孤独な王子は道化師と眠る

河合青

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同盟国の王子達

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 三、四日に一度が二日に一度に変わり、そしていつのまにか毎晩のようにウルを自室へと招くことが当たり前になっていった。
 隣国の制圧を終えてから、早数ヵ月。以前よりも噂が悪化している様子に、ウィリスは眉間のシワを深くしてオレを見上げていた。
「ユリウスさん」
「……ごめんなさい」
「まだ何も言っていませんが」
「言わなくてもわかるから」
 再び訪れた定例会議の中で、三ヶ月ぶりに顔を合わせたウィリスへとオレは頭を下げた。
 噂について、アッシュの耳には入っていないのか状況がわからない様子で首を傾げている。今回もアッシュの兄は会議は欠席らしい。
 今回の開催地はウィリスの国だ。
 その上、ウィリスがオーキスを従者として他国へと同行させるようにオレもウルを今回の会議に同行させている。
 名目上は宴の席での芸人として、だ。
 もちろん会議に出席をすることはないが、オレがウルを手元から離さないその姿勢をウィリスは良くは思わないのだろう。
 だけど、仕方がないだろ。
 ウルのことを一人で国に置き去りにしたら、他のやつらに何をされるかわからない。
 ウィリスは長い溜め息のあと、オレの半歩後ろに立つウルへと軽く睨み付けるような視線を向けた。
 ウル自身はそれが特別珍しいことでもないのか、気にする様子もなくにこにこ笑顔を浮かべていた。
「別に僕がユリウスさんの振る舞いに口出しをする権利なんてありませんが、あまりにも目に付くようだと後々大変になるのはユリウスさん自身ですよ」
「でもさ、実際に噂されるようなことがウルとの間にあるわけじゃないんだけど」
 オレの寵愛を受けているという意味ならあながち間違いでもないかもしれないが、実際ウルがオレにしてくれていることは毎晩子守唄を歌ってくれることだけだ。
 周囲が心配するような肉体関係などそこにはない。
 ウィリスもそれはわかっていると首を振り、辺りを見渡すとオレたち以外に人がいないことを確認してから口を開いた。
「このままユリウスさんに男色家などと噂が広まってしまえば、ユリウスさんの意思とは関係なしに王妃様の決められた相手との婚姻が進められてしまうでしょう。……将来的には妻を迎えること自体は避けられないでしょうけれど、今のユリウスさんではまだ王城内でもご自身の立場が確立出来ていませんから何一つ望まぬ形の婚姻になると思いますよ」
「それは勿体ないな! ユリウスってかなり人気あるから相手は選び放題だろ? この間のパーティーだってダンスのお誘いが止まなかったしさ。そりゃ家柄とか全く気にせずに選んでいいわけじゃないけど、少しでも自分が好きだなって思える子をお妃に迎えた方が絶対良いだろ!」
 向日葵のような金髪をさっぱりと切り整えているアッシュの粗野な言動は、その少年らしさ残る外見も相まって王子と呼ぶよりも一兵士の方が似合っている。
 それも本人が第二王子であり、将来的に自分が王位を継ぐとは考えていないことが理由の一つなのだろうか。
「アッシュはまたそうやって軽く考えて……。僕はそんな風に好きだからなどという理由で妻を選ぶべきではないと思います。ただ、自分の足枷になるような相手をわざわざ迎え入れる必要もないと思いますね」
 村に住んでいた時ですら結婚も恋人も考えたことなかったから、いきなりお妃やら婚姻やらと話し出されても正直よくわからなかった。
 ただ、二人がオレのことを心配してくれるのはよくわかる。ウィリスの隣に控えているオーキスは、オレと目が合うとそっと微笑んだ。
「ウィリス様は王妃様だったお母様が早くに亡くなって……それからウィリス様に取り入ろうと自分の娘を許嫁にって多くの声を掛けられて来ましたから。ユリウス様にも同じ想いをしてほしくないんだと思いますよ」
「……オーキス。余計なことは言わなくて良いから。とにかく、今のユリウスさんには協力な後ろ盾がなく、周囲はいくつかの実績と陛下の様子を窺っているからどう手出ししていいのかわからない状態なんです。付け入る隙を見せてしまえばそこからユリウスさんを自分の操り人形にしたいと考える人は多いでしょう」
「ユリウスを手駒にしたいヤツは多いと思うな。ユリウスって民人気は高いんだぜ? 俺が前に街で話聞いた時にはカッコいいって特に女の子たちが騒いでたな」
「それだと顔だけじゃないですか」
「違うって! 顔もそうだけど、よく城下町の様子見に来たりだとか、戦果も上げてるし、それに出自が平民ってのもあって期待されてんだよ。だからユリウスを味方に付ければそういう市民たちへのアピールにもなるって考えるヤツはいると思うぜ」
 みんながそれぞれにオレのことを心配してくれているのはよくわかった。
 特にオレはみんなと違い城での生活自体に慣れていない。何を気を付ければ良いのかもわからないから、こうして気に掛けてもらえるのは素直に有り難かった。
「……多分ですけど、ユリーにすぐ婚約者を付けるっていうのは難しいですよ」
「え?」
 突然割り込んできたウルの言葉に、全員の視線がウルに集中した。
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