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ダーマの平日
③
しおりを挟む日本にキマシアの大使館ができ、僕が赴任して起こったダーマフィーバーが一段落したころ。
日本の政治家は元より、外国の政治関係者に一通り挨拶しつつ、その人間性や金回り裏表の人間関係など、実態も一通り掴んでから、キマシアの大使館で各国の大使を招待しての、親睦パーティーを催した。
ここで満を持して、ハニートラップの手駒のタカハシサンを投入するつもりだ。
招待客の目玉は重鎮であり、さる国のお目付け役の武藤議員だが、キマシアの大使にして王子の僕と、各国の賓客の間を取り持つのは、浴衣姿のタカハシサン。
もちろん、僕が浴衣を着るようリクエストした。
日本文化を勉強して驚いたのは、浴衣をはじめ、日本人の美的感覚は、基本、質素なことだ。
ダーマの城の豪奢さ、民族衣装の色鮮やかさ、ごてごてな着飾りっぷりと比べたら、日本の王、歴代、天皇や将軍などの城は、外装も内装もシンプル。
着るものも、十二単などは別格にして、さほど着重ねしないし、首飾りや指輪、耳輪など、装飾品を身につけない。
ただでさえ顔の濃いキマシア人がデコレーションしては、目が潰れそうに、きらびやかとはいえ、ただでさえ顔の薄い日本人が、地味に装っては哀れを誘うほど寂しげ。
なのが、悪くはない。
礼儀正しく、規律を守り、和を尊ぶ日本人は、内面の軸に揺るぎがないので、見栄を張ったり、威圧したり、拒絶したり、外面でかまえることがないのだろう。
ただ、そういった芯の強さがあるせいか、僕の瞳が緑だろうとかまわず「イケメン王子」ともてやはすほど、くるもの拒まずな博愛精神にも満ちている。
というより、やや無知蒙昧で、警戒心が足りないところがある。
日本人のこの無防備さは、着崩れさせやすく、脱がせやすい、どこからでも手を差し入れられるし、なんならペニスだって脱がせず挿入できる、浴衣の構造にも反映されている。
そんな襟から胸の突起が覗けるような、薄い布でしか体を覆っていないくせに、人一倍貞操観念を持っているから、裾をめくられ、ペニスを突っこまれれば「やだ」「だめ」と口うるさい。
外国では、セックスアピールをする相手は、大抵、事に及んでも、そのまま乗り気だから、日本人のこの矛盾したふるまいは理解しがたい。
が、はじめは驚くだろうものを、一度、いやいやあんあんを味わったら、後戻りができなくなる。
僕の経験からしても、そう。
タカハシサンを抱いた後、女の相手をしたものの「もっともっと」「いい、いい」と景気よく善がられて、心身が萎えてしまった。
おかげで、以後、勉強ついでに、日本のアダルト作品を漁り、それでも物足りなくて、タカハシサンをひどく恋しがったもので。
人恋しさを覚えたのは、母親を亡くし、ダーマに連れてこられた直後、以来かもしれない。
恋しいあまりに、日本の大使にさせてくれるよう、国王に提言したと、否定もしきれない。
生い立ちのせいか、人に固執することがない僕が、肉欲とはいえ、求めてやまなくなったほど、タカハシサンには中毒性があった。
この中毒性を持ってすれば、セックススキャンダルを弱みにして、従わせるまでもなく、相手は虜になって、自ら望み、すすんで手を貸すだろう。
前者より後者のほうが、積極的に働いてくれるし、罠にかかった自覚をあまり持たないから、なんなら、警戒心が強く疑い深い人間のほうが、のめりこみやすい。
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