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王女殿下の教育係 2
しおりを挟むキラキラと輝く巨大なシャンデリア、深紅の絨毯、音楽を奏でるのは一流の演奏者たち。ここは広い広い王城のダンスホールだ。
緑がかった青い宝石の首飾りと、お揃いのイヤリングがターンするたびに揺れる。ダンスのパートナーはもちろんウェルズ様だ。
真っ直ぐ見ればたくましい胸板と、美しい装飾の騎士団長の正装が目に入り、慌てて顔を上げれば私を甘く見つめる双眸、目のやり場に困る。
「君は妖精のように美しいな……カティリア」
「……ウェルズ様」
私たちが踊りきると、演奏が止まりダンスホールに静寂が訪れる。
響き渡る小さな拍手。
踊っている間は、ウェルズ様ばかり見ていたから気にならなかったけれど、広大なダンスホールの中心に立っているのは私たちだけだ。
(王城のメインホール貸し切り状態で、二人きりで踊る機会があるなんて思ってもみなかったわ)
「こうして二人で踊るなら、美しい君を誰にも見られないから良いな」
「それって、踊る意味あります?」
「つれないな……だが、そんな君も好きだ」
ウェルズ様は演奏家たちや私たちの踊りを見学していたアイリス殿下の視線なんて気にもしていないようだ。
よくこんなにも甘い台詞ばかり思いつくものだとある種の感動を覚えていると、グイッと引き寄せられる。
直後にはトスンッという軽い衝撃とともにウェルズ様に抱きしめられていた。
「……ずっとこうしていたい」
「お仕事中ですよ?」
「ずっと、ずっと、働いている」
ギュウギュウ抱きしめて永遠の別れを惜しむようなウェルズ様。
確かに私たちはこの2週間、王城でしか会っていない。
ようやく白い結婚を解消したのは、もしかして夢だったのではないかと思えてしまうほど……。
「確かにウェルズ様は、働き過ぎだと思います」
「俺とすれ違い続けている、俺以上に働き詰めの君にだけは言われたくない」
「今日は早く帰れます」
「そうか、では俺も何としても早く帰らねば……」
そう言うとようやくウェルズ様は離れて足早に去って行く。よほど時間がないのだろう……。
(アイリス殿下のための教育時間のはずなのに束の間の逢瀬を楽しんでしまったようで申し訳なくなるわ)
けれどアイリス殿下は満面の笑みだった。
「あの、アイリス殿下……」
「少し責任を感じていたの。私が無理にカティリアに教育係を頼んだせいで、二人が会えなくなったんじゃないかって」
「まあ……」
ニッコリ笑ったアイリス殿下の子どもらしい気遣いが可愛らしくて思わず笑顔になってしまう。
(でもアイリス殿下のダンスの練習相手を見つけるのは難しいわ……)
心境の変化があったのか、公に姿を現し始めたマークナル殿下は、ウェルズ様に特訓を受けて魅了の力を自分の支配下に置き始めた。
もちろんいつでも淑女たちからの熱い視線を向けられているけれど、それはわずかに漏れ出した魅了の力のせいだけではないだろう。
儚げで美しくありながら、王族の中でも群を抜いて聡明で最も魔力が強い第三王子……。
彼を王位に、という声も高まっているという。
(けれど幼いアイリス殿下は、まだ魅了の力をコントロールしきれていない)
遠く離れた演奏者たちには魅了の力は届かないようだけれど、近づけばほとんど全ての人たちが彼女の力に操られてしまうのだ。
(誰か同年代で魅了の影響を受けない人を探さなくては……)
騎士団長であるウェルズ様なら、きっと良い案を持っているだろう。
私は手を広げてきたアイリス殿下の求めに応じて抱き上げる。そして屋敷に戻ったらウェルズ様に相談してみよう、と思うのだった。
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