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俺と間男と間男
⑥
しおりを挟む夢も見ずに泥のように眠って、このまま起きれないかと思ったけど、漂ってきたその匂いに反応しないでいられなかった。
薄く目を開ければ、昨夜、見上げたのとまた違う見慣れない天井で、横たわっているのはベッドのさらさらのシーツの上だ。
心身、疲弊しきっては指の先を動かすのも億劫だったものを、香ばしい匂いがしてくるほうに何とか顔を向ける。
視線の先には扉の隙間があって、カーテンが閉め切られた薄暗い室内に、そこから眩い明かりが漏れていた。
朝の爽やかな日差しを眺めて、ますます起きたくなくなったとはいえ、冗談でなく腹と背中がくっつきそうに極限の空腹になっていたから、布団から這いずりでてベッド脇にあるサイドテーブルに手をつき、どうにか立ち上がってみる。
全身気だるくてしかたなく、膝に力が入らなければ腰も痛くて、老人のように腰を曲げたまま、足を引きずっていき扉を開けた。
眩い視界の中で真っ先に目がいったのは、テーブルに並べられた、ご飯とみそ汁、納豆、卵焼きだ。
とたんに腹が景気良く鳴って、台所でお茶を入れていた優男が顔を上げ「おはよう」と笑いかけてきた。
「お」と言いかけて、声が嗄れて出てこずに小さく会釈する。
テーブルには日本人的百点満点の朝食が両向かいに並べられている。湯呑を片手に優男が片側に座ったので、俺はよろよろとしながら向かいに座った。
気まずいのと空腹で、ひたすら朝食を見つめる俺に、優男は微かに笑いを漏らしつつ「いただきます」と言った。
後に続いて、声が出ない代わりにきちんと合掌して箸を手に取る。
まず卵焼きを箸でとり、口に持っていったなら、甘い出汁がじゅわっと口内に広がり、そしたらもう我慢ができずにご飯をかきこんだ。
ご飯を口の中に詰めこむだけ詰めこんで、満足げに咀嚼し、途中で我に返って向かいを見やる。
優男のほうは箸を手に取らずに、湯呑に口をつけつつ、こちらを微笑ましそうに見ていた。
慈しみあふれるようなその視線がどうにも落ち着かなくて、ご飯を飲みこむと「あんた、いいのか」と所在なく箸をさ迷わせた。
「優しくされるのが怖いというのは、きっと直らない。
いちいち怖がられたら面倒くさいもんじゃないのか」
この期に及んで腰が引けている俺に「あたなこそ、分かっていないよ」と優男は湯呑を置いて言い聞かせた。
「優しくされて怖がるなんて、そんな面白い人、中々いません。
ずっと傍で見ていたい。
だから直らなくてもいいんですよ」
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