hand fetish

nao@そのエラー完結

文字の大きさ
上 下
4 / 14
side-A

4

しおりを挟む
 奇遇なのか必然なのか、彼は地元の大学を卒業後、関東圏の会社に就職していたらしい。
 一夜限りの関係のはずが、都心に戻ってからも、人肌が恋しくなれば、互いに連絡を取り合うようになっていた。体の相性が良かったこともあり、徐々に会う頻度も多くなれば、僕の部屋には、彼の私物が増えていくようだった。

 彼は猫のような男だ。気紛れで、わがまま。それに、少しさみしがり屋で、甘え上手だった。

 部屋の中では、彼は、いつも手を繋ぎたがる。テレビを見ているときも、スマホを弄っているときも、風呂に入っているときも、眠っているときも。暇さえあれば、僕の手に触れてくる。長い指を絡ませて、手の甲に唇を寄せると、うっとりとしている。

 はじめの頃は、僕に対する情愛からの行動だと思い込んでいたが、それは、幸せな勘違いであることに気づくのに時間はかからなかった。彼は、病的なまでに「手」に執着している。

「ハンくん」

 彼は僕の左手をそう呼び出した。ハンドのハンくんだそうだ。どうかしているとしか思えない。

 ベッドに横になって眠るときは、いつも決まってハンくんと戯れる。僕の左手の甲にスリスリと頬に擦り付けて、筋を指でなぞる。それから指の根本の凹凸のある間接を一つ一つキスをする。唇をすぼめて、指を咥えてみたり、手の平を唇でなぞってみたり、そういう遊びに没頭する。

「いい加減に、離してくれ」

 いつまでも、好きにさせておくと、だんだん自分の手ではなくなっていくような錯覚に陥る。
 彼から奪い返して、指を曲げたり伸ばしたりする。そうやって、左手も自分の体の一部であり、自分の支配下にあることを再確認する。

「ねぇ、早く返してよ」

 彼は甘えた声で腕を引き、左手を奪い返す。頬に擦り寄せて、指を舐めると、服の中にもぐりこませた。
 彼の胸の突起に指があたる。軽く押し込むと、彼はうっとりと甘い吐息を吐いた。それを合図に、僕たちは互いに肌を貪り合う。
 彼が一番興奮するのは、彼の口に左手の中指と人差し指を咥えさせて、後ろから彼の中にぺニスを捩じ込む瞬間だった。

「あ、ああッ……イイッ…」

 腰を打ちながら、彼の口内を犯すように指を上顎に向けて擦り付ける。彼は顔を紅潮させ、淫らな声で鳴いている。潤んだ瞳はどこか虚ろで、ただただ快楽に貪りついている。
 そういう彼の醜態を可愛いとは思っていたが、最近では、まるで、彼とハンくんと僕で、3Pでもしているような気さえして、何とも言えない倒錯的な高揚を覚える。僕も彼にあてられて、おかしくなってきているのかもしれない。

 情事が終わっても、彼はハンくんと戯れる。親指を甘噛みしながら、うっとりとしている彼の顔に、よくもまあ、飽きないものだと呆れてしまう。

「僕とハンくん、どっちの方が好きなんだよ」
「ハンくんかな?」

 やっぱりな、と思った。

「あはは、冗談だよ」

 彼は可笑しそうに笑った。お前の手だから好きなんだよ、と言葉を重ねるので、都合よく誤魔化されておくことにする。

「じゃあ、オレとあいつ、どっちの方が好き?」

 ぎょっとした。あいつというのは、僕の幼馴染みで、彼の大学時代の友人を指していると察しがついた。

「なんてね。これも冗談」

 彼は寂しそうに笑う。そんな素振りを出したつもりもなければ、未練があるわけでもなかったが、彼には何か引っかかるものがあったのかもしれない。

 僕は彼の頬に左手を添えて、寂しそうな唇に自分の唇を重ねた。彼の色素の薄い瞳を覗き込む。そういえば、彼にはちゃんと言葉で伝えたことはなかったかもしれない。

「お前のこと好きだよ。手フェチの変態でも」

 彼は、一言余計だと文句を言いながらも、くすぐったそうに微笑んだ。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

助けの来ない状況で少年は壊れるまで嬲られる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

2人でいつまでも その2

むちむちボディ
BL
前作「2人でいつまでも」からの続きです。

ココログラフィティ

御厨 匙
BL
【完結】難関高に合格した佐伯(さえき)は、荻原(おぎわら)に出会う。荻原の顔にはアザがあった。誰も寄せつけようとしない荻原のことが、佐伯は気になって仕方なく……? 平成青春グラフィティ。 (※なお表紙画はChatGPTです🤖)

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...