335 / 360
第九章 アイリスとアイーダ
その13 ガルガンドのスノッリ氏族長
しおりを挟む
13
高熱を出して寝込んでいたとき、わたし、アイリスは、思い出した。
かつての「はじめのアイリス」のときは、カルナックお師匠さま人間に愛想をつかして精霊の世界に還ってしまっていたってことを。
ああ、こんなときにお師匠さまが人間界にとどまっていてくれたらって、何度、思っただろう……。
今回は、どうか、そんなことになりませんように。心から願う。
さて、幼女の看板を下ろしたいと決意したけど、聖女に認定されるのも、いやだなー。
聖女はブラック職業なのよ!
劣悪な環境で休みもなく働かされ続けて。
家族とも引き離されて過労死寸前だったアイリスを守ろうとしたからって、お母さま、お父さま、エステリオ叔父さまは国に殺された。庇ってくれていたエルナト兄さまとヴィーア・マルファ姉さまもグーリア帝国との戦争にかり出されて戦死してしまった。
それで「はじめのアイリス」は「全てを諦めた」。
アイリスを駆り立てたものは憤りだったか絶望だったか、今となってはよくわからないの。それは、わたしであって「わたし」ではない。
きっと……もう、何もかもどうでもよくなって、エナンデリア大陸ごとぶっ壊しちゃったんだ。
でも、今回は、ちがう。
瀕死のマクシミリアンくんを蘇生できたのは、白竜さまの加護のおかげだもの。
繰り返します。加護のおかげなの。
だから、アイリスは聖女じゃないよね……
たぶん。(希望的観測)
※
ところで、我がラゼル家の大広間はいま、大がかりな改装が行われています。
六歳の誕生日に開催した大事なお披露目会に、招待もしていないのに勝手に押しかけてきたヒューゴーお爺さまのせいで、大広間が破壊されてめちゃくちゃになっちゃったから。
まだどこかに何かしら危険物が仕掛けられているんじゃないかって館じゅうを調べて、床も張り直して元通り以上にきれいにするんだって、お父様が張り切っている。
魔法的な意味でも、そのほかに物理的な、たとえば軍隊に攻め込まれても持ちこたえられるようにしたいというんだけど……。
何を目指しているのかしらお父さま。
あまり目立たない方がよくないかな?
うちは平民、ただの商人だもの。
お父さま、くれぐれも処世には気をつけて!
わたしたち家族は、お父さまのこと、とても大切で、心配しているのだから。
そして、お爺さまのことで一つ。
事件のあとになって、壊れた『円環呪』の側に、ひからびたミイラみたいなものが転がっていたの。
それが、お爺さまだった。
カルナック様がお調べになって、おっしゃるには。
おじいさまは、もう、とっくの昔に死んでいたんだ、って。
ぞっとしたわ。
じゃあ、確かに会って話したはずの、お爺さまは……?
「邪な魔法の痕跡を嗅ぎ分けることに、そしてそれを排除することにかけてはガルガンドは一流だからね」
サファイアさんの目が、青みを帯びて艶やかに光を放つ。
すごくきれいで、すこし、怖い。
「ガルガンド?」
「そうよ。ガルガンド氏族国の民は精霊枝族と呼ばれ、公式にはどの国とも同じように距離を置いているの。他国に赴き、住み着いているガルガンドの民は、かの故郷の国とは関係なく『エルフ』と『ドワーフ』と名乗ることをエルレーン大公によりお墨付きを賜ったってわけ。……遠い昔にね」
その青い目は、どこかはるか彼方を見ているように思えた。
「アイリスお嬢さま、大広間に行きましょうか。エルフとドワーフの仕事に、興味があるんでしょ?」
熱を出していたのだからと、サファイアさんはわたしを抱き上げる。
「もう、だいじょうぶなのに」
「念のためですわ、お嬢さま」
サファイアさんは大股で、いえ、歩幅大きめで、さくさく歩くのです。しかも揺れない。
書斎を出て廊下を進む。
家のあちらこちらで作業をしている人がいる。
我がラゼル家では、かなり大がかりな魔術的検証が行われているの。
お爺さまがどこに何を仕掛けているかわからないから。
本人が死んでしまっているから、よけいに。
長くのばした淡い金髪に明るい色の目、色白でほっそりした人たちが、計器みたいなものを持って、手を壁や床にかざしている。
「あれがエルフ。魔法の痕跡を追うのに長けているの」
それからふっと笑って。
「ルビー=ティーレもそうでしょう?」
「そうなのね……あの人たち髪や目の色、ルビーさんに似ているみたい」
「ルビー=ティーレはガルガンド国の『エルフ氏族』でしたから。ドワーフと含めて、きわめて精霊に近しい種族で、セ・エレメンティアとも呼ばれる精霊枝族(せいれいしぞく)という区分になります」
移動しながらサファイアさんは説明してくれた。
あっという間に、大広間に着いた。
「そして、あれがドワーフ。エルフより身長は低めで、黒髪が多いですね」
指さしたところにいたのは、あたしがイメージしていたのにそっくりな、黒髪で体型はジャガイモに似てる、おじさんの背中だった。
「おおい! スノッリ・ストゥルルソン! わたしだ!」
サファイアさんが手をあげて、彼を呼んだ。
我が家の大広間だったところは、現在、床を全部剥がして土を掘り返している。
その作業場の入り口に、彼は立っていて、全体の作業を監督しているようだった。
少し縮れた黒髪が肩から背中にかかるくらい。
どちらかといえばジャガイモ体型。
「なんじゃい。わしの名前を呼びおるのは。どこの坊主かな」
振り返り、愛嬌のある顔に、にやりと笑みを浮かべた。
「誰かと思えばリディか。いかんぞ、いくらお仕着せのメイド服など身につけておっっても、その言葉遣いは、ないわい。すぐにボロがでるぞい。思い出すのう。出会った頃は、髪も短いし男の子みたいな格好をしておったの」
「それは護身のためだってば!」
「ははは。なかなか見所のある坊主だと思っとったぞ」
「ああ、いやだな~、おやっさんの前だと昔に戻っちゃうな~。いけない、いけない。気をつけなくっちゃ! いい女はツライわ~」
サファイア=リドラさんはにっこりと笑顔を作った。
「スノッリの親父さんは古い知り合いだよ。昔、サウダージ共和国で苦労していたときに助けてもらった恩人」
「事情をきいても、いい?」
「お嬢さまの、お望みとあらば」
少しばかり芝居がかった口調で。
「サウダージは恐ろしい国。魔力持ちだとわかれば捕まる。で、捕まえて処刑するかと言えばそうではない。捕らえて奴隷にし、道具として消費し使い潰すのさ」
サファイアさんは無表情に言った後、スノッリさんのほうを見やった。
表情がゆるみ、微笑みを浮かべる。
「スノッリは困ってる人を助ける活動をしているの。仕事の合間にね。カルナックお師匠と一緒にサウダージ共和国を脱出するときに、まあいろいろ、書類偽造とかさ……あ、今のはナシね!」
「それはナイショじゃぞ!」
スノッリさんは近くにやってきた。
頭に被っていた毛皮のとんがり帽子を取り、胸に当てて。
「おお。絹糸のような黄金の髪。エスメラルダのような緑の瞳。おとぎ話の姫君かと思いましたぞ。察しますところに、この館のお嬢さまでございますかの。お初にお目にかかりまする、わしは銀細工師スノッリ・ストゥルルソンにございますでな」
真っ黒な、キラキラした目で見るの。
「はじめまして、スノッリ・ストゥルルソンさん。わたしはアイリス・リデル・ティス・ラゼルです。抱っこのままで、ごめんなさい」
わたしが身を乗り出すと、スノッリさんは身体を揺すって笑った。
「おおい皆、しばらく休憩じゃ!」
合図をすると、作業をしていた三十人ほどの人たちが手を止め、思い思いの場所に腰を下ろした。エルフっぽい金髪で白い人も、ドワーフっぽい黒髪の人も。
スノッリさんはとっても気さくで明るく楽しいおじさんだった。
ひげ面で、お酒好きそうな赤ら顔をしている。
「ドワーフとエルフという氏族名か。……そうじゃな、何百年前のことになるかのう……エルレーン公国首都シ・イル・リリヤに学院を設立した『影の呪術師(ブルッホ・デ・ソンブラ)』と呼ばれていた魔法使いに、当時の公女さま、ルーナリシア殿下が嫁ぎなすった」
うん、知ってる。
夢の中だったのか、それとも魂だったのか……精霊の白き森に、招かれて。とても美しいお姫さまに会ったことを覚えている。
「披露宴に招待された、わしらガルガンド氏族は、祝いの品を献上したんじゃよ。エルレーン大公殿には天空より降りし鋼を鍛えた星の剣を。ルーナリシア公女様には銀細工にお名前にちなんだ宝石、月晶石(ルーナリシア)をちりばめたティアラを。魔法使いには星を宿したトネリコの枝を。大公様はいたくお気に召して、細工師にはエルフと、鍛冶師にはドワーフと名乗ることを許すと、お墨付きを頂いた」
「エルレーン大公の一存で決めたことではないの。《世界の大いなる意思》が、それを許したと、カルナック師匠から聞いているわ」
サファイア=リドラさんが、あたしの髪を撫でて笑う。
「ガルガンド氏族国家は、元々、いくつかの氏族の集まりだ。わしらみたいな魔力なしもいるし、ティーレのような『精霊似』のやつらもいる。ドワーフだエルフだ、ごたいそうな氏族名をいただいたもんだが、まぁ、みんな結局は、同じ鍋のスープを食った仲。一声かけりゃ仲間が集まるってもんよ」
スノッリさんは、にんまりと笑って。
「わしは魔力無しだが、ひとの魔力の多さはわかる。お嬢さまは相当なもんだ。リディやティーレよりも多い。こんなのはカルナック様とコマラパ様以来だ。お嬢さまは《世界の大いなる意思》に愛されている。気に入った!」
再び、がはは、と身体を揺すって豪快に笑う。
「なんかあったら、一声かけな。ガルガンドの傭兵は皆、わしの号令で動く」
「傭兵?」
ぴんときてないわたしに、サファイアさんはそっと告げる。
「ガルガンド軍は昔から傭兵としても有名なのだけど、いつでも、何よりもアイリスちゃんの要望を優先して受ける。そう誓ってくれたのよ」
「え! それって、もしかして、すごいことじゃない!?」
高熱を出して寝込んでいたとき、わたし、アイリスは、思い出した。
かつての「はじめのアイリス」のときは、カルナックお師匠さま人間に愛想をつかして精霊の世界に還ってしまっていたってことを。
ああ、こんなときにお師匠さまが人間界にとどまっていてくれたらって、何度、思っただろう……。
今回は、どうか、そんなことになりませんように。心から願う。
さて、幼女の看板を下ろしたいと決意したけど、聖女に認定されるのも、いやだなー。
聖女はブラック職業なのよ!
劣悪な環境で休みもなく働かされ続けて。
家族とも引き離されて過労死寸前だったアイリスを守ろうとしたからって、お母さま、お父さま、エステリオ叔父さまは国に殺された。庇ってくれていたエルナト兄さまとヴィーア・マルファ姉さまもグーリア帝国との戦争にかり出されて戦死してしまった。
それで「はじめのアイリス」は「全てを諦めた」。
アイリスを駆り立てたものは憤りだったか絶望だったか、今となってはよくわからないの。それは、わたしであって「わたし」ではない。
きっと……もう、何もかもどうでもよくなって、エナンデリア大陸ごとぶっ壊しちゃったんだ。
でも、今回は、ちがう。
瀕死のマクシミリアンくんを蘇生できたのは、白竜さまの加護のおかげだもの。
繰り返します。加護のおかげなの。
だから、アイリスは聖女じゃないよね……
たぶん。(希望的観測)
※
ところで、我がラゼル家の大広間はいま、大がかりな改装が行われています。
六歳の誕生日に開催した大事なお披露目会に、招待もしていないのに勝手に押しかけてきたヒューゴーお爺さまのせいで、大広間が破壊されてめちゃくちゃになっちゃったから。
まだどこかに何かしら危険物が仕掛けられているんじゃないかって館じゅうを調べて、床も張り直して元通り以上にきれいにするんだって、お父様が張り切っている。
魔法的な意味でも、そのほかに物理的な、たとえば軍隊に攻め込まれても持ちこたえられるようにしたいというんだけど……。
何を目指しているのかしらお父さま。
あまり目立たない方がよくないかな?
うちは平民、ただの商人だもの。
お父さま、くれぐれも処世には気をつけて!
わたしたち家族は、お父さまのこと、とても大切で、心配しているのだから。
そして、お爺さまのことで一つ。
事件のあとになって、壊れた『円環呪』の側に、ひからびたミイラみたいなものが転がっていたの。
それが、お爺さまだった。
カルナック様がお調べになって、おっしゃるには。
おじいさまは、もう、とっくの昔に死んでいたんだ、って。
ぞっとしたわ。
じゃあ、確かに会って話したはずの、お爺さまは……?
「邪な魔法の痕跡を嗅ぎ分けることに、そしてそれを排除することにかけてはガルガンドは一流だからね」
サファイアさんの目が、青みを帯びて艶やかに光を放つ。
すごくきれいで、すこし、怖い。
「ガルガンド?」
「そうよ。ガルガンド氏族国の民は精霊枝族と呼ばれ、公式にはどの国とも同じように距離を置いているの。他国に赴き、住み着いているガルガンドの民は、かの故郷の国とは関係なく『エルフ』と『ドワーフ』と名乗ることをエルレーン大公によりお墨付きを賜ったってわけ。……遠い昔にね」
その青い目は、どこかはるか彼方を見ているように思えた。
「アイリスお嬢さま、大広間に行きましょうか。エルフとドワーフの仕事に、興味があるんでしょ?」
熱を出していたのだからと、サファイアさんはわたしを抱き上げる。
「もう、だいじょうぶなのに」
「念のためですわ、お嬢さま」
サファイアさんは大股で、いえ、歩幅大きめで、さくさく歩くのです。しかも揺れない。
書斎を出て廊下を進む。
家のあちらこちらで作業をしている人がいる。
我がラゼル家では、かなり大がかりな魔術的検証が行われているの。
お爺さまがどこに何を仕掛けているかわからないから。
本人が死んでしまっているから、よけいに。
長くのばした淡い金髪に明るい色の目、色白でほっそりした人たちが、計器みたいなものを持って、手を壁や床にかざしている。
「あれがエルフ。魔法の痕跡を追うのに長けているの」
それからふっと笑って。
「ルビー=ティーレもそうでしょう?」
「そうなのね……あの人たち髪や目の色、ルビーさんに似ているみたい」
「ルビー=ティーレはガルガンド国の『エルフ氏族』でしたから。ドワーフと含めて、きわめて精霊に近しい種族で、セ・エレメンティアとも呼ばれる精霊枝族(せいれいしぞく)という区分になります」
移動しながらサファイアさんは説明してくれた。
あっという間に、大広間に着いた。
「そして、あれがドワーフ。エルフより身長は低めで、黒髪が多いですね」
指さしたところにいたのは、あたしがイメージしていたのにそっくりな、黒髪で体型はジャガイモに似てる、おじさんの背中だった。
「おおい! スノッリ・ストゥルルソン! わたしだ!」
サファイアさんが手をあげて、彼を呼んだ。
我が家の大広間だったところは、現在、床を全部剥がして土を掘り返している。
その作業場の入り口に、彼は立っていて、全体の作業を監督しているようだった。
少し縮れた黒髪が肩から背中にかかるくらい。
どちらかといえばジャガイモ体型。
「なんじゃい。わしの名前を呼びおるのは。どこの坊主かな」
振り返り、愛嬌のある顔に、にやりと笑みを浮かべた。
「誰かと思えばリディか。いかんぞ、いくらお仕着せのメイド服など身につけておっっても、その言葉遣いは、ないわい。すぐにボロがでるぞい。思い出すのう。出会った頃は、髪も短いし男の子みたいな格好をしておったの」
「それは護身のためだってば!」
「ははは。なかなか見所のある坊主だと思っとったぞ」
「ああ、いやだな~、おやっさんの前だと昔に戻っちゃうな~。いけない、いけない。気をつけなくっちゃ! いい女はツライわ~」
サファイア=リドラさんはにっこりと笑顔を作った。
「スノッリの親父さんは古い知り合いだよ。昔、サウダージ共和国で苦労していたときに助けてもらった恩人」
「事情をきいても、いい?」
「お嬢さまの、お望みとあらば」
少しばかり芝居がかった口調で。
「サウダージは恐ろしい国。魔力持ちだとわかれば捕まる。で、捕まえて処刑するかと言えばそうではない。捕らえて奴隷にし、道具として消費し使い潰すのさ」
サファイアさんは無表情に言った後、スノッリさんのほうを見やった。
表情がゆるみ、微笑みを浮かべる。
「スノッリは困ってる人を助ける活動をしているの。仕事の合間にね。カルナックお師匠と一緒にサウダージ共和国を脱出するときに、まあいろいろ、書類偽造とかさ……あ、今のはナシね!」
「それはナイショじゃぞ!」
スノッリさんは近くにやってきた。
頭に被っていた毛皮のとんがり帽子を取り、胸に当てて。
「おお。絹糸のような黄金の髪。エスメラルダのような緑の瞳。おとぎ話の姫君かと思いましたぞ。察しますところに、この館のお嬢さまでございますかの。お初にお目にかかりまする、わしは銀細工師スノッリ・ストゥルルソンにございますでな」
真っ黒な、キラキラした目で見るの。
「はじめまして、スノッリ・ストゥルルソンさん。わたしはアイリス・リデル・ティス・ラゼルです。抱っこのままで、ごめんなさい」
わたしが身を乗り出すと、スノッリさんは身体を揺すって笑った。
「おおい皆、しばらく休憩じゃ!」
合図をすると、作業をしていた三十人ほどの人たちが手を止め、思い思いの場所に腰を下ろした。エルフっぽい金髪で白い人も、ドワーフっぽい黒髪の人も。
スノッリさんはとっても気さくで明るく楽しいおじさんだった。
ひげ面で、お酒好きそうな赤ら顔をしている。
「ドワーフとエルフという氏族名か。……そうじゃな、何百年前のことになるかのう……エルレーン公国首都シ・イル・リリヤに学院を設立した『影の呪術師(ブルッホ・デ・ソンブラ)』と呼ばれていた魔法使いに、当時の公女さま、ルーナリシア殿下が嫁ぎなすった」
うん、知ってる。
夢の中だったのか、それとも魂だったのか……精霊の白き森に、招かれて。とても美しいお姫さまに会ったことを覚えている。
「披露宴に招待された、わしらガルガンド氏族は、祝いの品を献上したんじゃよ。エルレーン大公殿には天空より降りし鋼を鍛えた星の剣を。ルーナリシア公女様には銀細工にお名前にちなんだ宝石、月晶石(ルーナリシア)をちりばめたティアラを。魔法使いには星を宿したトネリコの枝を。大公様はいたくお気に召して、細工師にはエルフと、鍛冶師にはドワーフと名乗ることを許すと、お墨付きを頂いた」
「エルレーン大公の一存で決めたことではないの。《世界の大いなる意思》が、それを許したと、カルナック師匠から聞いているわ」
サファイア=リドラさんが、あたしの髪を撫でて笑う。
「ガルガンド氏族国家は、元々、いくつかの氏族の集まりだ。わしらみたいな魔力なしもいるし、ティーレのような『精霊似』のやつらもいる。ドワーフだエルフだ、ごたいそうな氏族名をいただいたもんだが、まぁ、みんな結局は、同じ鍋のスープを食った仲。一声かけりゃ仲間が集まるってもんよ」
スノッリさんは、にんまりと笑って。
「わしは魔力無しだが、ひとの魔力の多さはわかる。お嬢さまは相当なもんだ。リディやティーレよりも多い。こんなのはカルナック様とコマラパ様以来だ。お嬢さまは《世界の大いなる意思》に愛されている。気に入った!」
再び、がはは、と身体を揺すって豪快に笑う。
「なんかあったら、一声かけな。ガルガンドの傭兵は皆、わしの号令で動く」
「傭兵?」
ぴんときてないわたしに、サファイアさんはそっと告げる。
「ガルガンド軍は昔から傭兵としても有名なのだけど、いつでも、何よりもアイリスちゃんの要望を優先して受ける。そう誓ってくれたのよ」
「え! それって、もしかして、すごいことじゃない!?」
10
お気に入りに追加
276
あなたにおすすめの小説
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
いや、自由に生きろって言われても。
SHO
ファンタジー
☆★☆この作品はアルファポリス様より書籍化されます☆★☆
書籍化にあたってのタイトル、著者名の変更はありません。
異世界召喚に巻き込まれた青年と召喚された張本人の少女。彼等の通った後に残るのは悪人の骸…だけではないかも知れない。巻き込まれた異世界召喚先では自由に生きるつもりだった主人公。だが捨て犬捨て猫を無視出来ない優しさが災い?してホントは関わりたくない厄介事に自ら巻き込まれに行く。敵には一切容赦せず、売られたケンカは全部買う。大事な仲間は必ず守る。無自覚鈍感最強ヤローの冒険譚を見よ!
◎本作のスピンオフ的作品『職業:冒険者。能力:サイキック。前世:日本人。』を並行連載中です。気になった方はこちらも是非!*2017.2.26完結済です。
拙作をお読み頂いた方、お気に入り登録して頂いた皆様、有難う御座います!
2017/3/26本編完結致しました。
2017/6/13より新展開!不定期更新にて連載再開!
2017/12/8第三部完結しました。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる