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六百四十二話 置いていくか否か

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「何っ!!??」

ギリスが導きの書を使用し、ソウスケたち三人の居場所を探そうとしたが……その場所は三十一階層。
動きはゆっくりだが、一つ問題があった。

「どうしましたか、ギリスさん」

「あの三人は今、三十一階層を探索している」

「な、なんですって!!!!」

まさかの情報にギリスだけではなく、三人を襲撃するメンバー全員が驚きを隠せなかった。
三人がダンジョンに潜り始めていたのは知っていた。

そして三人がそれなりに強いというのも知っていたが……だが、それでも早過ぎた。
ギリスの……メンバーたちの予想を遥かに上回る速さで三人は攻略を進めていた。

(三人が上級者向けダンジョンに潜っていたという記録はなかったはず……にもかかわらず、なんなんだこの速さは!!!!)

ギリスの表情には明らかに焦りが浮かんでいた。

(くっ!! いったいどんな方法を使ったんだ!!! 私が知る限り、たった数日で一階層から三十一階層まで降りる特殊な方法などない!)

そう、別段特殊な方法はない。
ソウスケが転生者だからという理由で行える裏技的な方法もない。

ただただ単純に三人は速足で下の階層に降りて、いつもよりモンスターを早く殺して階層を降りて行った。
それだけのことだが、当然ギリスたちはこの事実に納得出来ていない。

「おい、あの三人は本当に上級者向けダンジョンを今まで探索していなかったのか」

「は、はい! ミレアナというエルフは何度か一人で探索していましたが、探索していた日数はそう多くありません。そして残りのオーガと子供に関しては一歩も上級者向けダンジョンに足を踏み入れていません!!」

「……なら、これはいったいどういうことなんだ!!」

導きの書には三人揃ってソウスケたちが三十一階層を動いている様子が示されている。

ギリスたちはもしかしたらの可能性を考え、三十一階層以降で快適に活動するための道具も用意していた。
だが、今回のメンバーは全員が三十階層のボスを倒しておらず、三十一階層に転移が出来ない。

そのダンジョン内で絶対的なルールを知っているからこそ、ギリスは目の前の現状に納得出来ないでいた。

(くそっ!!! こうなれば三十一階層に転移できる者たちだけで行くか? いや、しかしそうなれば一気に数が減る)

襲撃するメンバーの中で三十一階層に転移できる者だけを厳選すれば、三分の二ほどのメンバーが離脱することになる。

三十層のボス、ガーゴイル三体とグレートウルフ二体を倒せていなくとも十分戦力になる面子を集めている……と、ギリスは思っている。

(……仕方ない。こうなれば二十一階層から最短ルートで降りていくしかないか)

数は武器。それを理解しているからこそ、三十一階層に転移できない者を置いていくようなことはしない。

「まずは二十一階層に転移するぞ。そこから最短ルートで奴らの元に向かう」

襲撃メンバーの数は十分揃っており、二十一階層から三十階層まで降りるのに戦力的には十分。
正確な地図を持っているので、ミスをしなければ宣言通り最短ルートを進んでソウスケたちに追いつくことが……決して無理ではない。

(導きの書もずっと使える訳ではない)

導きの書は使い捨てのマジックアイテムであり、ランクによって使用出来る時間が変わってくる。
使用時間のタイムリミットも恐れる要素だが、ダンジョンから入手できるアイテムによっては導きの書の効果を打ち消してしまうアイテムも存在する。

それは書に映し出されてからでもそのアイテムを身に付ければ、書から居場所を消されてしまう。

「モンスターとの戦闘は最小限に抑えて降りていく。しっかり付いてくるんだ」

「「「「「はい!!!!」」」」」

ミレアナの恐ろしさを肌で感じ取っているからこそ、接触するまでに時間が掛かろうとも襲撃人数を減らせなかった。

三人への襲撃を成功させるための判断としては、絶対に間違ってるとは言えないが……それでも、そもそも接触できるかどうかは実際にダンジョンには行ってみない事には分からない。
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