに、彼はまるで恋人に接するかのように接してくるのだ。度が過ぎるスキンシップに耐えられなくなった僕は――。
俺様王子×天然従者のすれ違いラブコメディ!ハッピーエンドです。
*はR18です。
ムーンライトノベルズにも投稿しています。
召喚聖女が十歳だったので、古株の男聖女はまだ陛下の閨に呼ばれるようです
月歌(ツキウタ)
BL
十代半ばで異世界に聖女召喚されたセツ(♂)。聖女として陛下の閨の相手を務めながら、信頼を得て親友の立場を得たセツ。三十代になり寝所に呼ばれることも減ったセツは、自由気ままに異世界ライフを堪能していた。
なのだけれど、陛下は新たに聖女召喚を行ったらしい。もしかして、俺って陛下に捨てられるのかな?
★表紙絵はAIピカソで作成しました。
【完結】売れ残りのΩですが隠していた××をαの上司に見られてから妙に優しくされててつらい。
天城
BL
ディランは売れ残りのΩだ。貴族のΩは十代には嫁入り先が決まるが、儚さの欠片もない逞しい身体のせいか完全に婚期を逃していた。
しかもディランの身体には秘密がある。陥没乳首なのである。恥ずかしくて大浴場にもいけないディランは、結婚は諦めていた。
しかしαの上司である騎士団長のエリオットに事故で陥没乳首を見られてから、彼はとても優しく接してくれる。始めは気まずかったものの、穏やかで壮年の色気たっぷりのエリオットの声を聞いていると、落ち着かないようなむずがゆいような、不思議な感じがするのだった。
【攻】騎士団長のα・巨体でマッチョの美形(黒髪黒目の40代)×【受】売れ残りΩ副団長・細マッチョ(陥没乳首の30代・銀髪紫目・無自覚美形)色事に慣れない陥没乳首Ωを、あの手この手で囲い込み、執拗な乳首フェラで籠絡させる独占欲つよつよαによる捕獲作戦。全3話+番外2話
騎士団長である侯爵令息は年下の公爵令息に辺境の地で溺愛される
Matcha45
BL
第5王子の求婚を断ってしまった私は、密命という名の左遷で辺境の地へと飛ばされてしまう。部下のユリウスだけが、私についてきてくれるが、一緒にいるうちに何だか甘い雰囲気になって来て?!
※にはR-18の内容が含まれています。
※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
クマ族最強の騎士は皇太子に抱かれるお仕事をしています。
セイヂ・カグラ
BL
旧題:王子の剣術担当→閨担当?!
最強の騎士と呼ばれたクマ族ボロルフ。戦争が終わり平和が訪れた国で彼は、王家兎族のレオンハルト皇太子の剣術担当とし王宮で働いていた。穏やかで優しいレオンハルトは、いつも皆に優しく微笑みかける。けれど、ボロルフには一度も笑いかけてくれたことがない。きっと嫌われてしまっているのだと悩む、そんな最中、何故かレオンハルトの閨相手としてボロルフが選ばれてしまう。それもレオンハルト直々の命だと聞いてボロルフは混乱する。
【両片想い】
兎族の王子×クマ族の騎士
【攻め】レオンハルト・バニー:兎族の皇太子、白い髪、立ち耳、176㌢、穏やか、細身、魔法が使える。ヤンデレ、執着気質。
【受け】ボロルフ・ベアルド:クマ族、最強の騎士、焦げ茶髪、丸く短い耳、198㌢、仏頂面、男らしい、ガタイ良し。他人にも自分にも鈍感。
最高の魔術師は平凡な容姿で騎士を志す 【BL】
高牧 まき
BL
ジェフリー・レブルはオメガにして最高の魔法使い。次期王妃とうわされている魔法宮長官だ。
しかしある日のこと、辞表を残してジェフリー・レブルは忽然と姿を消した。
そして同じころ、ジェフ・アドルという名の青年(姿を変えたジェフリー)が、騎士見習いとして騎士団の任命書を受け取った。
そんなジェフリーの騎士団員独身寮の同室は、よりにもよってアルファの同期、リチャード・ブレスコットだった。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
氷の薔薇と日向の微笑み
深凪雪花
BL
貧乏伯爵であるエリスは、二十歳の誕生日に男性でありながら子を産める『種宿』だと判明し、セオドア・ノークス伯爵の下へ婿入りすることになる。
無口だが優しいセオドアにエリスは惹かれていくが、一向にエリスと子作りする気配のないセオドアには秘密があって……?
※★は性描写ありです
※昨年の夏に執筆した作品になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる