hand fetish

nao@そのエラー完結

文字の大きさ
5 / 14
side-B

1

しおりを挟む
 大学時代から付き合いのある男から「来週、結婚式の二次会をやるから都合つくなら来いよ」と短いメッセージが入った。

 怒りよりも呆れた、といった方がいいかもしれない。彼とは、就職を機に上京して遠距離になると、ぷっつりと連絡が途絶えてしまった。所謂、自然消滅というやつなのだろう。

 それでも半年に一度くらいは彼から一方的に呼び出されて、セックスする仲ではあった。最近では、それすらもなくなっていたが、どうせオレから連絡しても、うざがられるだけなのだから、と遠慮していた。そうして、久しぶりに連絡が来たかと思えば、コレだ。

 直接会って文句の一つも言ってやろうと、参加の旨の返信をすると「前日に会えないか。独身最後の夜はお前と過ごしたい」なんて、軟派な返信が返ってきた。

 ああ、こいつは、こういうヤツだった、なんて呆れながらも「最後」という淫靡な響きに惹かれてしまう。


 思えば、彼がろくでもない男なのは、大学時代からだった。少し垂れ目がちで、穏やかな笑顔は、慈悲深い優しい男のように見えた。それに、彼は理想的な手を持っている。綺麗な筋が入っていて、ごつごつとした関節が堪らない。彼ほどの好みの手を持つ男は、他には知らない。触れることはできなくても、じっと目で追ってしまう。

 性の対象が男であるばかりか、他人の手に異常なほど興奮してしまう性癖があると気づいてから、オレは他人との関わりを薄くして、欲望をひた隠して生きてきた。
 そんなオレは、他人から優しくされることに免疫がなかったのだろう。

 研究室が一緒だったこともあり、彼とは接点がそれなりにあった。だからだろう、オレの物欲しそうな視線は、彼に簡単に気づかれてしまった。

 それは、研究室の飲み会だった。隣で飲んでいた彼は、大きな手をそっと、俺の手に重ねてきたのだ。酔った弾みだと思ったが、テーブルの下で、誰にも見られないように優しく手の甲を撫でられ、甘く指を絡まされた。そんな秘密めいた愛撫に胸が高鳴って、オレはこれは恋なのだと勘違いした。そうして、駄目押しのように、耳元で熱っぽく囁かれたのだ。

「お前なら男でもイケるかも」

 オレは相当チョロかったのだと思う。あれが欲しい、これが欲しい、と散々貢がされて、他のヤツとは仲良くするなと釘を刺されて、周囲とますます孤立させられた。

 オレはおめでたいことに、彼に甘えられているだとか、愛情からの独占欲だとか、そういう幸福感に酔っていた。

 それに好みの手で触れられると、どこもかしこも異常なほどに感じてしまう。あの大きくてしなかやかな手が俺を盲目的にさせた。

 彼の好きなように肢体を弄り回されて、苦痛を快楽と混ぜ混まれ、彼に従うことが愛であると、完全な主従関係を強いられた。

 どうしようもない淫乱だとか、呆れるほどの変態だとか蔑まれて、それでも時々は「可愛い」「好き」「愛してる」なんて甘く囁くから、蟻の巣地獄のように彼の罠にハマっていった。

 それでも、彼に彼女がいると知ったときに、オレは別れるべきだったのだと思う。

「あいつはカムフラージュだよ。表向きに付き合ってるだけで、本命はお前だよ」

 嘘だとわかっていても、オレはそんな嘘に縋ってしまった。彼の言葉は絶対だった。

 それでも地元で彼に溺れて生きていくのは不安で、こわくて、オレは大学を卒業したら上京することをぼんやりと考えていた。愚かにも、彼が「俺の側にいろ」なんて必死に引き留めてくれるんじゃないかと期待もした。けれど、オレが上京を口にしても、彼は興味無さそうに「ふーん」と一言返しただけだった。

 彼にとって、オレという存在は、その程度でしかなかったのだ。

 そんな男のために、高い交通費を払って、一夜の密事のために会いに行くなんて、オレも相当おめでたいのだろう。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

処理中です...