職業『精霊使い』に覚醒したら人類圏から追放されました(完結)

夜夢

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第4章 東の大陸編

05 魚人族の守護隊長

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 ついに最後の一人となってしまった守護隊長ララァ。二人は魔王城のあるダンジョンで丸一日語り合った。

「わ、私はまだ認めてないんだからなっ」
「おいおい、甘えながら言うセリフじゃないな。態度と言葉がちぐはぐだぞララァ」

 一度快楽を知ってしまったララァはもう戻って来られなくなっていた。相変わらず口は悪いものの、態度は軟化し、アーレスに抱きついたまま離れない。

「これで全員孕んだか」
「見境なしめ……。だ、誰が一番良かったのだ?」
「ララァ」

 アーレスは真面目に答えるのも面倒だったので適当にララァの名を口にした。

「バ、バカ者めっ! う、嬉しいがそこは長様と答える所だろう! 嬉しいが……」

 よほど嬉しかったのか、ララァは嬉しいを二回口にした。そして抱きつく力も強くなり、膨らみがより強く押し付けられ、形が変わっていた。

「さてララァ。ちょっと離れてもらえるかな?」
「え? わかった」

 アーレスはララァを離し水中に向かう。

「なにかするのか?」
「ああ、家を作らないとな。家の造りは里と同じで構わないよな?」
「家を作る? 一人でか!?」
「まぁな。とりあえずやってみるか。閻土魔法【アースクリエイト】!」
「な、なにぃぃぃぃぃっ!?」

 アーレスが指定した範囲の土が壁を作り、やがて天井が出来上がる。四角い豆腐のような建造物だが、里にあったおんぼろだった家々より立派な造りだ。

「い、一瞬で家が完成した……だと!?」
「ララァ、中を確認してみてくれ。何か意見があったら取り入れるからさ」
「あ、ああ」 

 ララァは戸惑いながら完成した家の中に入り造りを確認し戻ってきた。

「全く問題はない。だが……長様の住む屋敷だけはもう少し立派なものにしてもらえるとありがたいな」
「わかった。ならミューズの家だけはもうちょっと工夫してみるか」

 そうして完成したのは宮殿のような家だった。柱や入り口の装飾はローマ式を取り入れ、他とは一線を画した建物が完成した。

「素晴らしい! これなら長様も満足されるはずだ!」
「そうか? 広すぎて落ち着かないと思うんだが」
「そんな事はない。なにせこれからどんどん増えるだろうからな」
「ああ、多卵性だったな、そう言えば……」

 そんな時だった。ララァの腹から可愛い音が響いてきた。

「ち、違うぞ!?」
「あれだけ激しい運動を繰り返したからなぁ。腹も減って当然だろ」
「うぅぅ……。ちょっと魚獲ってくる……」

 アーレスはそう言い離れようとしたララァに声を掛けた。

「ララァ、ちょっと多目に獲ってきてくれるか?」
「え? ああ、わかった。アーレスも食べるんだな?」
「ああ」
「よし、任せろ!」

 そして魚を獲りに向かったララァを見送り、アーレスは浅瀬に移動した。

「やはり生はきついからなぁ。ここにテーブル席を作ってと……」

 人魚は陸に上がると弱体化してしまう。だがここに敵対成分はいないため、陸に上がった所で何ら問題はない。

「あとはキッチンだな。釜戸と……面倒だな。ちょっとキッチンセット買いに行ってくるか」

 一から作るのは面倒だと思ったアーレスはベネフィット王国に転移し、ある男を訪ねた。

「な、なんじゃあぁぁぁっ!?」
「ようサウス。久しぶりだな」

 アーレスはかつて救った食堂の件で迷惑をかけていたサウス・シルヴァのシルヴァ商会に乗り込んだ。

「に、兄ちゃんはあの時の──! な、何しに来たんじゃ」
「買い物だよ買い物。お前んとこ商会だろ?」
「か、買い物やて? それだけか?」
「そうだが?」

 サウスはどこか安堵した表情でソファーに腰を下ろした。

「何が欲しいんや。武器か? 奴隷か? それともまさか薬かい?」
「キッチンだ」
「……は? な、なんやて?」

 サウスは我が耳を疑いもう一度聞き返した。

「キッチン? キッチン!? あ、アホかいな! そんなモンわしの所以外でも買えるやないかい!」
「他に商売人の知り合いがいなくてな。お前んとこ商会だろ? キッチンセットくらい扱ってんじゃねぇの?」
「はぁぁ……。なあ、兄さん。わしぁの、兄さんにいてこまされとんのやで?」
「また痛い目見るか? どうせ悪どい事してんだろ?」
「さあ、どれにしましょかー」

 サウスは慌ててデスクからカタログを取り出しテーブルに並べた。

「そうだなぁ~……」

 数分後、アーレスは最新型のシステムキッチンセットや他諸々を空間収納に放り込み、サウスの店の前に立った。

「兄さん、こんな事は今回限りに──」
「また来るわ。次も格安で頼む。じゃあな」

 そうしてアーレスは転移ゲートを開きダンジョンに戻っていった。サウスはアーレスの消えた跡を見ながら叫ぶ。

「次? 次やと!? わしぁ泣いてる子どもももっと泣く鬼のサウス・シルヴァやど!? これじゃあ泣いとるのはわしやないかいっ!! あの外道がぁぁぁ……っ! 二度と来んなボケェェェェェッ!!」

 そう言い、地団駄を踏むサウスであった。

 そしてダンジョンへと戻ったアーレスは湖畔にキッチンセットを設置し、ララァを待つ。

「大漁だ! 見てくれアーレス──ってなんだそれ!?」
「キッチンだ。やはり生魚はちょっとな」
「美味いのに……」
「どれ、魚をくれ。俺が調理するからララァは座って待っててくれるか?」
「ああ。しかし……落ち着かんな」

 ララァは椅子に腰掛けながらそわそわしていた。やはり水中でないと落ち着かないようだ。

「ここに敵はいないんだから落ち着けよ」
「わ、わかってはいるが……な」

 アーレスは落ち着かないララァを他所に、魚を一口大に捌いていく。そしてサウスの所から仕入れた醤油を皿に入れララァに出した。

「おぉ~……美味そうだ!」
「渇くから先に食べててくれ。切り身を醤油につけてな」
「いただきますっ!」

 ララァは物凄い勢いで刺身を胃袋に流し込んでいった。そしてアーレスは三枚におろした切り身をオーブンに放り込み、焚き火に塩をふった魚を串に刺し立てる。

「ん? どこからか良い匂いが……!」
「焼き魚だよ。俺にはこっちの方が馴染み深いからな」
「焼き魚!? それはどんな味がするのだ!?」
「もうちょっと待て。すぐに焼けるから」
「早く早く!」

 かなりの量を捌いて渡していたが、すでにララァの皿は空になっていた。そして待つ事数分、先に塩焼きの魚が完成した。 

「ほらよ、熱いから気を付けて食いな」
「うむ! では──!」
「あ、おいっ!?」

 ララァは出来立ての塩焼きに勢いよくかぶりついた。

「あぁぁぁぁっついぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
「だから言っただろうが!?」
「熱い……熱いが美味いっ! 塩加減も焼き加減も絶妙! これが料理というものか! 美味いぞぉぉぉぉっ!」

 水中では火が使えないため、人魚は料理をせず、これまで原始的な狩猟生活をしていた。そのため、初めて口にした魚料理に感動してしまったようだ。

「美味い……美味いぞ! 皮のパリパリ感が新鮮だ! 身もホロホロで最高の味付けだ!」
「食いすぎだ! 俺の分は残せよ!?」
「もっと獲ってくる!」
「あ、おいっ!?」

 ララァは素早く水中に潜り魚を獲りに向かった。

「あ、オーブンのやつできたな」

 そうこうしている間にオーブンの魚が焼き上がり、アーレスは身をほぐしながら醤油をかけ口に運んだ。

「……美味い! 魚が新鮮だからか? これならまだまだ食えるな!」
「戻ったぞ──って何を食べている! 私にもよこせ!」
「食いすぎだお前ぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 それから更に追加で焼き魚を与え、ようやく満足したララァだった。

「ふぅ……美味かったぞアーレス」
「俺……そんなに食ってないのに……」
「料理とは素晴らしいものだな! これは是非とも長様にも召し上がっていただくべきだ! アーレスはみんなを迎えに行ってくれ。私は魚を集めておく!」
「あ、おい!?」

 ララァは再び水中へと消えて行った。

「……行くか」

 アーレスは魚の骨をゴミ箱に捨て、里に戻るのだった。
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