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奇遇なのか必然なのか、彼は地元の大学を卒業後、関東圏の会社に就職していたらしい。
一夜限りの関係のはずが、都心に戻ってからも、人肌が恋しくなれば、互いに連絡を取り合うようになっていた。体の相性が良かったこともあり、徐々に会う頻度も多くなれば、僕の部屋には、彼の私物が増えていくようだった。
彼は猫のような男だ。気紛れで、わがまま。それに、少しさみしがり屋で、甘え上手だった。
部屋の中では、彼は、いつも手を繋ぎたがる。テレビを見ているときも、スマホを弄っているときも、風呂に入っているときも、眠っているときも。暇さえあれば、僕の手に触れてくる。長い指を絡ませて、手の甲に唇を寄せると、うっとりとしている。
はじめの頃は、僕に対する情愛からの行動だと思い込んでいたが、それは、幸せな勘違いであることに気づくのに時間はかからなかった。彼は、病的なまでに「手」に執着している。
「ハンくん」
彼は僕の左手をそう呼び出した。ハンドのハンくんだそうだ。どうかしているとしか思えない。
ベッドに横になって眠るときは、いつも決まってハンくんと戯れる。僕の左手の甲にスリスリと頬に擦り付けて、筋を指でなぞる。それから指の根本の凹凸のある間接を一つ一つキスをする。唇をすぼめて、指を咥えてみたり、手の平を唇でなぞってみたり、そういう遊びに没頭する。
「いい加減に、離してくれ」
いつまでも、好きにさせておくと、だんだん自分の手ではなくなっていくような錯覚に陥る。
彼から奪い返して、指を曲げたり伸ばしたりする。そうやって、左手も自分の体の一部であり、自分の支配下にあることを再確認する。
「ねぇ、早く返してよ」
彼は甘えた声で腕を引き、左手を奪い返す。頬に擦り寄せて、指を舐めると、服の中にもぐりこませた。
彼の胸の突起に指があたる。軽く押し込むと、彼はうっとりと甘い吐息を吐いた。それを合図に、僕たちは互いに肌を貪り合う。
彼が一番興奮するのは、彼の口に左手の中指と人差し指を咥えさせて、後ろから彼の中にぺニスを捩じ込む瞬間だった。
「あ、ああッ……イイッ…」
腰を打ちながら、彼の口内を犯すように指を上顎に向けて擦り付ける。彼は顔を紅潮させ、淫らな声で鳴いている。潤んだ瞳はどこか虚ろで、ただただ快楽に貪りついている。
そういう彼の醜態を可愛いとは思っていたが、最近では、まるで、彼とハンくんと僕で、3Pでもしているような気さえして、何とも言えない倒錯的な高揚を覚える。僕も彼にあてられて、おかしくなってきているのかもしれない。
情事が終わっても、彼はハンくんと戯れる。親指を甘噛みしながら、うっとりとしている彼の顔に、よくもまあ、飽きないものだと呆れてしまう。
「僕とハンくん、どっちの方が好きなんだよ」
「ハンくんかな?」
やっぱりな、と思った。
「あはは、冗談だよ」
彼は可笑しそうに笑った。お前の手だから好きなんだよ、と言葉を重ねるので、都合よく誤魔化されておくことにする。
「じゃあ、オレとあいつ、どっちの方が好き?」
ぎょっとした。あいつというのは、僕の幼馴染みで、彼の大学時代の友人を指していると察しがついた。
「なんてね。これも冗談」
彼は寂しそうに笑う。そんな素振りを出したつもりもなければ、未練があるわけでもなかったが、彼には何か引っかかるものがあったのかもしれない。
僕は彼の頬に左手を添えて、寂しそうな唇に自分の唇を重ねた。彼の色素の薄い瞳を覗き込む。そういえば、彼にはちゃんと言葉で伝えたことはなかったかもしれない。
「お前のこと好きだよ。手フェチの変態でも」
彼は、一言余計だと文句を言いながらも、くすぐったそうに微笑んだ。
一夜限りの関係のはずが、都心に戻ってからも、人肌が恋しくなれば、互いに連絡を取り合うようになっていた。体の相性が良かったこともあり、徐々に会う頻度も多くなれば、僕の部屋には、彼の私物が増えていくようだった。
彼は猫のような男だ。気紛れで、わがまま。それに、少しさみしがり屋で、甘え上手だった。
部屋の中では、彼は、いつも手を繋ぎたがる。テレビを見ているときも、スマホを弄っているときも、風呂に入っているときも、眠っているときも。暇さえあれば、僕の手に触れてくる。長い指を絡ませて、手の甲に唇を寄せると、うっとりとしている。
はじめの頃は、僕に対する情愛からの行動だと思い込んでいたが、それは、幸せな勘違いであることに気づくのに時間はかからなかった。彼は、病的なまでに「手」に執着している。
「ハンくん」
彼は僕の左手をそう呼び出した。ハンドのハンくんだそうだ。どうかしているとしか思えない。
ベッドに横になって眠るときは、いつも決まってハンくんと戯れる。僕の左手の甲にスリスリと頬に擦り付けて、筋を指でなぞる。それから指の根本の凹凸のある間接を一つ一つキスをする。唇をすぼめて、指を咥えてみたり、手の平を唇でなぞってみたり、そういう遊びに没頭する。
「いい加減に、離してくれ」
いつまでも、好きにさせておくと、だんだん自分の手ではなくなっていくような錯覚に陥る。
彼から奪い返して、指を曲げたり伸ばしたりする。そうやって、左手も自分の体の一部であり、自分の支配下にあることを再確認する。
「ねぇ、早く返してよ」
彼は甘えた声で腕を引き、左手を奪い返す。頬に擦り寄せて、指を舐めると、服の中にもぐりこませた。
彼の胸の突起に指があたる。軽く押し込むと、彼はうっとりと甘い吐息を吐いた。それを合図に、僕たちは互いに肌を貪り合う。
彼が一番興奮するのは、彼の口に左手の中指と人差し指を咥えさせて、後ろから彼の中にぺニスを捩じ込む瞬間だった。
「あ、ああッ……イイッ…」
腰を打ちながら、彼の口内を犯すように指を上顎に向けて擦り付ける。彼は顔を紅潮させ、淫らな声で鳴いている。潤んだ瞳はどこか虚ろで、ただただ快楽に貪りついている。
そういう彼の醜態を可愛いとは思っていたが、最近では、まるで、彼とハンくんと僕で、3Pでもしているような気さえして、何とも言えない倒錯的な高揚を覚える。僕も彼にあてられて、おかしくなってきているのかもしれない。
情事が終わっても、彼はハンくんと戯れる。親指を甘噛みしながら、うっとりとしている彼の顔に、よくもまあ、飽きないものだと呆れてしまう。
「僕とハンくん、どっちの方が好きなんだよ」
「ハンくんかな?」
やっぱりな、と思った。
「あはは、冗談だよ」
彼は可笑しそうに笑った。お前の手だから好きなんだよ、と言葉を重ねるので、都合よく誤魔化されておくことにする。
「じゃあ、オレとあいつ、どっちの方が好き?」
ぎょっとした。あいつというのは、僕の幼馴染みで、彼の大学時代の友人を指していると察しがついた。
「なんてね。これも冗談」
彼は寂しそうに笑う。そんな素振りを出したつもりもなければ、未練があるわけでもなかったが、彼には何か引っかかるものがあったのかもしれない。
僕は彼の頬に左手を添えて、寂しそうな唇に自分の唇を重ねた。彼の色素の薄い瞳を覗き込む。そういえば、彼にはちゃんと言葉で伝えたことはなかったかもしれない。
「お前のこと好きだよ。手フェチの変態でも」
彼は、一言余計だと文句を言いながらも、くすぐったそうに微笑んだ。
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