27 / 33
第4章
聖女の告白と戦い 1
しおりを挟むレナルド様の戦い方は、全てのヘイトを自分に向けるものだ。どこか胸が痛くなる。
どうして、全ての魔獣が、レナルド様に向かっていくのかと、以前聞いたことがある。
『守護騎士とは、そういうものです』
その時、平然と答えたレナルド様に、思わず私の涙腺は崩壊しかけた。
でも、今のレナルド様は、守護騎士の肩書がない。
それなら、どうして私にはまったく魔獣の攻撃が来ないのだろう。
不思議に思いながら、再びレナルド様の背中側に忍び寄るスライムを見つけて、魔法障壁を張る。
今度のスライムは、蛍光ピンクと蛍光グリーンのサイケデリックな色合いだ。
スライムと言えば、水色とか銀色という認識があったが、斬新だ。
「どうして、レナルド様にだけ、ヘイトが向くのですか」
「――――え? 聖女様に、魔の手が忍び寄るなんて、俺が許すはずないですよね?」
そういって、少しだけ笑ったレナルド様の横顔に、どこか寒気を感じる。
「そういえば、王都は今頃」
「――――仲間たちに任せていれば、大丈夫です。聖女様に害をなした人間に関しては、その限りではありませんが」
「――――え?」
確かに私の扱いは、ぞんざいの一言だった。
でも、王都にはたくさんの人がいる。助け出した人たちの中には、私に本当に感謝をささげてくれた人たちもいた。
「あなたの大切にしているもの、全てを守ると決めていますから」
それは……。いつも不思議に思っていた。その大切な存在の筆頭は、レナルド様なのに、まるで自分がその中にいないような言い方をいつもすること。
「レナルド様が、私の一番大切な人です」
なぜか空中を蹴り上げて、二段飛びをみせ、自分よりはるかに背が高い、巨大なワームを真っ二つに切り裂くレナルド様。音もなく、砂埃を断たせることなく、ふんわりとその足が地面につく。
「――――え?」
止まることなく戦い続けていたレナルド様が、一瞬呆けたように動きを止める。
私にとってのあたりまえが、まったく伝わっていなかったことに衝撃を受ける。
だって、大好きで、大切で、私の世界で一番重要な人なのに。
「あ、伝わっていなかったんですね」
それは、私の思い込みだ。
自分がこんなにも思っているのだから、伝わっているに違いないという、私の傲慢だ。
「――――そんな」
私がもう一度張った魔法障壁に、ぶつかった巨大な蛾の魔獣。
その魔獣を、シストが尖った爪で切り裂く。
『ちょ! こんな場面で、二人の世界作っている場合じゃないよね? 君たちなんでそんなに余裕なの⁈』
シストの言うことはもっともだ。
「あとで、話を聞かせてください。俺たちは、あまりに秘密主義だったようです」
「は、はい……」
そういうと、レナルド様は、いつもの魔獣を前にしたときの殺気をあたりに張り巡らす。
聖女の称号が、あるのとないのでは、大違いだ。
殺気を受けても何ともない自分が、どこか誇らしい。
『あと、150匹くらい倒してもらえないかな? そうしたら、なんとか』
その瞬間、周囲が、気味の悪い淡い緑の光に包まれた。
『うわぁ……。間に合わなかった』
目の前には、ヤギの頭に、鳥のかぎ爪を持った、魔人が立っている。
今度は、レナルド様は、切りかかることなく、用心深く私の前に立つ。
『――――レナルド』
「何でしょう。信用ならない聖獣様」
『ひどいな……。君が、自分のことを許せる日が来たら、僕のことも受け入れられると思うよ』
「そんな日……。来るのでしょうか」
二人の会話は、とても大事なことを話している気がする。
でも、今はそのことを問いただす余裕もない。
あの時、私とレナルド様の体を侵食した悪意を思い出して、背筋が凍るように冷え切る。
『来るさ。現に今、ようやく僕も、自分のことが受け入れられそうだ』
初代聖女が現れてから、もう千年以上経っている。
人間の寿命では、とてもその境地に到達することは難しいだろう。
「聖女に、戻ってしまったのか……。もし、そのままでいてくれれば、殺さずに済んだだろうに」
「――――どうして、こんなことをするの」
「同じことを聞くのだな」
……同じこと?
シストが、牙をすり合わせて、歯ぎしりする音がした。
つまり、それは初代聖女と同じことを言ったということだ。
「――――何度も封印されて、それでも繰り返すのは、聖女が欲しいから。どうだ? 一緒に来ないか? そうすれば、この世界のすべてを捧げよう」
「――――断ります」
「すげない返事だな。だが、もう彼の世界から聖女が来ることはない。扉を塞いだから。そうであれば、お前を手に入れるか、殺すかしか選択がない」
確かに、聖女はもう来ないという言葉は、前回聞いていた。
もう、私やナオさんみたいな存在が、この世界に迷い込むことはない。
「シスト、聖女様を守れ」
そうつぶやいた、レナルド様が、魔人の元に飛び込んでいく。
美しい装飾が施された、氷のような刃をした剣に、そぐわない乙女チックな桃色の光がまとわりつく。
『言われるまでもないっ。ようやく、彼女との約束が果たせるんだ。絶対に、叶える!』
スローモーションのように、魔人の胸に、剣が刺さっていく。
けれど、魔人は、全く意に介していないように笑った。
「捕まえた」
「ぐっ?!」
私の張った魔法障壁が、数枚のガラスが一度に割れたような音を立てて壊される。
「レナルド様!」
その瞬間、藤色の魔力が、周囲を包み込む。
「――――まさか、中継ぎ聖女だった私が、魔女になってまで、魔人と戦うなんてね」
そこには、白銀の髪をまとめた、一人の年老いた女性が立っている。
でも、藤色の魔力を身にまとったその人を、聖女ではないと言える人なんてきっといない。
「時間を稼ぐわ。王都にお行きなさい」
「ナオさん!」
ふわりと笑った顔には、覚悟が見え隠れしている。
そんなのダメだ。そんな覚悟。
『ナオ……。せっかく、聖女の運命から、逃がしてあげたのに』
「そろそろ、あの人に会いたいなって思っていたところだから」
『そう……。じゃあ、とりあえず、僕も付き合おうかな』
「あら、共闘なんて久しぶりね?」
『君は、歴代でも、優秀だった。中継ぎだなんて、これからの世界で呼ばせはしない』
「ふふ、逃げ出した私に、温情をかけ過ぎだわ」
白い獅子は、確かにほほ笑んだように見えた。
二人の笑顔が、霞んでいく。
体が分解される感覚は、確かに不快だ。
でも、抱きしめられたせいか、二人が一つになるような感覚は、不快だけではない。
『あとでね? 僕のかわいい聖女様』
シスト! ナオさん! そう叫んだ私の声は、たぶん二人には届かなかった。
18
あなたにおすすめの小説
【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。
雨宮羽那
恋愛
聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。
というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。
そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。
残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?
レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。
相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。
しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?
これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。
◇◇◇◇
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます!
モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪
※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。
※完結まで執筆済み
※表紙はAIイラストです
※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)
氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす
みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み)
R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。
“巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について”
“モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語”
に続く続編となります。
色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。
ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。
そして、そこで知った真実とは?
やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。
相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。
宜しくお願いします。
巻き込まれではなかった、その先で…
みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。
懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………??
❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。
❋主人公以外の他視点のお話もあります。
❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。
❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。
【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです
星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。
しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。
契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。
亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。
たとえ問題が起きても解決します!
だって私、四大精霊を従える大聖女なので!
気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。
そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?
悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜
華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。
日本では主婦のヒエラルキーにおいて上位に位置する『医者の嫁』。意外に悪くない追放先……と思いきや、貧乏すぎて患者より先に診療所が倒れそう。現代医学の知識でチートするのが王道だが、前世も現世でも医療知識は皆無。仕方ないので前世、大好きだったおばあちゃんが教えてくれた知恵で診療所を立て直す!次第に周囲から尊敬され、悪役令嬢から大聖女として崇められるように。
しかし婚約者の医者はなぜか結婚を頑なに拒む。診療所は立て直せそうですが、『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画は全く進捗しないんですが…。
続編『悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~』を6月15日から連載スタートしました。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/500576978/161276574
完結しているのですが、【キースのメモ】を追記しております。
おばあちゃんの知恵やレシピをまとめたものになります。
合わせてお楽しみいただければと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる