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酒田くん
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ルイーダの処罰は秘密裏にその夜のうちに行われた。
当時2歳。
しかも長く洗脳されており、本人が反省していること。
もう罪を犯す意志がないこと。
彼の能力は優秀で、上手く利用すれば国益に繋がること。
何より彼自身が、『罰』を受けていること………。
だから、彼は死刑でもなく、国外追放でもなく、アルファとしての能力を奪われるでもなく、幽閉の身になった。
公爵位は継がず、ゆえに代理にしか過ぎなかった叔母夫婦は公爵邸から出ることになる。
公爵領は王家の直轄となった。
叔母は発狂してしまって、叔父が面倒をみている。
肝っ玉母さんみたいになっているマチルダは叔母を施設に入れ、二人の生活の支援をすることにしたらしい。
前世の記憶がある僕としては、介護疲れで共倒れになるケースもよくニュースで見て知っていたから、専門家の手も借りることを勧めた。
マチルダは叔母のいる施設の支援を行い、叔父は普段、伯爵邸にいて領地経営の手伝いをしながらゆくゆくは孫の世話もするつもりのようだ。
強い女性の夫になった者同士で気があうのか、フィッシュ伯爵とは仲良しになっているみたいだから、舅が同居してもうまくやっていけるかもしれない。
もう二度と会えない弟にマチルダから渡されたのは、彼女が領内で製品化を進めている可愛い女の子のお人形だった。
いわゆる……美少女フュギュアで。
「あんたこういうの好きだったでしょ?お姉ちゃん知っているんだから。欲しいのあったらいいなさいよ。ミリオン経由でなら手紙のやりとりくらいはできるでしょ。お姉ちゃんが作って届けてあげるからね。」
と言いながら、二人は抱き合った。
かんかんかん。
城の隅っこにある塔を登っていく。
騎士たちが入口を見張り、元々重罪を犯した王族を閉じ込めるための場所だから、住むのに不便はない。
檻の向こうで、多種多様な植物に囲まれて研究を始めようとする白衣の青年に話しかける。
13歳の姿をしていた16歳のはずのルイーダは、今、22歳くらいの大人の姿をしている。
「おはよう、ルイーダ。」
一晩明けて、全く別人のように急に年をとって大人になったルイーダ。
年齢を止めていた反動で止めていた年数の倍、年をとるのだそうだ。
このくらいの年齢で落ち着いてよかったと言っていいのかどうかわからないけど。
確実に寿命は減ったのだろう。
檻越しで話をするだけなのに、心配したカナリアは僕のすぐそばにいる。
「おはようございます。」
「ねえ、僕。聞きたいことがあるんだけど。ルイーダって酒田君だよね!?」
「サカタ?誰ですか?」
「だって、僕の手作りサンドイッチを食べて様子が変わったから。酒田君だけだもん、前世で僕のサンドイッチ食べたのは。」
「…………知りません。僕はここで、みんなのための研究をします。それが僕の償いです。だからグロス司教をどうか。お願いします。」
ああ。分かった。
「うん。約束するよ。君をここから出せないけど、こうして檻越しにたまには話をしよう。ゲームくらい、一緒にしようよ。」
「………はい。」
塔の壁は薄ら寒くて、声が反響する。
グロス司教。
誰なんだろう。
いや、なんとなくわかる。
酒田君があそこまで言う人。
間違いなく、あの人なんだろうと思う。
僕を駅のホームから突き飛ばした、あの人。
ふわっと、コートが僕にかけられる。
「前世はともかく、今はミリオンは私の婚約者で妻になるんだからね。片付いて、式をあげたら、旅行に行こう。世界中冒険して、悪い奴らをやっつけて。そうして暴れて笑っているのが私たちらしいと思わない?」
いえてる。
当時2歳。
しかも長く洗脳されており、本人が反省していること。
もう罪を犯す意志がないこと。
彼の能力は優秀で、上手く利用すれば国益に繋がること。
何より彼自身が、『罰』を受けていること………。
だから、彼は死刑でもなく、国外追放でもなく、アルファとしての能力を奪われるでもなく、幽閉の身になった。
公爵位は継がず、ゆえに代理にしか過ぎなかった叔母夫婦は公爵邸から出ることになる。
公爵領は王家の直轄となった。
叔母は発狂してしまって、叔父が面倒をみている。
肝っ玉母さんみたいになっているマチルダは叔母を施設に入れ、二人の生活の支援をすることにしたらしい。
前世の記憶がある僕としては、介護疲れで共倒れになるケースもよくニュースで見て知っていたから、専門家の手も借りることを勧めた。
マチルダは叔母のいる施設の支援を行い、叔父は普段、伯爵邸にいて領地経営の手伝いをしながらゆくゆくは孫の世話もするつもりのようだ。
強い女性の夫になった者同士で気があうのか、フィッシュ伯爵とは仲良しになっているみたいだから、舅が同居してもうまくやっていけるかもしれない。
もう二度と会えない弟にマチルダから渡されたのは、彼女が領内で製品化を進めている可愛い女の子のお人形だった。
いわゆる……美少女フュギュアで。
「あんたこういうの好きだったでしょ?お姉ちゃん知っているんだから。欲しいのあったらいいなさいよ。ミリオン経由でなら手紙のやりとりくらいはできるでしょ。お姉ちゃんが作って届けてあげるからね。」
と言いながら、二人は抱き合った。
かんかんかん。
城の隅っこにある塔を登っていく。
騎士たちが入口を見張り、元々重罪を犯した王族を閉じ込めるための場所だから、住むのに不便はない。
檻の向こうで、多種多様な植物に囲まれて研究を始めようとする白衣の青年に話しかける。
13歳の姿をしていた16歳のはずのルイーダは、今、22歳くらいの大人の姿をしている。
「おはよう、ルイーダ。」
一晩明けて、全く別人のように急に年をとって大人になったルイーダ。
年齢を止めていた反動で止めていた年数の倍、年をとるのだそうだ。
このくらいの年齢で落ち着いてよかったと言っていいのかどうかわからないけど。
確実に寿命は減ったのだろう。
檻越しで話をするだけなのに、心配したカナリアは僕のすぐそばにいる。
「おはようございます。」
「ねえ、僕。聞きたいことがあるんだけど。ルイーダって酒田君だよね!?」
「サカタ?誰ですか?」
「だって、僕の手作りサンドイッチを食べて様子が変わったから。酒田君だけだもん、前世で僕のサンドイッチ食べたのは。」
「…………知りません。僕はここで、みんなのための研究をします。それが僕の償いです。だからグロス司教をどうか。お願いします。」
ああ。分かった。
「うん。約束するよ。君をここから出せないけど、こうして檻越しにたまには話をしよう。ゲームくらい、一緒にしようよ。」
「………はい。」
塔の壁は薄ら寒くて、声が反響する。
グロス司教。
誰なんだろう。
いや、なんとなくわかる。
酒田君があそこまで言う人。
間違いなく、あの人なんだろうと思う。
僕を駅のホームから突き飛ばした、あの人。
ふわっと、コートが僕にかけられる。
「前世はともかく、今はミリオンは私の婚約者で妻になるんだからね。片付いて、式をあげたら、旅行に行こう。世界中冒険して、悪い奴らをやっつけて。そうして暴れて笑っているのが私たちらしいと思わない?」
いえてる。
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