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千四十四話 擦り減る

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「……俺さ、今日ほどゴブリンが役立つな~って思ったことはないかな」

森の中で適当なモンスターを探していると、丁度良く数体のゴブリンを発見。
上位種ではなく、亜種でもなければ希少種でもない。

ただの一般的なゴブリン。

そんな超手頃なモンスターを発見し、ひとまずザハークと護衛の騎士は完璧に見えない位置に隠れてもらい、ヌレールアが一人で数体のゴブリンに向かって駆け出し、勝負を仕掛けた。

「そうですね……通常種に限れば、スライムほど弱いというイメージがあるモンスターですからね」

ハイ・エルフであるミレアナはゴブリンという種族のことを嫌ってはいるが、完全に侮ってはいない。

ゴブリンウィザード、プログラップラー、パラディン…………人間側であるミレアナとしては忌避すべき可能性ではあるものの、ゴブリンという種には無限の可能性があるのではないか、という事を知っている。

その為、完全に油断していても問題無いモンスター、とは考えていないが、それでもヌレールアとゴブリンたちの戦いを観ている限り、とてもヌレールアが負けるとは思えない。

(魔力を纏い、身体強化のスキルを使用していれば……おそらく、ゴブリンたちの攻撃がヌレールア様を傷付けることはないでしょう。それでも、ゴブリンたちは殺気全開で殺しにくる……ソウスケさんの言う通り、今日だけは役立つモンスターのように思えますね)

ヌレールアの丁度良いリハビリ相手。

「やっ!!!!」

「ギバっ!!??」

「はぁ、はぁ……お、終わりました!!!!」

魔力を纏った、まだ未熟ではあるが身体強化のスキルも使用した。

ゴブリンが相手であれば、過剰に強化した状態に思えるが……それでも、ヌレールアは大剣という武器だけでモンスターを倒した。

模擬戦でソウスケたち戦ってはいたものの、ソウスケたちはヌレールアに戦意を向けていなかった。

実戦では当然ながら、自分たちを襲って来た相手に対してモンスターたちは本気の殺意を放ちながら返り討ちにしようと、逆に殺して食らってやろうとする。

殺意、というのは相手の神経をすり減らすものであり、悪意によって一度追い詰められたヌレールアにとって……種類は違えど、圧というだけで簡単に擦り減ってしまう。

それでも……臆することなく、ヌレールアは大剣を振るい、勝利した。

「お疲れ様です、ヌレールア様」

ゴブリンの死体ということもあり、ソウスケは魔石を回収せずにささっと地面に埋め……ヌレールアの呼吸が元に戻り次第、再び手頃なモンスターの探索を開始。

(ん~~~~……ランクが低くても、あまりウルフ系のモンスターとかはあれだな~。発する圧は強くなってしまうかもしれないけど、イノシシ系のモンスターとかが丁度良い、か?)

どういったモンスターがリハビリ相手に相応しいかを考えていると……ザハークが少し離れた場所にいるモンスターを察知。

「ソウスケさん、あいつはどうだ?」

「えっと…………ん、ん~~~~~~。俺としては、もう少しリハビリしてからが良いと思うんだけど……」

ザハークが勧めたモンスターとは、Dランクの人型モンスター……オーク。

これまたミレアナが超絶嫌うモンスターの一体。

「ヌレールア様、どういたしますか」

「…………」

ヌレールアが達しているレベル、有している魔力量などを考えれば、そこまで恐れる相手ではない。

しかし、ヌレールアはこれまで魔法使いらしく、戦場の後方で戦っていた。
それが悪いという訳ではないが、敵対する者が発する圧に対する耐性には……確実に差が生まれる。

ヌレールアも過去にオークと戦い、勝利したことはある。
だが、それは前衛という相方がいての戦い。
まだ……一対一で戦ったことはなかった。

「……僕、戦ります」

ビビっていた、恐れを感じていた。
自分は大剣という武器を使って、一人で勝てるのかと、自分の勝利に自信を持っていなかった。

それでも……逃げていては、今までの自分から変われないことは、解っていた。
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