僕が玩具になった理由

Me-ya

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ずれてゆくこわれてゆく-優紀の章-

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(…可愛い…)

何も考えず、勢いだけでここまできてしまった事を僕は早くも後悔していた。

喫茶店の中に居る客が-男も女も-チロチロとこちら…僕の前に座っている…人物に視線が集中している。

それ程に目の前にいる少年-愛原雅樹…は可愛くて、綺麗だった。

少し薄茶のくるくるとした巻き毛も、パッチリとしたアーモンドアイの二重も、白い肌に、つるつるすべすべのピンクのほっぺも、小振りな鼻も、つやつやぷるぷるの唇も…それらが小さい顔の中にきちんと配置されていて…。

一瞬、僕も見惚れてしまった。

それ程に、可愛かった。

あの後、“愛原に会いたいか?”との和巳の問いに思わず…勢いで頷いてしまったけど。

これ程可愛ければ、眞司が好きになるのも頷ける。

きっと10人、人が居れば10人全員が樹生を選ぶだろう。

「…確かに、眞司…さんとは友人ですけど…」

(声も可愛い…)

「…友人…ただの?」

俯き、頬を染めて話す愛原の声を遮り、和巳が質問する。

さっきから愛原の可愛さに気後れして何も言えずにいる僕の代わりに、(何故か)愛原の可愛さに動じる事のない、和巳が話を進めてくれている。

「…とても親しい友人です」

愛原は“とても”という言葉に若干、力を込めてそう言った。

そして俯いていた顔を上げると、真っ直ぐに僕を見た。

その綺麗な薄茶色の瞳で。

「…ぼくと眞司…さん、一緒に住んでいるんですけど…」

(…一緒に住んでいる…和巳が言っていた事って…本当だったんだ…)

僕は足下がグラグラと崩れる感覚を覚えたが、両手を強く握り締め、なんとか耐えた。

愛原は一旦、言葉を止め珈琲をひと口飲んでカップをソーサーに戻すと、口を開いた。

「…1週間前に、少し家に帰ってくると言って出て行ったきり帰って来ないので、少し心配していたんです…すぐ帰ってくると言っていたのに…」

(…家…?…家って…)

僕と一緒の時は家に帰るどころか、家族の話すら眞司の口からは聞いた事がない。

だから、てっきり眞司も僕と同じで家族と仲が悪いとばかり思っていたけど…。

(違うのかな…?)

…ていうか…。

「…具合が悪いから休むって聞いたけど」

和巳が言う。

「そんな…1週間前に家を出て行く時は、元気でしたけど…」

(愛原とは家の話をするのか…)

「…何回か眞司の携帯にも連絡しているんですけど、繋がらなくて…」

一緒に住んで、一緒に居ても、眞司は僕に…家の話はおろか…自分の話なんて、した事ないから。

「…だろうな…オレも、友人達も連絡してるけど、いつも繋がらないから」

(他にも、色んな話、してんのかな…)

「ただ…時々ですけど…眞司から電話がかかってくる時があって…」

(…いつの間にか眞司さんから…呼び捨てになってる…。)

-こんな時なのに、さっきから、どうでもいいような事を、ぼんやり考えている。

「眞司から、電話がかかってくるのか?」

和巳が少し驚いたように、愛原に聞き返す。

「…ええ…ほんと…たまに…ですけど…」

「………何て?」

そこで愛原は俯いてハンカチを取り出し、握り締める。

「…凄く…苦しそうな声で…“お前は絶対、家に来るな”って…」

「…苦しそうな声って…やっぱり、どこか具合が悪いのか?」

「…分かりません…いつも…それだけ言うと…すぐ切れるから…」

愛原の綺麗な瞳から涙が一筋、滑り落ちる。

「ぼく…心配で…何度か家に行こうとしたんですけど…その度に、眞司の言葉を思い出して…“来るな”って事は…行ったら、眞司に迷惑がかかるのかな…とか…」

手にしたハンカチで涙を拭う。

「………家の場所…知ってるの?」

それまで黙っていた僕が口を開いたからか、和巳も愛原も驚いたように僕を見た。

「…え、ええ…前に、住所を教えてもらいましたから」

愛原がメモ用紙を差し出す。

「…僕が行く」

差し出されたメモ用紙を見詰めながら…無意識に…そう言っていた。

「……え!?」

僕の言葉に、和巳がギョッとした顔をし、愛原は瞳を輝かせた。

「僕が眞司の家に行く」

「バカ!!何、言ってんだ」

「本当!?本当に行ってくれるの?」

「…僕、別に眞司に来るなって言われてないし…僕も眞司、心配だし…それに…」

会いたい…。

顔を見たい….

(…眞司…)
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