上 下
1,034 / 1,043

千七十五話 鉄板ネタ

しおりを挟む
「あの、お二人は追わなくても良いんですか?」

イルザスたちの頼れる後衛であり、回復魔法も使用出来る女性が心配そうな表情で尋ねた。

「ザハークのことですか? それなら大丈夫ですよ」

「そ、そうなの?」

先程まで自分たち四人で成長したトロールシャーマンと戦っていたこともあり、一人だけに戦いを任せるという目の前の青年の考えが直ぐには理解出来なかった。

「元々、ザハークがあのトロールシャーマンと戦ってみたいと言い出したんですよ。ザハークはソロで戦う方が性に合ってますし、俺たちが手を出す必要は全くないんですよ」

「レナ、彼はエイリスト王国とルクローラ王国との戦争で活躍した冒険者、ソウスケ君だよ」

「そ、そうだったね……そっか。その戦争で、ソウスケさんだけじゃなくて、パーティーメンバー全員が活躍したんだったよね」

細かい話までは知らない。
それでも、エイリスト王国とルクローラ王国との戦争で、パーティーの中でソウスケだけが活躍したという話はない。

ソウスケ、ミレアナ、ザハーク。
三人が大活躍したという話ばかりであり……中には、三人だけでルクローラ王国側として参加した冒険者や騎士たちの大半を倒したという、さすがに盛り過ぎの話もあるが、三人が対活躍したという話は間違っていなかった。

「そういう訳なので、特に心配する必要はありません。ここでのんびり待ってましょう」

まるで勝利を疑って良いない。

レナは目の前の自分よりやや年下の青年に、色んな意味で凄さと恐ろしさを感じた。

「確か、ザハークというのはあなたの従魔で、オーガ……という認識で合っているか?」

「えぇ、その通りですよ。よく鬼人族と間違えられますけど、ザハークは元々ゴブリンで、経験と成長を重ねた結果、オーガへと進化したんですよ」

「なんと、元はオーガだったのか…………つまり、全てのゴブリンがあれ程の強者になる可能性を秘めていると」

恐ろしい可能性を思い付いてしまったローグ。

イルザスたちもまさかの可能性を想像して身震いするも、詳細を知っているソウスケは直ぐにその可能性を否定した。

「さすがに俺たち人間と同じで、才能の有無、差はあると思いますよ。加えて、仮に一般的な個体と比べて才能があったとしても、その個体が危機的状況から逃げずに戦い続けなければ、その才能も無駄に終わるかと」

「むっ、それもそうだな。少し早とちりしてしまった様だ……だが、あり得ないと断言はしない方が良さそうだな」

「それには同意ですね。オーガへ進化せずとも、ゴブリンの王に進化する個体もいれば、ゴブリンの聖騎士に進化する個体もいますからね」

「やはりゴブリンと言えど侮れな、い……??? ソウスケ……さん」

「全然歳下だと思うんで、呼び捨てで大丈夫ですよ」

相変わらず歳上の者たちにさん付けで呼ばれるのはむずがゆいと感じるソウスケ。

「そ、そうか。ではソウスケ、先程聖騎士に進化するゴブリンがいると言ったが、それは……」

「えっと、そうなりますよね。信じるか信じないかは皆さんの自由ですけど、本当に過去にそういったちょっと訳が解らないゴブリンと遭遇して戦ったことがあるんですよ」

聖騎士ゴブリンの話は、ソウスケが同業者たちに話す冒険譚の鉄板ネタ。

「……いや、実際にいるのだろうな」

「あっさりと納得? してくれるんですね」

「嘘を言っている様には思えないからな。それに、俺たちが戦っていたトロールシャーマン……トロールのシャーマンというだけでも珍しい存在だが、いきなり体に刻んでいる刺青? を逃し、肉体を絞って身体強化する方法など見たことも聞いたこともない」

つい先程、全く予想してなかった光景を見て、その力を体感したローグの頭は非常に柔軟になっていた。

「「「「っ!!??」」」」

会話をぶった切るような破壊的な衝撃音がイルザスたちの耳に入った。

「どうやら、戦いが終わったみたいですね」

ソウスケは特に驚くことなく、心配することなく普段通りの足取りでザハークがいる方向へと向かった。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...