【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら

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第4章

聖女の告白と戦い 1

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 レナルド様の戦い方は、全てのヘイトを自分に向けるものだ。どこか胸が痛くなる。
 どうして、全ての魔獣が、レナルド様に向かっていくのかと、以前聞いたことがある。

『守護騎士とは、そういうものです』

 その時、平然と答えたレナルド様に、思わず私の涙腺は崩壊しかけた。
 でも、今のレナルド様は、守護騎士の肩書がない。
 それなら、どうして私にはまったく魔獣の攻撃が来ないのだろう。

 不思議に思いながら、再びレナルド様の背中側に忍び寄るスライムを見つけて、魔法障壁を張る。
 今度のスライムは、蛍光ピンクと蛍光グリーンのサイケデリックな色合いだ。
 スライムと言えば、水色とか銀色という認識があったが、斬新だ。

「どうして、レナルド様にだけ、ヘイトが向くのですか」
「――――え? 聖女様に、魔の手が忍び寄るなんて、俺が許すはずないですよね?」

 そういって、少しだけ笑ったレナルド様の横顔に、どこか寒気を感じる。

「そういえば、王都は今頃」
「――――仲間たちに任せていれば、大丈夫です。聖女様に害をなした人間に関しては、その限りではありませんが」
「――――え?」

 確かに私の扱いは、ぞんざいの一言だった。
 でも、王都にはたくさんの人がいる。助け出した人たちの中には、私に本当に感謝をささげてくれた人たちもいた。

「あなたの大切にしているもの、全てを守ると決めていますから」

 それは……。いつも不思議に思っていた。その大切な存在の筆頭は、レナルド様なのに、まるで自分がその中にいないような言い方をいつもすること。

「レナルド様が、私の一番大切な人です」

 なぜか空中を蹴り上げて、二段飛びをみせ、自分よりはるかに背が高い、巨大なワームを真っ二つに切り裂くレナルド様。音もなく、砂埃を断たせることなく、ふんわりとその足が地面につく。

「――――え?」

 止まることなく戦い続けていたレナルド様が、一瞬呆けたように動きを止める。
 私にとってのあたりまえが、まったく伝わっていなかったことに衝撃を受ける。
 だって、大好きで、大切で、私の世界で一番重要な人なのに。

「あ、伝わっていなかったんですね」

 それは、私の思い込みだ。
 自分がこんなにも思っているのだから、伝わっているに違いないという、私の傲慢だ。

「――――そんな」

 私がもう一度張った魔法障壁に、ぶつかった巨大な蛾の魔獣。
 その魔獣を、シストが尖った爪で切り裂く。

『ちょ! こんな場面で、二人の世界作っている場合じゃないよね? 君たちなんでそんなに余裕なの⁈』

 シストの言うことはもっともだ。

「あとで、話を聞かせてください。俺たちは、あまりに秘密主義だったようです」
「は、はい……」

 そういうと、レナルド様は、いつもの魔獣を前にしたときの殺気をあたりに張り巡らす。
 聖女の称号が、あるのとないのでは、大違いだ。
 殺気を受けても何ともない自分が、どこか誇らしい。

『あと、150匹くらい倒してもらえないかな? そうしたら、なんとか』

 その瞬間、周囲が、気味の悪い淡い緑の光に包まれた。

『うわぁ……。間に合わなかった』

 目の前には、ヤギの頭に、鳥のかぎ爪を持った、魔人が立っている。
 今度は、レナルド様は、切りかかることなく、用心深く私の前に立つ。

『――――レナルド』
「何でしょう。信用ならない聖獣様」
『ひどいな……。君が、自分のことを許せる日が来たら、僕のことも受け入れられると思うよ』
「そんな日……。来るのでしょうか」

 二人の会話は、とても大事なことを話している気がする。
 でも、今はそのことを問いただす余裕もない。
 あの時、私とレナルド様の体を侵食した悪意を思い出して、背筋が凍るように冷え切る。

『来るさ。現に今、ようやく僕も、自分のことが受け入れられそうだ』

 初代聖女が現れてから、もう千年以上経っている。
 人間の寿命では、とてもその境地に到達することは難しいだろう。

「聖女に、戻ってしまったのか……。もし、そのままでいてくれれば、殺さずに済んだだろうに」
「――――どうして、こんなことをするの」
「同じことを聞くのだな」

 ……同じこと?

 シストが、牙をすり合わせて、歯ぎしりする音がした。
 つまり、それは初代聖女と同じことを言ったということだ。

「――――何度も封印されて、それでも繰り返すのは、聖女が欲しいから。どうだ? 一緒に来ないか? そうすれば、この世界のすべてを捧げよう」
「――――断ります」
「すげない返事だな。だが、もう彼の世界から聖女が来ることはない。扉を塞いだから。そうであれば、お前を手に入れるか、殺すかしか選択がない」

 確かに、聖女はもう来ないという言葉は、前回聞いていた。
 もう、私やナオさんみたいな存在が、この世界に迷い込むことはない。

「シスト、聖女様を守れ」

 そうつぶやいた、レナルド様が、魔人の元に飛び込んでいく。
 美しい装飾が施された、氷のような刃をした剣に、そぐわない乙女チックな桃色の光がまとわりつく。

『言われるまでもないっ。ようやく、彼女との約束が果たせるんだ。絶対に、叶える!』

 スローモーションのように、魔人の胸に、剣が刺さっていく。
 けれど、魔人は、全く意に介していないように笑った。

「捕まえた」
「ぐっ?!」

 私の張った魔法障壁が、数枚のガラスが一度に割れたような音を立てて壊される。

「レナルド様!」

 その瞬間、藤色の魔力が、周囲を包み込む。

「――――まさか、中継ぎ聖女だった私が、魔女になってまで、魔人と戦うなんてね」

 そこには、白銀の髪をまとめた、一人の年老いた女性が立っている。
 でも、藤色の魔力を身にまとったその人を、聖女ではないと言える人なんてきっといない。

「時間を稼ぐわ。王都にお行きなさい」
「ナオさん!」

 ふわりと笑った顔には、覚悟が見え隠れしている。
 そんなのダメだ。そんな覚悟。

『ナオ……。せっかく、聖女の運命から、逃がしてあげたのに』
「そろそろ、あの人に会いたいなって思っていたところだから」
『そう……。じゃあ、とりあえず、僕も付き合おうかな』
「あら、共闘なんて久しぶりね?」
『君は、歴代でも、優秀だった。中継ぎだなんて、これからの世界で呼ばせはしない』
「ふふ、逃げ出した私に、温情をかけ過ぎだわ」

 白い獅子は、確かにほほ笑んだように見えた。
 二人の笑顔が、霞んでいく。
 体が分解される感覚は、確かに不快だ。
 でも、抱きしめられたせいか、二人が一つになるような感覚は、不快だけではない。

『あとでね? 僕のかわいい聖女様』

 シスト! ナオさん! そう叫んだ私の声は、たぶん二人には届かなかった。
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