【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら

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第4章

聖女の告白と戦い 2

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 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 ふんわりと、宙に浮かんだ、紫の髪の毛と、金の瞳をした女性。
 普段彼女の姿は、どこか悪役のように見えた。
 だが、豊かな髪の毛を一つにくくり、うすい化粧、魔術師でも最高位を表すローブを纏った今日の姿は、むしろ清廉ささえ感じるものだった。

「ビアエルは、ちゃんと避難指示だしているかしら」

 ぽつりとつぶやいた言葉。
 王都を守ると決めたが、騎士団の力を借りることも叶わず、聖女と守護騎士は、辺境へ行ってしまっている今、ミルとロイドの二人が主戦力となる。

「――――王都の外に逃げても、地獄だわ」

 すでに、王都は360度取り囲まれようとしていた。
 幸い、城壁は高く頑丈だ。
 そうやすやすと破られることはないだろう。

 ロイドは、正門を守り、ビアエルは避難指示を酒場でなじみになったという、冒険者に伝えてくるという。
 意外に、ビアエルは顔が広いようだ。

 それに比べると、家を飛び出し魔術師になったミルは、知り合いがそれほどいない。
 もちろん、不老や美容の研究でビジネスライクな関係を保っている貴族はたくさんいるけれど。

「私の役目は、空からの侵入を許さないことになりそうね」

 地上の魔獣は心配だが、剣聖の称号を持つロイドが、すぐに後れを取るとも思えない。
 おそらく、ビアエルも、自分の身を守りながら、数多くの武功をあげるに違いない。

「別に……美容と不老に魔力を使っているから、魔法を使わなかったわけじゃないの」

 ミルの体には、清廉な印象にそぐわないほど、たくさんの装飾品が身につけられている。

「だって、どう考えても、魔獣は増え続け、この事態は予測できたのに」

 国王陛下や王侯貴族には進言したが、取り合ってもらえなかった。
 だから、ミルはずっと、美容だけに興味があるようにみせて、魔力を魔石に貯めこみ続けていたのだ。

「まあ、おしゃれは好きだけど」

 そうつぶやいた直後、ミルの足元に、紫と金色の蔓薔薇が現れて、魔法陣を形作っていく。
 まるで、魔力を与える魔術師を逃すまいとでもいうように、蔓薔薇がミルの足元に絡みつく。

 その瞬間、周囲は真っ白な閃光に包まれる。
 そして、轟くのは、世界が揺れてしまうのではないかと錯覚するような雷鳴。

 その瞬間、前方に見えていた翼竜の大軍は、翼を動かすことができなくなり、地面へと墜落していった。

「――――それにしても、虫は苦手なのに」

 大きな蛾や羽音で耳が痛くなりそうな巨大な蜂。
 ミルは、再び魔法陣を構築する。
 次の瞬間、胸元に輝いていた、金色の魔石が音を立てて弾けた。

 魔石には限りがある。
 ここまで準備し続けてきたけれど、仲間がここまで分断されるのも、想定外。
 ちらりと正門側に目を向ければ、赤い影がすでに戦いをはじめ、周囲に魔獣が折り重なり始めていた。

 北門側は見えないが、重低音が聞こえてくるところを見ると、ビアエルが何か道具を使っているのだろう。ミルは再び正面に目を向け、今度は竜の形をした炎を、練り上げるのだった。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


「う……」

 夢を見ていた。仲間たちが、泥沼ともいえる戦いに足を踏み入れる夢。

 起き上がろうとすると、背中に手が添えられる。
 まるで、ジェットコースターに、何十回も連続して乗せられた後のように、気分が悪い。

「――――目が覚めましたか。聖女様」
「レナルド様……。私」

 その瞬間、どうして自分が王都に戻ってきているのかに思い当たり、総毛立つ。

「王都は、魔獣は? ミルさんと、ロイド様と、ビアエルさんが無茶してる!」
「……まだ、城門は破られていません。大丈夫ですから」

 私は、あまりレナルド様の『大丈夫ですから』については、信用していない。
 何とか立ち上がる。度重なる転移魔法に、負担がかかっていたのだろう。
 少しの間気を失っていたようだ。

「無理をなさらず……。視察してきましょう」
「それ、帰って来ないフラグです。絶対に一緒に行きます」
「――――ふ。信じていただきたいのですが。俺は強いですよ」
「だから、そういうセリフ言ったらだめです!」

 本当に、レナルド様は、フラグを乱立するのがお好きなようだ。
 まとめて回収されたら、どうするつもりなのだろう。

「……行きましょう」
「ええ、北門のほうが魔獣が少ないようです。ビアエルが集めた冒険者たちが、戦い始めているようです。俺たちは、正門のロイドに合流しましょう」
「わかったわ」

 私の手を、強く握りしめるレナルド様。
 それだけで、力が湧いて、頑張れる気がしてくる。

 ちらりと見上げれば、こんな事態なのにレナルド様が、私に微笑みかけてくれる。
 場違いにも、心臓がドキリと音を立てた。
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