冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

Gai

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2巻

2-2

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「元々の身体能力も高いし、なかなかスリルがある。戦いはこうでなくっちゃな!!!」

 相手の拳を紙一重で避け、ゼルートはカウンターの要領で拳にまとっているストーンバレットをなぐりつけて破壊した。
 そして追撃の蹴りを入れようとするが――スケイルグリズリーは後ろに大きく飛んで、すぐに砕けたストーンバレットを修復した。

「状況判断も早いときたか。成長ってこんなにすごいのか? まっ、まだまだ楽しめそうだし、そこら辺を考えるのは後にしよう!!!」

 しばらくは激しい攻防が続く。
 ぱっと見、互角に戦っているように見えるが……優勢なのはゼルートの方だった。
 確かにスケイルグリズリーはかんに攻めているが、肝心の攻撃は当たらずにからぶってばかりだ。
 当たったとしても、ゼルートは確実に防御しているので、ダメージは一切ない。
 ただ、スケイルグリズリーはこの戦いの中で学んでいた。あきらめずに、フェイントを織り交ぜて、ゼルートを惑わそうとする。だが……スケイルグリズリー以上に戦い慣れているゼルートには、それも上手く決まらず、右ストレートをかわされたときに、逆にれいな一本背負いを食らわされる。
 ――一人と一体の戦いは十分ほど続いた。
 スケイルグリズリーにはほぼ魔力が残っておらず、体力も尽きかけていた。
 しかし本能的にわかってしまう。今この状況から逃げ出すことはできない。
 目の前の冒険者を倒す以外に、自分が生き延びる方法はない。だから……おお博打ばくちに出る。

「グオオォオオァァァアアアアッ!!!!!!!!」

 最後の力を振りしぼり、ストーンバレットを右腕に集中してまとう。
 そして、身体強化を足だけにかけたことにより、スピードも大幅に上昇。

「このたんで魔力操作も覚えるのか……本当にすごいな。でも、この勝負は俺が勝たせてもらう」

 ゼルートは魔力によって生み出した大きな風の刃を右腕にまとう。

「これで終わりだぁあああああッ!!!!」
「グゥオオオァアアアアッ!!!!」

 スケイルグリズリーは絶対になぐりかかってくると予測していたゼルートだが、相手は最後の最後で一度も使っていなかった手を使った。
 右腕にまとっていた巨大なストーンバレットを勢いよく打ち出したのだ。
 完全にゼルートの不意を突いた一撃だった。
 現在、ゼルートとスケイルグリズリーとの距離は二メートルほど。並の冒険者なら、避けようにも避けられない距離だ。
 スケイルグリズリーはこの方法で今までもピンチを打破し、勝利してきた。
 ゆえに、今回もギリギリの状態ではあるが、自分の勝利を疑っていない。
 しかし今回の相手は、幼すぎる頃から自身をきたえはじめた、ある意味化け物のような存在である。

「あっぶなっ!!!???」

 驚いて声を上げながらも、ゼルートは円錐えんすいと化したストーンバレットをスライディングでかわし、スケイルグリズリーの背後に回って――首を斬り捨てた。
 さすがに成長したスケイルグリズリーでも、再生のスキルまでは有しておらず、その首はゴロリと地面に落ち、そのまま体も崩れ落ちた。

「ふ~~~~……思っていたより強かったから、結構楽しめたな。こいつの強さを考えれば、魔石も期待できそうだな」

 錬金術をおこなうゼルートにとっては、魔石も重要な素材だ。
 全体の解体は後回しにし、魔石だけ抜き取ってから、全てをアイテムバッグにしまうと、ゼルートはガンツたちのところへ戻った。


「ん~~~、ゼルートのやつちょっと遅いな。見た目からして亜種や希少種ではなかったと思うんだがな」

 ルウナはゼルートのことを全く心配していない。ゼルートがスケイルグリズリー程度に負けるとは思っていないからだ。ただ、自分が思っていたよりも帰りが遅いので、何か厄介やっかいごとに巻き込まれたのではないかと考えていた。

「確かに、見た感じは普通のスケイルグリズリーだったから、大丈夫だとは思うが……一応今は試験中だからなぁ~~」

 ガンツもゼルートの強さは知っているため心配はしていない。こちらは、Dランクの昇格試験の試験官として、目的地へのタイムロスは避けたかった。
 ゼルートがスケイルグリズリーと戦いはじめてから、まだそれほど時間は経っていない……が、あまり他の受験者たちを待たせるわけにもいかない。
 ガンツが悩んでいると、セイルたちのパーティーメンバーで、回復役であるミールが声をかけてきた。

「あの……もしスケイルグリズリーに倒されていた場合はどうするのでしょうか? やはり今からでも助けに行った方がいいのでは……」

 普通に考えれば、Eランクの冒険者が、力と速さもあるDランクのスケイルグリズリーに単体でかなうはずがない。
 心配になってきたミールだが、セイルが口を挟んできた。

「はっ!! カッコつけて一人でスケイルグリズリーなんかに挑むからだ。どう足掻あがいてもあっなく殺されるだろ。まっ、冒険者はそこら辺自己責任だから仕方ないけどな。これだと、ドウガンさんに勝ったのも、まぐれか卑怯ひきょうな手を使ったかのどっちかだな」

 セイルは、ここぞとばかりにゼルートに対して悪態をつく。
 そんなセイルを、アレナは早死にしそうだなと、氷のような目で見ていた。
 ルウナも、この馬鹿は何をアホなことを言っているのだと、アレナと同様に冷めた目をしている。
 しかし、二人とも今は試験中なので、あまりこの場で足を止めるのはよくないこともわかっている。
 アレナは、ゼルートなら必ず自分たちに追いつくから先に行こうと、ガンツに進言するかどうか迷っていた。
 そこへ――

「おう、待たせて悪かったな。今戻った」

 当の本人が戻ってきた。

(考えるだけ無駄だったわね)

 アレナは、迷う必要がなくなったことに安堵あんどした。

「おう、その様子だとスケイルグリズリーには勝ったみたいだな」
「ああ、ほら、これが死体だ」

 アイテムバッグからスケイルグリズリーの死体を取り出し、たずねてきたガンツたちに見せる。
 頭がない状態のスケイルグリズリーの死体を見たアレナとルウナとガンツは、この結果は当然だと言わんばかりの表情になる。三人ともゼルートの勝利を全く疑っていなかった。
 逆に、ローク、ラナ、ミールの三人は、信じられないと言いたげな表情だった。
 しかし、それが通常の反応で、別にこの三人がおかしいわけではない。
 ただ……セイルだけは、ゼルートがソロでスケイルグリズリーを倒すなんて絶対にあり得ないと思っており、強烈な目力で彼をにらみつける。

「首と胴体が真っ二つか。さすがと言いたいところだが、俺の予想としてはもう少し早く決着がつくと思っていたんだが……何かトラブルでもあったか?」

 ガンツの問いにこたえるために、ゼルートはまずアイテムバッグの中からスケイルグリズリーの魔石を取り出して渡した。
 魔石は通常の濃い紫に加え、少々灰色が混ざっていた。
 成長した魔物の魔石には、通常のものとは違う特徴があり、素人目でも違いがわかるようになっている。

「マジかよ……お前、成長した魔物を倒したのか。いや、ゼルートの強さを考えればそこまで驚くことじゃねえかもしれないが」
「成長してただけあって、結構強かったぞ」

 ゼルートは簡潔に、スケイルグリズリーとの戦闘内容を話す。
 最初に、スケイルグリズリーが魔法を使ったこと。そして発動した魔法を自分の手足にまとったこと。最後に、ただ暴れるだけではなく、考えて戦っていたこと。
 説明を聞き終えたガンツたちの反応は様々だった。

「成長した魔物なら魔法を使うのも納得できるが、発動させた魔法を手足にまとうのか……それだと、Cランクどころか、Bランク認定の魔物でもおかしくないな。今回の昇格試験が終わったら、一応ギルドに報告しておくか」

 ゼルートは内心驚いていた。

(ガンツがちゃんと仕事人の顔をしてる……ぷぷっ、ちょっと似合わねえ)

 だが、成長した魔物はそう簡単に現れないが、今後の参考になるので、ギルドへの報告は必須なのだ。

「は~~~~~、ゼルートはいいな。成長した魔物なんてそうそう見つからないんだぞ。なあ、頼む! 今度は私に戦わせてくれ‼」
「あ~~、はいはい。りょーかい」

 ルウナが両手を合わせて頼み込んできたのを、ゼルートは半分あきれた様子で返した。

(うん、ルウナはこれが通常運転なんだろうな。それとも、戦う職業にいている獣人は、血の気が多いのか?)

 ゼルートは、自分はそこそこのバトルジャンキーだと自覚していたが、ルウナは自分以上であることを知った。

「色付きの魔石は久しぶりに見たわ。マジックアイテムや魔剣なんかを作る素材としても使えるわ。よかったじゃない、ゼルート。売ってよし、素材として使ってもよしよ‼」

 アレナが楽しそうにうなずく。

(随分とテンションが高いな、珍しい。でも、元Aランクの冒険者がそうなるほどに、こいつの価値は高いんだろうな)

 お金に関しては余裕があるので、ゼルートは売るつもりがない。
 そしてロークとラナとミールはこれを見て、ゼルートが本当にドウガンを一対一で倒したのかもしれないと、その実力を認めはじめた。
 だが、セイルだけは納得していない様子で、そのことをブツブツとつぶやいていた。
 それを見て、ゼルートはため息をつく。

(……何事もなく終わればいいんだけどな。ただ、何が起こるのかわからないのが、冒険者人生ってやつだよな)


 スケイルグリズリーとの戦いが終わってから数時間後、ゼルートは周囲のメンバーに聞こえない程度の声で、アレナに話しかけた。

「なあ、アレナ。少し話があるんだけど」
「あのセイルって少年のことかしら?」

 わかっているなら話は早いと、詳細を省くことにした。

「ああ、あいつのことなんだが……正直どう思う?」
「……当たり前だけど、あの子は自分の師を倒したあなたを敵視してるわ。そして、あなたに絶対に負けたくないという気持ちから、どこかで暴走するはずよ」
「そうだよなあ……やっぱりその可能性はあるよな」

 人生経験が少ないゼルートは、そこまで自分の考えに自信を持てずにいたが、アレナが自分と同じことを考えているとわかり、確信に変わった。

「魔物との戦いの最中に獲物を横取りしてくるぐらいなら、別にいいんだけどな」

 本来なら冒険者の暗黙のルールを破るなど、その場でぶっ飛ばされてもおかしくない。
 ただゼルートは今回、セイルがそういった馬鹿な行動をとっても、とがめるつもりはなかった。
 しかし……やられては迷惑な行動もある。

「問題なのは……盗賊を討伐しているときに暴走されることだ」
「そうね、私たちに関しては全く問題ないけれど、向こうのパーティーの誰かが怪我けがを負うか……最悪、死ぬ可能性だってあるはずよ」

 ゼルートたちが、今回の討伐対象である盗賊たちに負ける可能性はゼロだ。
 だが、他のパーティーのピンチに関しては、干渉できない場合もある。

(セイルのやつがどうなろうと知ったことじゃないが、他のメンバーはもう俺に対して敵意を抱いている感じはなさそうだからな~~……できれば何事もなく終わってほしいんだけどな)
「このことをガンツに伝える理由はあると思うか?」
「多分ないわね。いえ、言わない方がいいというわけではないのだけど……基本的に試験監督が試験中、受験者に手を貸すことはないのよ。手を貸したら、色々と面倒なことになるらしいから」

 ゼルートより長く冒険者をやっていただけあって、普通の冒険者が知らないこともアレナは知っている。
 結局、ゼルートたちにできるのは、セイルの暴走時に彼以外のメンバーに被害が及ばないように気にかけることのみ。

「一応、このことをルウナにも話しておいてくれ」
「わかったわ。それにしても……ゼルートは随分と優しいのね」
「……いや、別に普通じゃないか?」
「昇格試験なんて、普通は自分が受かることで頭が一杯なのよ」

 それは本当の話であり、アレナもAランク冒険者に至るまで、昇格試験のときは自分や自分の仲間が受かるか否かしか考えていなかった。

(普通はそんなもんか。俺は他のルーキーと比べて色々と余裕があるから、他人を気にしていられるんだろうな)


 この日、特にイレギュラーな出来事が起こることもなく一日を終えた。
 そして夕食を終え、寝る準備に入る前に、ガンツが明日の予定について話す。

「お前ら、これから明日の盗賊の討伐について話すから、寝るのはちょっと待て。とはいっても、俺は話し合いには参加しない。そうだなあ……ゼルート、お前が今回の討伐のリーダーだ」

 ガンツの中では、今回のメンを考えれば、ゼルートが一番適任だった。
 ただ、ゼルートからすれば、全くもって予想外の指名である。

「……いやいやいや、俺一番歳下なんだけど。アレナとかが一番適任だろ」
「普通ならそうだろうな。でも、アレナは立場で言えばお前の奴隷だろ。ギルドの暗黙のルールとして、奴隷にリーダーを任せてはならないんだよ」

 ゼルートはアレナに目を向けるが、返ってきたのは残念ながら同意の視線だった。

「は~~……わかりました。リーダーとして立派に動けるかはわからないけど、意識して行動するよ」

 ゼルートは渋々しぶしぶながら指名を受けた。
 ただ、そこで口を挟む者が一名。

「俺はこいつがリーダーになるのは反対です」

 セイルである。

(……そんな反応をするのではと思っていたが、まさか本当に反対するとはな。もう面倒だから、試験の間ずっと気絶させてやろうか。……いや、冷静に考えれば、それはそれで俺がアウトになるな)

 反対するセイルに対し、ガンツは厳しい表情を向ける。

「なら、お前がリーダーになるか? リーダーになるということは、他のやつらの命を預かるということだ。お前にその覚悟と強さがあるのか? 盗賊の頭領が予想よりはるかに強くても、お前は恐れず仲間のために立ち向かえるのか?」
「そ、それは……」

 ガンツの普段とは違う圧のある表情に気圧けおされ、セイルは上手く言葉が出ない。

「言っておくが、ゼルートは一度盗賊団をつぶしたことがある……一人でな。しかも、報奨金がかかっているやつもいた。それらを考えるに、ゼルートほど適任なやつはいないと思うんだが……それでもまだ、何か言いたいことはあるか?」
「ッ‼ ……いいえ、ありません」

 その言葉とは裏腹に、まだ言いたいことはあるが、セイルはそれをグッとこらえた。

「よし、そんじゃ話し合いを始めてくれ」
(……しょぱなからふんが暗いのは勘弁かんべんしてほしいな。主にセイルが原因なんだが……仕方ない。そんなことを言ったところで、余計にふんが悪くなるだけだ)

 というわけで、話し合いが始まった。

「あ~~~……そうだな、まともに自己紹介していないから一応しておくか。俺の名前はゼルート。戦闘手段はロングソードを使った接近戦だ。一応素手での格闘戦もできる。魔法は雷と風が得意だ、以上」

 雷と風属性の魔法が使えると知り、セイルのパーティー四人は驚いた表情になる。
 それもそのはずで、現在のゼルートのランクを考えれば、前衛が二つの属性魔法を覚えているなど普通あり得ないからだ。
 だが、ゼルートはその普通という枠から外れた存在であり、実際に使える魔法は実のところその二つだけではない。これでも遠慮していたのだ。

「私はアレナよ。武器は普段はゼルートと同じロングソードを使い、たまに短剣の二刀流でも戦うわ。魔法はそこまでは使えないけど、火と雷が得意ね」


 セイルら四人は、アレナが元Aランクの冒険者だと知らないので、ゼルートのときと同様に驚く。
 ルーキーにとって、遠距離と近距離の攻撃、どちらも行えるというのは珍しいのだ。

「私はルウナだ。見ての通り狼の獣人だ。使う武器は……一応二人と同じくロングソードも使えるが、基本的には拳で戦う。魔法は……いて言えば火が得意だな。それと、身体強化にはそこそこ自信がある。あと、一応獣人だから耳と鼻が利く。なので、今回の盗賊討伐に関しては斥候せっこうの役割を果たすことができると思う」

 意外にも、ルウナの自己紹介が一番まともであったことに、ゼルートは驚く。

(自分の手札をあまりしゃべらないつもりで自己紹介したから、随分と適当になっちまったな。それに比べて、ルウナは全部しゃべったわけではないだろうけど、俺の自己紹介よりしっかりしてたな)

 ゼルートたち側の自己紹介が終わり、今度はセイルたちの自己紹介に移る。

「名前はセイルだ。使う武器はロングソード。一応盾役もやっている」

 タンクと言えるほど大きな盾は持っていないが、小盾を使って仲間を守る役割をパーティー内で果たしている。

(……確かに、四人の中では一番ガタイがいいから、必然的に盾役になるのか……でも、どうせなら長剣じゃなく大剣を使って、それを盾に使えばいいのに……もしかして、筋力的に無理なのか?)

 そんなことを言えばまた場の空気が悪くなりそうなので、心の中にしまっておく。

「僕の名前はロークです。武器はサーベルを使います。魔法は火魔法が少しだけ使えます」

 ロークの細身の体を見て、ゼルートはうなずく。

(ふ~~~ん……器用ではあるんだろうな)

 サーベル、レイピアのような細剣を使うには、ある程度の器用さが必要になる。
 斬ることよりも突くことに特化した武器ゆえに、攻撃時の角度がズレると、ポッキリ折れてしまう可能性があるからだ。

(今までそれなりに使ってきたんだろうから、そう簡単に折れることはないと思うけど……一応、あとで軽くて頑丈がんじょうそうなロングソードを渡しておくか)

 ロークの努力を疑ってはいないが、それでも戦いの最中に死なれては寝覚めが悪いので、保険をかけておきたい。

「私はラナよ。武器はこの杖。とはいっても、基本的に魔法しか使わないわ。使える属性は水と風よ」

 ザ・魔法使いという戦闘スタイルだが、ゼルートとしては少々不満があった。

(魔法使いだからって接近戦ができなくていいってわけじゃないんだよなあ……せめて、杖に魔力をまとって打撃を繰り出すぐらいはしてほしいんだが……今言ってもすぐにできることじゃないから、やめておこう)

 ランクがあがればあがるほど、後衛職の冒険者も何かしら接近戦の手段を習得している。
 もしくは、そういうのが必要ないほどに充実したマジックアイテムを身につけているか。
 セイルたちのふところ事情では、後者の方法で弱点を埋めることは不可能なため、ゼルートとしては前者をお勧めしたい。

「私はミールと申します。武器はラナと同じく杖ですが、魔法しか使えません。魔法は光魔法と水魔法、そして回復魔法が使えます」
(……あれだな、回復系魔法のエキスパートになれるな)

 ラナと同じく接近戦が行えないことに不満があるが、それを補うほど回復魔法に特化しているはずだ。

(二人の近くにアレナがいてくれれば、そこら辺の問題は解決しそうだからいいんだが……このミールって子、一人だけが特別抜きん出ているな。水魔法と光魔法にも回復系の魔法は含まれている。そしてその二つは攻撃魔法も充実してる……これこそ絶対に言わない方がいい内容だが、今後解散……もしくは、ミールだけ他に引き抜かれる可能性が大きいな)

 他の三人も冒険者になってからそこまで月日が経っておらず、才能やセンスはまだ開花していないだろう。
 ただ、それでも現時点では、ミールが他の三人よりも三歩ほど先を進んでいる。

(どこのパーティーに行っても重宝されるはずだ。もしくは……見た目もいいから、どこかの貴族に仕えることだってできる……やっばいな。ミールがセイルたちのパーティーから抜けるつもりはなくても、他の三人が抱えるであろう劣等感を考えると……修羅場しゅらばが容易に想像できる)

 アレナもゼルートと同じことを考えており、出会って間もなく、ほとんど関係を持っていないパーティーであるが、少々びんに思えてきた。
 仲間とのきずなか、それとも余裕のある生活を取るか。
 今は仲間とのきずなを大事にしていても、いずれ現実に気づき……この仲間を捨てる未来を選ぶかもしれない。
 ひとまず全員の自己紹介は終わり、盗賊のアジトの偵察や討伐について話し合う。
 だが、作戦が決まるまで大して時間はかからなかった。
 偵察はルウナが行い、戦闘の陣形に関しては、ゼルートとセイルとロークが前衛、ラナとルウナが中衛、ミールとアレナが後衛を務めることとなった。
 そして作戦会議が終わり、ロークが一人になったときに、ゼルートは声をかける。

「なあ、ローク。ちょっといいか?」
「はい、大丈夫ですが……どうかしましたか?」

 自分が持っている予備の武器を渡す前に、ゼルートは念のため確認する。

「サーベルって、今持っているもの以外に予備はあるか?」
「……いえ、僕の武器は、今持っているサーベルだけです」

 ロークは自身が扱う武器が、どういうものなのかをよく理解しているので、ゼルートの問いに対して少々苦い顔になる。

(それでもサーベルを使うってことは、それなりにこだわりがあるのかもな……まっ、そのあたりを気にしてもしょうがない)

 人のこだわりに口を出すつもりはなく、ゼルートはロークにさやつきのロングソードを渡した。

「ほら、これを予備に使え。ロングソードも使えるだろ」
「あの、これは……鉄の長剣、ですよね。それにしては軽い気がしますが」
「その長剣には、自らを軽くする効果が付与されているからな。サーベルを使うお前でも使いやすいはずだ」
「えっ、使ってもいいんですか⁉ ……でも、このロングソードの対価を払うだけのものを僕は持っていませんし……」

 一瞬嬉しそうな表情になるロークだが、すぐに自分のふところ事情を思い出して、暗い顔に変わる。
 しかし、ゼルートはこのロングソードを何本も持っているので、対価をもらおうなんて全く考えていなかった。

「別に見返りとかいらないから。戦っている最中に武器が折れて戦えなくなりましたとか、普通に困るだろ。だからあげるって言ってるんだ。遠慮せずに使ってくれ」
「あ、ありがとうございます!!!」

 ロークはおお袈裟げさに頭を下げる。

(……人に感謝されるって、やっぱいいな)

 そう思いながら、本日も見張りはゴーレムに任せ、ベッドでゆったり睡眠すいみんをとった。


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