僕の名前を

Gemini

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枸櫞の香り

第十四話

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 あの子のことが気になって
 なんで不機嫌なんだろうって
 なんで寂しい顔をするんだろうって

 ついにあの子が泣いていて
 俺の心も泣いた

 笑顔が下手でもいい
 俺が笑わせてやれなくてもいい
 幸せになりますように


 俺の初恋は、あの公園のブランコに置いたままだ

 何故、思い出しているんだろう。



 俺は巴に睨まれて胸ぐらを掴まれている。

 殴られるのか、そうだな、殴ってくれたら目が覚めるのかも。でも俺のTシャツを掴んでいる手は震えていて弱々しい。

 もう一度巴の瞳を覗き込めば睨んでいるのにむしろ色気が溢れて潤んだ涙が光っていて、半身を捻ると今度は両手で俺の胸ぐらを掴みに来る。

 そのままTシャツをグイッと引き寄せられ巴の顔が近づくとその薄い唇が強く押し当てられた。


 巴が俺にキスをした。

 唇と唇がぶつかっただけのそのキスに俺は心臓が握りつぶされたような衝撃を受けた。苦しくて、痛い。
 もっとキラキラしてふわっとしていい気持ちになるんだと思ったが、あまりの痛みに顔が歪む。身体が痛いんじゃない、心が悲鳴をあげてる。

 心ってそんなところにあるんだな。

 もっと欲しい。巴からの熱を。
 俺に与えてほしい。

 乱暴に押し付けられた唇はすぐに離れたが俺はそれを追いかけ吸い付いた。そして細い首に片手を掛け小さな唇に自分の唇を押し当てる。

 閉じられたままの唇を何度も何度も啄んで上を向かせる。だんだん顎が上がっていき、キスを止めると巴はようやく唇を開いてそこから空気を吸い込んだ。親指で薄い唇を撫でると肩で息をしながら潤んだ目が睨んでいる。

 巴から仕掛けてきたのにな。

「おまえ、……んっ」

 巴が口を開くのを狙ってそこに齧り付いた。

「んっ、……ん」

 口端から巴の吐息が漏れる。巴の中は熱かった。親指で下あごを撫でれば口の周りの筋肉が緩んでもっと俺を深く受け入れる。
 俺の胸ぐらを掴んでいた手はいつしか緩み、俺の肩に縋るものに変わってた。キスをしたままその手を握るとすっかり夜風で冷えていて濡れた髪も冷えている。その手を俺の首に回させて巴の腰を抱き上げるとその腕は自然に俺の首に巻き付いた。
 巴の太ももを持ち上げ俺の腰に巻き付かせると、俺は自分の部屋に連れていきそのままベッドに腰掛けた。俺に跨っている巴がすぐに退けようとするが細い腰を抱きしめそうはさせない。

「すっかり冷えてる」

 抱きしめながら巴の首に顔を埋めた。深呼吸して巴の香りを胸いっぱいに吸い込む。

「やめろ……くすぐったい」

 それは良い兆候だな

 俺は薄い掛け布団を手探りで探し当て巴の後ろから掛けてやる。すると包まれている安心感か巴の身体からすっと力が抜けたようになった。よりお互いの身体が密着した。

 巴の首元にキスを繰り返し、耳の側まで舐め上げると巴はゾクゾクと身を震わせる。

「ここ、好きだね」
「それは、おまえ、だろ」
「あぁ……確かに」
「ん、……そこでしゃべんな」
「え? なに」
「んっ、だから……」

 今度はねっとりと舌全体を使って舐め上げる。

「んぁ……っっ」

 わかってる、俺のしゃべる息にまで感じてるんだろ。
 うぶで、何も知らなそうなこの身体。

 どこまで侵していい?

 Tシャツの裾から手を滑り込ませ首まで侵入して背骨に沿って下に指先を這わせると深いため息と共に顎があがる。

 あぁ、巴はもう、俺を受け入れようとしてる。

 俺の腹には巴の下半身が当たっていて俺に興奮してる。

 巴が、俺を欲してる。



「巴」

 俺は両側から巴の頬を包んで吸い付くように長いキスをして掛け布団ごと抱きしめた。

「こうして抱き締めて眠りたい、いい?」
「座ったまま?」

 巴の冗談に少しの間を置いて俺は小さく笑う。肩から力が抜けるように、血がめぐる。

 そうか、俺はこの男に緊張していたんだ。

「そうだね、それでもいいけど?」

 冗談に付き合うと巴も口角を上げる。



「ねぇ、巴」
「ん……」

 巴の声色がかわいい。

「あ、もしかして、眠い?」
「ん」

 すっかり乾いた髪を掬いながら撫でる。

「……なに」
「巴の番号教えて」
「はぁ…? いま聞く?」
「いや、逆にいま」
「明日な」
「うん、約束ね」

 ふっと肩に体重がかかる。






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