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お前のことばかり考えている
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オレの価値はあくまでもオレの中に半分流れている王族の血だけで、オレ自身がこの場所に必要とされているわけではないことは百も承知だった。
それでもオレにはオレの意思がある。
この国の王子だからという理由一つで、すべての物事を受け止められるほど心は城に染まってはいなかった。
「ユリー?」
ぼんやりと天蓋を見上げていたオレの頬に、まだ熱を持ったままのウルの手のひらが触れる。
心地よさに目を細めてウルの方へと顔を向ければ、ウルは広い寝台の上で体を丸めてオレへと不安げな眼差しを向けていた。
「どっか、痛む? 俺、調子に乗ってやり過ぎちゃいましたか?」
「……んなことないって。むしろ、最近はどっちかっていえば気持ちいいことの方が多いっていうか……」
まだ春が来ていないというのに、あの夜以降にウルと肌を重ねた回数は両手でも数えきれないほどになっていた。
初めてで慣れていなかった体も、回数を重ねていけば自然とウルの体と馴染んでいって、今ではこうして終わった後でもしばらくは熱が引かなくなってしまっている。
ほっとした様子で息を吐いたウルは、オレの頬に触れたまま首を傾げた。
「それなら、何か心配事ですか?」
「……まぁ、な」
昼間のことを思い出し、胸の中が汚い空気で一杯になってしまったような気がして、オレは長い溜め息を吐くと頬に触れたウルの手を握り締める。
ウルとのことが既に城内で噂になっていることは、特に気にしていない。
王子の寵愛を受けているという噂があれば、直接的にウルに手出しをする輩はいなくなるからむしろ大歓迎だった。
もちろんこの先ウルのことが目障りになって危害を加えようとする者も現れるかもしれないが、その時にはアッシュが西の国でしばらくの間ウルを匿ってくれると約束してくれた。
どうしてそんなことを申し出てくれるのか最初は不思議だったけど、アッシュもウィリスと同じようにこの同盟の関係をより強固なものにしていきたいと考えているんだと笑っていた。
少し前の代までは同盟内でも各国で互いの足の引っ張り合いが目立ち、現在はそれがまだマシになったものの、より優位に立とうとする姿勢そのものは変わりがないのだと。
言い方は悪いが、そのために恩を売るんだと思ってくれて良いとアッシュは言っていた。でも、アッシュの毒気のない笑みを見ていれば、それは恩を売るというよりも信頼を得ようとする行為なのだということはすぐにわかった。
「……あのさ、ウル。もしここにいて身の危険を感じるようなことがあれば、オレに黙ってでも良いからすぐにアッシュのところに逃げ込んでくれ」
「何か身の危険を感じるようなことがあるかもしれないってことですか?」
「わかんないけどさ……今日、正妃から縁談の話をされた」
ウルは特別驚く様子もなくオレを見つめていた。そして、納得をしたような笑みを溢してオレの手を軽く握り返す。
「なんか今日のユリーは心ここにあらずだなって思ってました。縁談のこと、考えてたんすね」
ダメですよ、とウルは両手でオレの手を握り締めて首を振った。
「ベッドの上では俺のことだけ考えてて? ユリーのことを悩ませるものは、ここにはなんにもないんですから」
ウルの言葉に頷いて、一本ずつウルの手に指を絡めていく。くすぐったそうにウルは笑って、随分と綺麗なものを見つめるような眼差しをオレへと向けていた。
そんな風に見つめてもらえるほどのものだろうかと不安に思う気持ちもあるけれど、そんなことを言えばウルはきっと必死で否定してくるだろう。
「ウルのことだけ考えてたから縁談のことが頭から離れなかったんだよ」
絡めた指先から、ウルのぬくもりが伝わってくる。
さっきオレの体に触れた指先と同じ体温が、ほんの少し前まで繋がっていたウルの熱を思い出させた。
もうすっかりウルのことを覚えてしまったオレの体。ウルじゃない人間を相手に、同じことが出来るなんて想像できない。
空いている手をウルの肩に回し、その体を抱き締めた。オレよりも小さくて細い体なのに、ウルに抱かれることに安心してしまうオレがいる。
「もう、女抱ける気なんてしねーよ」
「ユリー……」
「ウル以外となんて無理だ」
女が抱けなくなればいいと思っている。初めて肌を重ねた冷たい夜、ウルはそう言った。
オレもあの時、それが良いと願った。
慣れきったウルのぬくもりが心地よい。ウル、と名前を呼べば、オレのことなんて全部わかっているように頷いて、オレのためだけに子守唄を歌い出す。
いつもは騒がしく聞こえるウルの穏やかで柔らかな歌声があれば、今まで眠れなかった夜も怖くない。
昔、母ちゃんがオレのために歌ってくれた子守唄を思い出す。もう二度と、手に入らないと思っていたものだ。
ウルを抱き締める腕に力を込めた。ウルもまた、オレから離れないようにと抱き締め返してくれる。
その分、ウルの歌声が近くなる。それが嬉しくて、益々ウルを強く抱き締めた。
それでもオレにはオレの意思がある。
この国の王子だからという理由一つで、すべての物事を受け止められるほど心は城に染まってはいなかった。
「ユリー?」
ぼんやりと天蓋を見上げていたオレの頬に、まだ熱を持ったままのウルの手のひらが触れる。
心地よさに目を細めてウルの方へと顔を向ければ、ウルは広い寝台の上で体を丸めてオレへと不安げな眼差しを向けていた。
「どっか、痛む? 俺、調子に乗ってやり過ぎちゃいましたか?」
「……んなことないって。むしろ、最近はどっちかっていえば気持ちいいことの方が多いっていうか……」
まだ春が来ていないというのに、あの夜以降にウルと肌を重ねた回数は両手でも数えきれないほどになっていた。
初めてで慣れていなかった体も、回数を重ねていけば自然とウルの体と馴染んでいって、今ではこうして終わった後でもしばらくは熱が引かなくなってしまっている。
ほっとした様子で息を吐いたウルは、オレの頬に触れたまま首を傾げた。
「それなら、何か心配事ですか?」
「……まぁ、な」
昼間のことを思い出し、胸の中が汚い空気で一杯になってしまったような気がして、オレは長い溜め息を吐くと頬に触れたウルの手を握り締める。
ウルとのことが既に城内で噂になっていることは、特に気にしていない。
王子の寵愛を受けているという噂があれば、直接的にウルに手出しをする輩はいなくなるからむしろ大歓迎だった。
もちろんこの先ウルのことが目障りになって危害を加えようとする者も現れるかもしれないが、その時にはアッシュが西の国でしばらくの間ウルを匿ってくれると約束してくれた。
どうしてそんなことを申し出てくれるのか最初は不思議だったけど、アッシュもウィリスと同じようにこの同盟の関係をより強固なものにしていきたいと考えているんだと笑っていた。
少し前の代までは同盟内でも各国で互いの足の引っ張り合いが目立ち、現在はそれがまだマシになったものの、より優位に立とうとする姿勢そのものは変わりがないのだと。
言い方は悪いが、そのために恩を売るんだと思ってくれて良いとアッシュは言っていた。でも、アッシュの毒気のない笑みを見ていれば、それは恩を売るというよりも信頼を得ようとする行為なのだということはすぐにわかった。
「……あのさ、ウル。もしここにいて身の危険を感じるようなことがあれば、オレに黙ってでも良いからすぐにアッシュのところに逃げ込んでくれ」
「何か身の危険を感じるようなことがあるかもしれないってことですか?」
「わかんないけどさ……今日、正妃から縁談の話をされた」
ウルは特別驚く様子もなくオレを見つめていた。そして、納得をしたような笑みを溢してオレの手を軽く握り返す。
「なんか今日のユリーは心ここにあらずだなって思ってました。縁談のこと、考えてたんすね」
ダメですよ、とウルは両手でオレの手を握り締めて首を振った。
「ベッドの上では俺のことだけ考えてて? ユリーのことを悩ませるものは、ここにはなんにもないんですから」
ウルの言葉に頷いて、一本ずつウルの手に指を絡めていく。くすぐったそうにウルは笑って、随分と綺麗なものを見つめるような眼差しをオレへと向けていた。
そんな風に見つめてもらえるほどのものだろうかと不安に思う気持ちもあるけれど、そんなことを言えばウルはきっと必死で否定してくるだろう。
「ウルのことだけ考えてたから縁談のことが頭から離れなかったんだよ」
絡めた指先から、ウルのぬくもりが伝わってくる。
さっきオレの体に触れた指先と同じ体温が、ほんの少し前まで繋がっていたウルの熱を思い出させた。
もうすっかりウルのことを覚えてしまったオレの体。ウルじゃない人間を相手に、同じことが出来るなんて想像できない。
空いている手をウルの肩に回し、その体を抱き締めた。オレよりも小さくて細い体なのに、ウルに抱かれることに安心してしまうオレがいる。
「もう、女抱ける気なんてしねーよ」
「ユリー……」
「ウル以外となんて無理だ」
女が抱けなくなればいいと思っている。初めて肌を重ねた冷たい夜、ウルはそう言った。
オレもあの時、それが良いと願った。
慣れきったウルのぬくもりが心地よい。ウル、と名前を呼べば、オレのことなんて全部わかっているように頷いて、オレのためだけに子守唄を歌い出す。
いつもは騒がしく聞こえるウルの穏やかで柔らかな歌声があれば、今まで眠れなかった夜も怖くない。
昔、母ちゃんがオレのために歌ってくれた子守唄を思い出す。もう二度と、手に入らないと思っていたものだ。
ウルを抱き締める腕に力を込めた。ウルもまた、オレから離れないようにと抱き締め返してくれる。
その分、ウルの歌声が近くなる。それが嬉しくて、益々ウルを強く抱き締めた。
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