僕が玩具になった理由

Me-ya

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ずれてゆくこわれてゆく-優紀の章-

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-最近、眞司が部屋に帰って来る回数が少なくなってきた。

いや、前から…深夜に帰ってきた時、眞司が居ない事なんてよくあったけど。

最近はほとんど…部屋に居ない。

帰ってきた形跡もない。

(…どこに行っているんだろう…?)

学校では毎日姿を見るけど、僕から眞司に声をかける事は禁止されているし。

今はただ、眞司が仲間に囲まれて笑っている姿を遠くから見ているだけ。

…でも、休み時間には眞司にLINEで呼び出されるし。

その時は近くで眞司の姿を見る事ができるから。

だから、前よりはまし。

遠くでしか眞司の姿を見れなかった頃よりはまし。

-その日。

いつものように、軋んで痛む躰を引きずるようにとぼとぼとマンションの部屋に帰り、ドアを開けると…いつもなら真っ暗な部屋に灯りが灯っていた。

(…眞司……!!)

眞司が帰っている……!!

久しぶりの眞司の帰宅に躰の痛みも忘れる程、心が弾んだ。

「…し……っ!!………」

ドアを勢いよく開け、眞司に走り寄ろうとした僕は…眞司が服等を鞄に詰めている姿を見て…足を止める。

「…出かけるの……?」

「……ああ」

僕の問いに眞司は振り向きもせずに答える。

僕は黙って眞司が荷物を鞄に入れている後ろ姿をただ、見詰めていた。

「……………」

そして…眞司は鞄を閉めると同時に眞司のスマホの着信音が聞こえてきた。

「…あ、おう。俺」

ポケットからスマホを取り出し、誰かと話し始めた眞司の声は…僕が始めて聞く…甘く、優しい声だった。

「今、終わったとこ」

スマホに向かって話している横顔も、今まで見た事がない程優しい顔をしていて…。

僕には絶対、向けられる事のない優しい笑顔…優しく甘い声…。

そんな眞司を見たくなくて、思わず下を向いてしまう。

「大丈夫だって。今、行くから」

まるで僕など居ないかのように…僕の方を振り返りもせずに眞司はスマホの相手と話し続けている。

俯いている僕は、自分の足先を見詰めながら眞司の声を…ただ、聞いていた。

「大丈夫だって。今から帰るから…雅樹」

………ズキッ………。

…今までの眞司の行動や態度から薄々気付いてはいた…気付いていたけど…。

(…どこへ帰るの……)

眞司の帰る場所はもう、ここじゃないって…。

…胸が痛んだ…。

眞司の足音が遠離る。

(行かないで………)

言葉が喉まで出かかっているのに…何かが詰まって声にならない。

(…今日、僕、頑張ったんだよ…痛くて、苦しかったけど…相手を満足させたら眞司が喜んでくれると思って…)

忘れていた躰の痛みが戻ってきた。

(…凄く頑張ったんだ…相手も満足してくれたと思う…だから…“御褒美”…ううん、“御褒美”はいらないから…今日だけ、僕と一緒にいてよ…)

足音が遠離っていく。

(…ううん…一緒にいなくてもいい。いなくてもいいから…)

ドアの閉まる音が部屋の中、響いた。

(…僕を捨てないで…)

目の前が滲み…見詰めていた足先に水滴が落ちた。
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