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ダーマフィバーの些事
②
しおりを挟む「高梨君は、こういう趣味なのかね?」
会員制のバーにて。
ウィスキーを片手に、写真の感想を述べた武藤先生に「違います!」と失礼にも、カウンターにグラスを叩きつけた。
が、もうウィスキー五杯目で、そのグラグが空ともなれば、大目に見てくれて、俺がくだをまくのにも、耳を傾けてくれる。
「とくにSでもMでもないです!
ただ、昔から、『気持ちよくない』『愛が感じられない』って不評で、まともな交際ができなくなって、風俗に頼るようになったんです!
商売だったら、多少、サービスで、嘘でも気持ちいいふりをしてくれますからね!
なのに、ダーマの店といったら!
同性愛者が多い国のはずなのに、全然、優しくしてくれなかった!
『お客さん、ひどいにも程がある』『これ以上、つづけようとするなら、通報する』って脅してきて!」
で、「それだけは、ご勘弁」とパンツ一丁で土下座をしたわけだ。
笑いどころとはいえ、紳士でダンディーな武藤先生は「そりゃあ、災難だったね」とグラスの氷を揺らすだけで、聞き流してくれる。
ふり向いて告げた一言、「やっぱり、君はネコの体質なのじゃないか?」は余計だったが。
「選挙の神」と謳われる与党の重鎮、武藤先生は同性愛者であり、初手から俺の尻を揉んできたほどの好き者だ。
政界の人間の誰にも、性的傾向を明かすつもりはなかったが、お誘いに「俺はタチ専なので」と断ったことで、知られてしまい、以来、たまに二人で飲んでいる。
飲むたびに「私の目利きは、外れることがないんだがな」「高梨君は、どうもタチっぽくないのだよね」とそこはかとなーく、ネコになるよう誘導されている気がするものの、それはともかく。
今回、俺のほうから誘ったのは、「ネコになります」宣言をするためではない。
さる国とキマシア、両方からハニートラップにかけられて、板挟みになっている苦境を訴え、相談するためだった。
キマシアの大使館でのパーティーまで後五日。
三日前までには返事が欲しいと、告げられたので、後二日しか猶予がない。
といって、どちらの国かと武藤先生に間に入ってほしいと、頼みにきたのではなかった。
ハニートラップにかかって、板挟みになるなんて、馬鹿げた失態をしておいて、さすがに人に助けは請えやしないというもの。
議員失格なのを認め、潔く辞めるつもりでいた。
元々、「国にこの身を捧げよう!」というほど高い志も、「一旗揚げたる!」という意欲もなかったし。
貢ぐための資金源を失くすのは惜しいが、スキャンダルになるほうが嫌だったし。
ただ、問題なのは、辞めたとして、さる国がどういう出方をするか、分からないことだ。
気品高い王子は、尾っぽを巻いて逃げた腑抜けなどに、かまやしないだろう。
一方で、さる国は「恨みは千年忘れない」と標榜する、お国柄だ。
使いえない工作員でも、「ハニートラップにかけた手間や金の分、まだ働いていないだろ」と借金の取り立てよろしく、尚もつきまとってきそうだった。
実際は、どうなのかと、武藤先生には聞くつもりだった。
武藤先生は大御所ながら、一度も金や女(いや、男)問題やスキャンダルで、足をすくわれたことがない。
世間的にもクリーンなイメージを保っていて、ハニートラップの裏事情なんかと無縁そうだが、そうではないだろう。
好き者ながら、クリーンなイメージを保っていられるのは、逆に裏事情に精通した上で、抜け目なく狡猾に立ち回っているからだ。
これまで、そのノウハウをすこし、教えてもらったこともある。
まあ、今回ばかりは、武藤先生に抜け道を伝授してもらうわけにはいなかいだろうと、思っていたのが、「そうでもないよ」と。
「辞めることもないし、ハニートラップから逃れられる方法があるといったら、どうする?」
どうする?とは、まあ、そういうことだ。
「辞めたほうが、容赦なく扱われるかもしれないね」と忠告されたからに、降参するしかなかった。
これでは、誰に脅されているのか、分からなくなってくるが・・・。
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