上 下
944 / 998
連載

兄の物語[100]弟の時は……

しおりを挟む
「そういえばさ、せっかくの昇格試験だろ。普通のコカトリスなのかな」

「……バルガス、もう少し詳しく話してちょうだい」

同業者たちと模擬戦を行っているジェリスを放置し、六人で昼食を食べていたクライレットたち。

そんな中で、ふとバルガスが思い出したかのように話し始めた。

「いや、Bランクの昇格試験で、こんだけの面子が揃ってるなら、ただのコカトリスが相手なのかって疑問に思ってよ」

「…………バルガス。ガンツさんも話してたけど、コカトリスは非常に厄介な魔物なのよ」

魔物の生態を調べる学者などからは、竜種の一種なのでは? と考えられているBランク魔物、コカトリス。
非常に強力な状態異常系の攻撃も使用するため、Bランク魔物の討伐経験がある者であっても……絶対に討伐出来る保証はない。

「いや、そりゃそうなんだけどよ。これだけ戦える面子が揃ってるなら、よっぽどこう…………戦闘中にいきなり他のBランク魔物とか、大量のCランク魔物が乱入してこない限り、多分負けないだろ」

「………………」

仲間たちの戦闘力は言わずもがな知っており、仲の良いミシェルのここ最近の功績もちらほら耳に入ってきている。

カルディアとジェリスたちの詳しい功績は知らないものの、間違いなくBランク昇格試験を受けるだけの力量を持っていることは解っている。

そのため、バルガス言いたい事は解らなくもなかった。

「って考えるとよ、ギルドが用意したコカトリスは本当に普通のコカトリスなのかと思ってな」

「………仮に普通のコカトリスでなかった場合、どういうコカトリスが出てくると思ってるの」

「そりゃあ……やっぱり、成長したコカトリスじゃね?」

「成長したコカトリスか~。そういえば、昔ゼルートがDランクの昇格試験を受けた際に、盗賊団のアジトへ向かう道中に成長した魔物と戦ったって言ってたね」

ペトラが「さすがにそれはあり得ないわ」と言おうとしたタイミングで、クライレットが昔弟から聞いた内容をポロっと零した。

「っ、クライレット。それは昇格試験内容が盗賊団退治の話よね」

「うん、そうだね。成長した魔物は……グレーグリズリーだったかな?」

「……何はともあれ、その魔物との戦闘が試験内容じゃないなら……問題無いわ」

何が問題なのか、とツッコむ者はこの場に一人もおらず、ミシェルやカルディアもペトラが何を考えているのか、なんとなく想像がついた。

「バルガス、普通に考えてそれはないと思うわよ」

「なんでだ?」

「Bランクの魔物が成長を経験すれば、実力はAランク相当になる…………今回試験を受ける面子なら、戦えないとは思えないわ。でも、ただの試験で戦う相手じゃない」

少なくとも、Bランクへの昇格試験内容ではないと断言するペトラ。

「冒険者は確かに強さが求められるけど、試験でその戦力を潰すようなことになったら意味がないでしょう」

「あぁ~~~……そいつは、そうだな。けどよ、上に行くなら逆境を跳ね返せる力的なものも重要になるんじゃねぇか」

「……それもまた理解出来なくはないわ。ただ、試験を行う度にそんなことを繰り返してたら、冒険者たちの数が激減するでしょ。もしくは、昇格試験を受けたくないって言う人が増えるわ」

「バルガス~~。逆境って言うのは、大抵の人が追い込まれてそのまま潰されちゃうから、逆境って言うんだよ~」

大抵の人がその状態になれば潰され、死んでしまうからこそ逆境。

そんなフローラの説明を受け、ようやく納得のいった表情になったバルガス。

「そう、かぁ………………んじゃ、面白い乱入者が現れねぇか、そこに期待するしかなさそうだな」

「だからなんであなたは一々そういうイレギュラーを期待するのよ」

相変わらずバルガスのバカさ加減に頭を悩ませられるペトラだが、今回初めて共に行動するカルディアは、そんなバルガスの強者との戦闘欲求に、寧ろ頼もしさを感じていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

逆行転生、断罪され婚約を破棄された落ちこぼれ令嬢は、神の子となり逆行転生したので今度は王太子殿下とは婚約解消して自由に生きたいと思います

みゅー
恋愛
アドリエンヌは魔法が使えず、それを知ったシャウラに魔法学園の卒業式の日に断罪されることになる。しかも、シャウラに嫌がらせをされたと濡れ衣を着せられてしまう。 当然王太子殿下との婚約は破棄となったが気づくと時間を遡り、絶大な力を手に入れていた。 今度こそ人生を楽しむため、自分にまるで興味を持っていない王太子殿下との婚約を穏便に解消し、自由に幸せに生きると決めたアドリエンヌ。 それなのに国の秘密に関わることになり、王太子殿下には監視という名目で付きまとわれるようになる。 だが、そんな日常の中でアドリエンヌは信頼できる仲間たちと国を救うことになる。 そして、その中で王太子殿下との信頼関係を気づいて行き……

転生悪役令嬢の考察。

saito
恋愛
転生悪役令嬢とは何なのかを考える転生悪役令嬢。 ご感想頂けるととても励みになります。

えっ、これってバッドエンドですか!?

黄昏くれの
恋愛
ここはプラッツェン王立学園。 卒業パーティというめでたい日に突然王子による婚約破棄が宣言される。 あれ、なんだかこれ見覚えがあるような。もしかしてオレ、乙女ゲームの攻略対象の一人になってる!? しかし悪役令嬢も後ろで庇われている少女もなんだが様子がおかしくて・・・? よくある転生、婚約破棄モノ、単発です。

あなたが幸せになれるなら婚約破棄を受け入れます

神村結美
恋愛
貴族の子息令嬢が通うエスポワール学園の入学式。 アイリス・コルベール公爵令嬢は、前世の記憶を思い出した。 そして、前世で大好きだった乙女ゲーム『マ・シェリ〜運命の出逢い〜』に登場する悪役令嬢に転生している事に気付く。 エスポワール学園の生徒会長であり、ヴィクトール国第一王子であるジェラルド・アルベール・ヴィクトールはアイリスの婚約者であり、『マ・シェリ』でのメイン攻略対象。 ゲームのシナリオでは、一年後、ジェラルドが卒業する日の夜会にて、婚約破棄を言い渡され、ジェラルドが心惹かれたヒロインであるアンナ・バジュー男爵令嬢を虐めた罪で国外追放されるーーそんな未来は嫌だっ! でも、愛するジェラルド様の幸せのためなら……

監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されたやり直し令嬢は立派な魔女を目指します!

古森きり
ファンタジー
幼くして隣国に嫁いだ侯爵令嬢、ディーヴィア・ルージェー。 24時間片時も一人きりにならない隣国の王家文化に疲れ果て、その挙句に「王家の財産を私情で使い果たした」と濡れ衣を賭けられ処刑されてしまった。 しかし処刑の直後、ディーヴィアにやり直す機会を与えるという魔女の声。 目を開けると隣国に嫁ぐ五年前――7歳の頃の姿に若返っていた。 あんな生活二度と嫌! 私は立派な魔女になります! カクヨム、小説家になろう、アルファポリス、ベリカフェに掲載しています。

幸せを望まなかった彼女が、最後に手に入れたのは?

みん
恋愛
1人暮らしをしている秘密の多い訳ありヒロインを、イケメンな騎士が、そのヒロインの心を解かしながらジワジワと攻めて囲っていく─みたいな話です。 ❋誤字脱字には気を付けてはいますが、あると思います。すみません。 ❋独自設定あります。 ❋他視点の話もあります。

婚約破棄!? ならわかっているよね?

Giovenassi
恋愛
突然の理不尽な婚約破棄などゆるされるわけがないっ!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。