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千七十四話 責任を押し付けない

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「続きは俺と戦ろうか」

「ッ!!??」

前衛組の攻撃を無視し、今度は後衛の魔術師を潰そうとしたタイミングで、シェイプアップしたトロールシャーマンの前にザハークが割り込み、杖による打撃をガード。

「ぬぅううんッ!!!!!」

体をがっしりと掴み、そのままどんどん奥へ押し込んでいく。

「後は、うちのザハークが相手をさせてもらいます」

遅れてやって来たソウスケはパーティーのリーダーであるイルザスに、予定通り後はザハークが何とかすると伝えた。

「ッ!!! ~~~~~~~~~っ、クソ!!!!!」

獣人族の女性はやや納得がいってない様子だが、自分たちをいつも危険度が高い攻撃から守ってくれているタンクが思いっきりぶっ飛ばされたことを忘れてはいなかった。

ザハークが間に合わなければ、大事なパーティーメンバーが叩き潰されていたかもしれないと解っていた。

「ありがとう……本当に、助かったよ」

「お礼は後でザハークに伝えてください…………こんな事、俺から言われても嫌味に聞こえるかもしれませんけど、あれはトロールシャーマンの賭けが上手くいった結果です」

トロールは高い回復力を持つものの、再生力まではない。

イルザスや獣人女性の攻撃自体は通用していたため、失血死を狙うことも不可能ではなかった。

「……それでも、負けは負けだよ。ローグがあそこまで吹き飛ばされた時点で、立て直すのは無理だった」

杖で弾丸ライナーのごとくぶっ飛ばされた竜人族のタンク、ローグ。

当然の事ながら、大盾でガードすること自体は出来ていても、ダメージはゼロではなかった。

「その通りだ、イルザス。ただ、お前が気に病む必要はない。その青年……ソウスケ君の言う通り、トロールシャーマンが賭けに出た結果……上手くいってしまった。そして、その賭けに出る姿勢を俺が見抜けなかったのが敗因だ」

竜人族のタンク、ローグは改めて先程食らったトロールシャーマンのフルスイングを思い出す。

(咄嗟に大盾の下に入る様に対応出来れば……あそこまで吹き飛ばされることはなかった)

今はミレアナから貰ったポーションを飲んで回復しているが、両腕の骨にヒビが入っており、内臓も少し損傷しており、吐血していた。

「そう言ってくれると気が楽になるけど、パーティーのリーダーは僕だからね……メンバーに責任を押し付けることは出来ないよ」

優顔とは裏腹に、熱い心を持っているイルザス。

陣形の要であるローグはしっかりと仕事を果たしていた。
トロールシャーマンがいきなりシェイプアップしてからも、一度崩された陣形を元に戻した。

その間……絶対にトロールシャーマンの命を狙えるチャンスがなかったかと言えば……そうではなかった。

「ローグは僕たちを守ってくれた。だから……僕が、もっとどこかで深く斬らなきゃならなかった」

「それを言うなら、私だってもっと深く斬り裂けてたら……クソっ!!!!!」

(ん~~~~……あれなのかな。逆に、トロールシャーマンと二度目の戦闘っていうのが、イルザスさんたちにとって良くなかったのかもしれないな)

一度目の戦闘時でも、トロールシャーマンが強いことは解っていた。

だが、最悪な事に再び出会った時には更に強くなっていた。

(ただ強いだけじゃなく、更に強くなったという印象が、イルザスさんたちが一歩踏み込んで攻撃できなかった要因……なのかな?)

決して前衛二人、後衛の女性魔術師が全力を出していなかった訳ではない。

これまで一歩踏み込んだ、リスクを背負った戦いをしてこなかった訳ではないが……だからといって、死の恐怖自体が消えてはいない。

「……良いパーティーですね、ソウスケさん」

「あぁ、そうだな」

獣人の女性が「しゃしゃり出てんじゃねぇよ!!!!」と怒鳴り散らさず、頭で納得出来るタイプだったということもあり、二人からの評価が更に上がった。
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