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兄の物語[110]気づいた事

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「飲むかい?」

「……紅茶を作るのが趣味なのか?」

「趣味というほどのものではないよ」

現在、既に夕食を食べ終えており、一部のメンバーは睡眠を取っていた。

先日と同じく、クライレットは夕食前に討伐したモンスターの血を使い、円をつくって他の魔物たちを牽制していた。
それでも、誰かが見張りをしなければならない。

ガンツも一応休息を取っており、現在見張りを担当しているのはクライレットとカルディアの二人。

七人もいて、見張りが二人だけというのは少ない。
数が足りてない様に思えるが……七人の中で前衛最強はクライレット。
そして後衛最強はカルディアであるため、最強タッグであれば大抵の魔物を圧倒出来てしまう。

「…………良い味だな。こう……リラックス出来る」

「そういのを使ってるからね」

「流石だな……クライレット、お前たちはAランクを目指してるんだよな」

「? そうだね。昔から決めてた目標さ。とはいえ、のんびりしてる時間はあまりないけどね」

「そういえば、貴族の令息で長男、だったな」

貴族の令息、令嬢が冒険者として活動していることは珍しいが、心底驚くほど珍しいことではない。

ただ、それは三男や四男、それ以下の基本的に家を継げる可能性がない者たち。
長男という基本的に家を継ぐ立場の者が冒険者として活動しているのは非常に珍しい。

ゲインルート家の場合、次男であるゼルートは当然の如く冒険者として活動するつもりしかなく、それはこれからも変わらない。
弟に恩を感じているクライレットとしては、冒険中に死ぬなど論外である。

「時間は……後、五年から七年といった感じかな」

「五年から七年か。聞いてる立場としては、それなりに猶予が長いと感じるが、やはりクライレットからすればあまり長くはないと感じるのか?」

「そうだね………………今回の試験を越えれば、Bランクに上がれる。その自信はある。それからも、僕たちは冒険を止めない。そうすれば……Aランクに辿り着けると思ってる。でも……冒険者としての人生、そこで終わらせたくはない」

両親がAランクの冒険者。
そこに憧れを感じ、自分も同じ道を辿ろうとした。

結果……思いっきり躓いたり、上手く行かない事ばかりで嘆くことはなかった。
ただ、冒険者として活動を始めて、バルガスたち仲間と出会って……気付いたことがあった。

「楽しいんだ。あの三人と一緒に冒険するのが」

「そうか…………まぁ、それは俺も同じだ」

同世代が相手であれば、比較的喧嘩を売ることが多い。
その度に止めに入らなければならず、学ばない相方に苛立ったことは一度や二度ではない。

それでも、こんな相方だからこそ、自分の冒険者人生を振り返った時……悪くないと、楽しさを、充実感を感じられる。

「Aランクの冒険者になる。それは、僕の中で大きな目標。それは変わらないけど、冒険者として活動する楽しさ。それと、バルガスたちと一緒に冒険する楽しさ…………それを知ってしまったら、そこをゴールにしたくなくなった」

「…………そこが、クライレットにとって、新たなスタートラインになったということか」

「まぁ、そういう事になるかな。他の冒険者たちが聞けば生意気過ぎる、傲慢な考えだって言われそうだけどね」

「ふっふっふ……そうかもしれないが、お前は少しそうなっても良いんじゃないか。お前の弟、ゼルートはあの戦争の最前線で、死にたい奴からかかって来いと盛大に吼えたそうじゃないか」

「あれには、僕も驚かされたよ。でも、ゼルートだからね………………けど、そうだね。僕はバルガス、ペトラ、フローラたちのリーダーだ。そういうのを考えたら、もう少し自信を持っても良いのかもしれないね」

仲間たち長であるからこそ、今よりも自信を持って良いのかもしれない。
そんなクライレットの言葉を聞き、カルディアは本当に根が優しいのだなと感じ取り、小さな笑みを零した。
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