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七百二十九話 燃料にはならないぞ
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「なんだ、付いてきたのか?」
「特にやる事もありませんからね」
「そうか」
アラッドはフローレンスたちが付いてきたことに対して、特に文句を言わなかった。
ただ……一旦落ち着いたと思った二人から面倒な視線を向けられていることに気付き、声を掛けた。
「ソルとルーナだったな」
「「っ!!」」
「また、俺に何か用があるのか?」
声を掛けられた二人は、ぶるりと肩を震わせつつも……その口を開いた。
「なんで、あんたはあんなに強いんだ」
「? それは、俺だけじゃなくてお前らの上司や、俺の弟にも言えることはだろ。なんで、俺に聞くんだ?」
適当に答えて流そうとは思っていない。
ただ、何故自分だけに問うたのか知りたかった。
「っ…………強いと、思ったから」
「ふ~~~ん? まっ、理由はなんでも良いか。俺が強い理由は、強くなることが、自分を鍛えることが楽しかったから。以上」
これまで何度も同じ質問を答えてきたため、要点を纏めて答えたアラッド。
「「……???」」
解る者には解るが、さすがにまとめ過ぎだった。
「アラッド兄さん、さすがに纏め過ぎでは?」
「……それもそうか。つっても、俺はこの二人の師や身内じゃないしな」
過去に、同じ冒険者であり……冒険者歴でいえば、アラッドよりも歳上の人物が教えを乞うてきたことがある。
対価も用意し、真剣に強くなりたいという気持ちが伝わってきたからこそ、アラッドはどうすれば比較的若い世代の中でもトップクラスの者たちに追い付ける方法を伝えた。
だが、ソルとルーナは初対面の時から思いっきりアラッドにダル絡みをしていた。
アラッドからすれば、そこまで親身にする必要がない相手であるのは間違いなかった。
「でも、事実だ。俺は自分を鍛えることを、実戦で戦うことを楽しんでいた。多分、同世代の中の誰よりもな」
「それほどの精神力がないと、ということなのね」
「さぁ、どうだろうな。お前らの上司は俺みたいに楽しんではいなかったんじゃないのか? ちなみに、アッシュはそもそも強くなることに対して興味はない」
軽く話は聞いていた。
ただ、アラッドの言葉にアッシュが同意するように頷いたことで、二人の表情に決して小さくない衝撃が走る。
「どうすれば強くなれるかなんて、最適解は人それぞれだ。というか……俺に思うところがあったとしても、そんな俺に構う必要はないだろ」
「それは、どういう意味?」
「お前たち二人は、俺の腐れ縁やライバルでもない。お前たちが俺に向ける気持ちは、ただの一方通行みたいなものだが……それは、フローレンスに近しく親しい野郎には、おそらく平等に向けられる感情だろ?」
女性に憧れる女性は、その憧れに近づく異性を嫌う傾向にある。
全ての女性がそうではないが、ソルとルーナはそれに見事当て嵌まっていた。
「俺のもう一人の弟は、寧ろそれが燃料になっている。それが幸か不幸かは置いておき、良い燃料になり続けてるらしいが……二人は違うだろ」
「「…………」」
「なら、下手に意識するのはおそらく無意味だ」
それだけ伝えると、アラッドはもう二人の方を向くことはなかった。
そして約二時間後、アラッドたちはナルターク王国の観光を短時間ではあるが楽しみ、先日の様にガルーレとフローレンスがクソ面倒なバカに絡まれ、アラッドが意図してないのに問題を引き起こしてしまうことなく、観光は終了。
「お待ちしておりました」
王城に到着すると、王家に仕える従者たちがアラッドたちを出迎え……とある部屋へ連れて行かれた。
そこには……多数の礼服やドレスが用意されていた。
「アラッド様、お好みのスタイルなどはございますでしょうか」
(クッソ………………このままじゃ、駄目なのかよ)
祝勝会が行われる。
それはアルバース国王から直々に伝えられていたため、しっかりと脳内に残っていた。
だが、もしかしたらと、ほんの僅かに普段着のスタイルで大丈夫なのでは? という期待が残っていたが、それはいとも簡単に粉砕された。
「…………派手な色は好みじゃないです。俺にこういったセンスは皆無なので、できればお任せしたいです」
「かしこまりました」
アラッド、アッシュ、スティームの三人を相手に……オシャレ好きな執事たちは執事フェイスで隠しているものの、内心は目の前の整った人形たちを前に、ニヤニヤしていた。
執事たちに、自分たちの国の代表に対し、わざと似合わない服を着させよう……といった醜く怠い考えはなく、彼らは純粋に整った人形たちに最高の礼服を着させたかった。
スティームはともかく、アラッドとアッシュなど……素材が良いにもかかわらず、オシャレというのに全く興味がないのが、明らかに見て解る。
だからこそ、彼らにピッタリの服を着させたいと燃え上がっていた。
(……なんか、この感覚身に覚えがあるな。なんか……母さんが俺の礼服を選んでる時と、同じ感覚のような……)
アラッドの母、アリサは貴族出身の令嬢ではなく、平民出身の元冒険者。
しかし、息子をドレスアップさせ、カッコ良くさせたい……そういった母親心は、貴族出身の母親たちと変わらなかった。
「特にやる事もありませんからね」
「そうか」
アラッドはフローレンスたちが付いてきたことに対して、特に文句を言わなかった。
ただ……一旦落ち着いたと思った二人から面倒な視線を向けられていることに気付き、声を掛けた。
「ソルとルーナだったな」
「「っ!!」」
「また、俺に何か用があるのか?」
声を掛けられた二人は、ぶるりと肩を震わせつつも……その口を開いた。
「なんで、あんたはあんなに強いんだ」
「? それは、俺だけじゃなくてお前らの上司や、俺の弟にも言えることはだろ。なんで、俺に聞くんだ?」
適当に答えて流そうとは思っていない。
ただ、何故自分だけに問うたのか知りたかった。
「っ…………強いと、思ったから」
「ふ~~~ん? まっ、理由はなんでも良いか。俺が強い理由は、強くなることが、自分を鍛えることが楽しかったから。以上」
これまで何度も同じ質問を答えてきたため、要点を纏めて答えたアラッド。
「「……???」」
解る者には解るが、さすがにまとめ過ぎだった。
「アラッド兄さん、さすがに纏め過ぎでは?」
「……それもそうか。つっても、俺はこの二人の師や身内じゃないしな」
過去に、同じ冒険者であり……冒険者歴でいえば、アラッドよりも歳上の人物が教えを乞うてきたことがある。
対価も用意し、真剣に強くなりたいという気持ちが伝わってきたからこそ、アラッドはどうすれば比較的若い世代の中でもトップクラスの者たちに追い付ける方法を伝えた。
だが、ソルとルーナは初対面の時から思いっきりアラッドにダル絡みをしていた。
アラッドからすれば、そこまで親身にする必要がない相手であるのは間違いなかった。
「でも、事実だ。俺は自分を鍛えることを、実戦で戦うことを楽しんでいた。多分、同世代の中の誰よりもな」
「それほどの精神力がないと、ということなのね」
「さぁ、どうだろうな。お前らの上司は俺みたいに楽しんではいなかったんじゃないのか? ちなみに、アッシュはそもそも強くなることに対して興味はない」
軽く話は聞いていた。
ただ、アラッドの言葉にアッシュが同意するように頷いたことで、二人の表情に決して小さくない衝撃が走る。
「どうすれば強くなれるかなんて、最適解は人それぞれだ。というか……俺に思うところがあったとしても、そんな俺に構う必要はないだろ」
「それは、どういう意味?」
「お前たち二人は、俺の腐れ縁やライバルでもない。お前たちが俺に向ける気持ちは、ただの一方通行みたいなものだが……それは、フローレンスに近しく親しい野郎には、おそらく平等に向けられる感情だろ?」
女性に憧れる女性は、その憧れに近づく異性を嫌う傾向にある。
全ての女性がそうではないが、ソルとルーナはそれに見事当て嵌まっていた。
「俺のもう一人の弟は、寧ろそれが燃料になっている。それが幸か不幸かは置いておき、良い燃料になり続けてるらしいが……二人は違うだろ」
「「…………」」
「なら、下手に意識するのはおそらく無意味だ」
それだけ伝えると、アラッドはもう二人の方を向くことはなかった。
そして約二時間後、アラッドたちはナルターク王国の観光を短時間ではあるが楽しみ、先日の様にガルーレとフローレンスがクソ面倒なバカに絡まれ、アラッドが意図してないのに問題を引き起こしてしまうことなく、観光は終了。
「お待ちしておりました」
王城に到着すると、王家に仕える従者たちがアラッドたちを出迎え……とある部屋へ連れて行かれた。
そこには……多数の礼服やドレスが用意されていた。
「アラッド様、お好みのスタイルなどはございますでしょうか」
(クッソ………………このままじゃ、駄目なのかよ)
祝勝会が行われる。
それはアルバース国王から直々に伝えられていたため、しっかりと脳内に残っていた。
だが、もしかしたらと、ほんの僅かに普段着のスタイルで大丈夫なのでは? という期待が残っていたが、それはいとも簡単に粉砕された。
「…………派手な色は好みじゃないです。俺にこういったセンスは皆無なので、できればお任せしたいです」
「かしこまりました」
アラッド、アッシュ、スティームの三人を相手に……オシャレ好きな執事たちは執事フェイスで隠しているものの、内心は目の前の整った人形たちを前に、ニヤニヤしていた。
執事たちに、自分たちの国の代表に対し、わざと似合わない服を着させよう……といった醜く怠い考えはなく、彼らは純粋に整った人形たちに最高の礼服を着させたかった。
スティームはともかく、アラッドとアッシュなど……素材が良いにもかかわらず、オシャレというのに全く興味がないのが、明らかに見て解る。
だからこそ、彼らにピッタリの服を着させたいと燃え上がっていた。
(……なんか、この感覚身に覚えがあるな。なんか……母さんが俺の礼服を選んでる時と、同じ感覚のような……)
アラッドの母、アリサは貴族出身の令嬢ではなく、平民出身の元冒険者。
しかし、息子をドレスアップさせ、カッコ良くさせたい……そういった母親心は、貴族出身の母親たちと変わらなかった。
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