僕の名前を

Gemini

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枸櫞の香り

第十三話

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 一日中考えて、今夜はオムライスにすることにした。

 いつものスーパーに寄り、卵と玉ねぎと鶏肉をカゴに入れていく。家にストックがありそうだが無いと困るから念の為ケチャップも棚から取る。

 あとは、巴が真っ直ぐ家に帰ってるかどうかだ。帰りが遅いことも考えられるしカケルとごはん食べてくるなんてこともあり得る。あまり期待しないで帰ろう。



 玄関ドアを開けると巴のローファーがあって俺は安堵のため息をついた。

「巴! ただいま!」

 玄関で大きな声を出す。どこに居たとしても聞こえる声で。巴はリビングにいた。

「ごはん作るね」
「……」

 気まずそうな顔をしているが、家に居るんだから全然いい。買い物袋をキッチンに置いて一旦着替えて戻るとその買い物袋の中身がカウンターに広げられていた。

「鶏肉は冷蔵庫入れた」
「うん、ありがとう」

 米を炊飯器にセットし玉ねぎをみじん切りにする。 

「目ぇ、痛い」

 カウンターの向こうにいる巴が目をこすった。

「切ってない巴が目痛えの?」
「逆になんでお前は目痛くないの」

 可笑しくて笑うと巴も涙を流しながらくだらないと笑ってる。

 玉ねぎと鶏肉をフライパンで炒めてごはんを入れてケチャップを投入する。

「もしかして」
「ん?」
「オムライス……?」
「うん」

 巴が微笑んだ。今までにないくらい、花が咲いたように笑うってこういうことだ。

「卵は? どういうのがお好み?」
「どうって?」
「薄焼き卵で包むのか、半熟トロトロか」
「両方いけんの?」
「まかせろ~」
「え、どっちかな、薄焼きかな」
「うん、分かった」

 こどもみたいに目がキラキラしてる。

 単に好物なのか家庭のオムライスを知らないのか、真意は分からないがこんな笑顔にさせるオムライスは正義だ。


「はい、おまちどう」
「えっ!!」

 巴は「ゲッ!」という顔をした。
 オムライスにはケチャップで書いた『巴LOVE』。

「お前、ふざけるなよ」
「はい! いただきまーす」
「……いただきます」

 渋々恥ずかしそうにLOVEという文字から崩して食べる。

「うわ、チーズ伸びた」
「この前のドリアで余ったチーズ入れた」
「すげ。毎日オムライスでもいい。マジで」
「明日もオムライスがいい?」
「あ……、でも」

 勢い良く進んでいた手が止まった。

「どうした?」
「また、親子丼作ってほしい」
「うん、良いけど」
「昨日をやり直したい」

 そう申し訳なさそうに、でもそれを誤魔化すような表情が強く胸を打つ。

「……変わってるね、巴」
「駄目か?」
「駄目じゃないよ、巴が食べたいもの作るって約束したろ」

 俺に悪いと思ってたんだ。そんなこと全く思わなくていいのに。知りたいのはヤキモチを妬いてくれたのかそれだけだよ。



 巴が風呂を用意してくれて先に俺を風呂に入れてくれた。巴と入れ違いに風呂からあがるとキッチンはキレイに片付いていた。
 思い返せば巴の部屋は、与えられた家具以外になにも置いていなかった。本も床に置いていたほど。物欲がないのか、無頓着なのか。……でも掃除は好きなようで毎日掃除機かけてる。

 二人の部屋と繋がるバルコニーに出て夜風に当たっていると巴の部屋の窓に電気が付く。

「ここにいたのか」

 首にバスタオルを巻いた巴がバルコニーに出てきた。

 前髪が後ろに上げられていていつもは隠れている額が見える。巴はバスタオルで雑に髪を拭くとクシャクシャになって鳥の巣みたいになった。

「絡んでんじゃん」
「すぐ直るし」

 その鳥の巣をほぐしてやろうと巴の後ろに回ってその髪に触れた。細くて艶があって指に絡めてもスルリと解ける。

「シャンプー、俺と一緒?」
「うん」
「俺の髪と全然違うね、巴のキレイ」
「……」

 バスタオルを首からスルリと取り上げると物干し竿に軽く掛けた。目の前に巴の細く色っぽい項が現れる。

 気づけばまた背中に身体をくっつけていた。

 いつもは俺より低い体温が、風呂上がりで巴の背中が温かい。もっとその熱が欲しくて頬もピタリと貼り付け1ミリでも多く密着させた。するとキツく抱きしめる俺の腕に巴の手が添えられて、俺はその手を上から包むとそれごと抱き直した。

 なんで、巴の匂いを嗅ぐと泣きそうになるんだろう。ひとつ啜り上げると強く巴の匂いがして項に唇を押し当てた。

 何度も何度も項に吸い付いて耳たぶも耳裏も甘噛みして巴を味わう。

「おまえ、男……好きなのかよ……」

 俺のキスマークだらけになってる巴が息を弾ませている。

 俺にも分からねぇ。
 男の項に欲情してるなんて。

「彼女いるん、だろ……」

 俺は巴をさらに強く抱き寄せ、顔で強引に巴を上に向かせると巴の喉仏を口に含んだ。

「んぁっ……………」

 逃げられないように片手で後ろから巴の額を抑えてその喉仏を執拗に舐めた。舐めるというよりまるで狼がトドメを刺しているよう。

「怒ってん、のか?」
「怒ってなんかないよ」
「じゃ……答えろ……あの人は」

「それって、妬いてくれてんの?」
「ちが……っ」

 顔をあげ巴を見ると頬は高揚し赤く染まり目尻から涙が伝い、小さく震えている。

 その涙は、なに。

「俺にも、分からない。……ただ、あんたに欲情してる」





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