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第34話 動画(3)

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 自分のチャンネルのことはひとまず後回しにして、まずはYouTubeへの投稿の仕方や、動画の編集方法を調べることにした。
 絢音は涼夏ほどデジタルに弱いわけではないし、家にパソコンもあるのだが、家族共用のものらしく、恐らく動画の編集は私のタブレットですることになるだろう。
 スマホでのVLOGの作り方などで検索して、紹介されているアプリをいくつかダウンロードしてみる。適当な動画を撮って、切ったり貼ったり文字を入れたりして、何かそれっぽい動画を一本作ると、絢音と涼夏に送ってみた。
 ただ部屋の中をグルッと撮影して、ちょっと喋ったり、それっぽいフリーのBGMを入れてみただけなので、動画としては見せられたものではないが、「やり方がわかってきたよ」と空に上がった少年のようなメッセージを送ると、二人から「部長、頼もしい!」とお褒めの言葉が返ってきた。
 二人も具体的なコンテンツを考えたようで、まずは絢音から撮影することになった。やはり演奏動画を撮るらしく、バンドでよく使っているスタジオを借りることにした。
「動画を撮るたびにスタジオに行くのも大変だし、本当は自分の家で撮りたかったけど、親とか兄弟のいるところでやりたくない」
 エレキギターを背負った絢音が、残念そうにため息をついた。確かに、一本目の動画を頑張り過ぎると、二本目以降、クオリティーを維持するのが大変になる。ただ、家族に聴かせたくない気持ちはわかるし、どうせならみんなで作った方が楽しい。
 スタジオに入ると、絢音に頼まれて涼夏が軽くメイクを施した。絢音がそういうことを望むのは極めて珍しいが、さすがに全世界に公開する動画とあって、一応身だしなみに気を遣いたいとのこと。完成後に鏡を見て、「自分じゃないみたいに可愛い」と笑っていたが、絢音はどう考えても元から可愛いと伝えておいた。
 絢音がギターを準備している間に、涼夏と二人で撮り方を話し合った。涼夏が母親から動画も撮れるカメラを借りてきたので、スマホと合わせて何台か設置する。
 マルチアングルにするかは、後から編集負荷を見て決めようと思うが、何にしろ選択の幅を広げておくに越したことはない。
 絢音の準備が整うと、念のためすべてのカメラの位置を確認してから、私たちは物音を立てないように壁際に並べた椅子に座った。絢音がギターをかき鳴らして、可愛らしいアイドルソングを歌う。
 記念すべき一曲目で、他のメンバーを気にしなくても良い状態で選ぶ曲がそれなのかと、少し意外に感じた。どことなく硬派なイメージがずっとあるが、絢音は終始一貫して可愛いものが好きだ。
 撮影は思いの外難航した。何度も人前で演奏しているし、あっさり終わって時間が余る想定でいたが、やはり歌詞やコードを間違えたり、上手く音が出なかったり、なかなか満足のいく仕上がりにならなかった。
 ライブだと勢いで押し切ってしまうが、撮影はそうはいかない。きっとプロのミュージシャンでも、レコーディングやMV撮影はこんな感じなのだろう。
 時々映像を確認しながらどうにか一曲撮り終えると、そのままもう一曲撮影することにした。せっかくスタジオを借りるし、たくさん撮れるように服も何着か持ってきたそうだが、生憎二曲が限界だろう。
 休憩がてら上下とも服を着替えて、今度は少し古い、しっとりしたバラード曲を歌い上げる。今度は比較的スムーズに撮れたが、三曲目を撮る時間はなかった。
「まあ、動画にしてみたらもっと別のことを試したくなるかもしれないし、二本で充分」
 絢音がどことなく自分に言い聞かせるようにそう言った。
 スタジオを出てから、近くの公園で撮った動画を確認する。そこまで厳しい寒さではなかったし、カフェやレストランでイヤホンもせずに動画を流すのは迷惑だ。
 あれこれ感想を話しながら、ひとまずすべての動画を私のタブレットに入れて、その日は解散した。編集自体は少し私が見てから、後日学校でやることにした。
 家に帰ると、早速一番無難な角度から撮った動画の前後を切って、見られる形にした。スタジオで撮ったので最初からマイクを使ったし、音はいじる必要がない。BGMも考えなくていいし、難しい編集も要らないので、撮影は大変だったが、これが一番楽かもしれない。
 とりあえず二人に送ると、満足そうな反応が返ってきた。
 YouTubeで色々な弾き語り動画を見てみたら、大体曲名の表示やチャンネルのオープニングがあり、場合によっては一言コメントしてから歌に入るような動画もあった。
 その辺りは絢音がどうしたいか次第だが、生憎私には簡単なテロップを流すくらいしか技術がない。
 予定通りに後日、ユナ高のコンピュータールームでオープニングの作り方を検索したら、私が思ったよりは遥かに簡単に、見栄えのするオープニングが作れることがわかった。ソフトに写真と音楽ファイルを入れ、タイトルを入力したら、様々なトランジションを適用することで、いかにもそれっぽいオープニングが出来る。
「これくらいなら家でも出来そうだし、私が作ってみようかな」
 絢音が明るい瞳で声を弾ませた。まだチャンネル名も決めていないし、オープニング用の数秒のギターを録音したり、写真を探したりしたいという。
「じゃあ、私は涼夏のを作るかな。どうせやらないだろうし」
 今頃バイトしているだろう友人の顔を思い浮かべながらそう言うと、絢音が心配そうに私を見た。
「千紗都、自分のチャンネルは大丈夫?」
「絢音と涼夏の頂上決戦を楽しみにしてるね」
 グッと拳を握って鮮やかに微笑むと、絢音が可笑しそうに頬を緩めた。
「発想がナツと同じだけど良かった?」
「良くない。頑張る」
 私のチャンネル。絢音のこんなにも素敵な演奏を聴かされた今、一体私は何をすればいいのだろうか。
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