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「きみはどう思う」
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「悲しみに沈まないためには多忙は有効。だが、憎しみの対象がいれば救いになるんだ。きみがなってやればいい」
「人に憎まれるのはやだよ。ああ、早く解決してほしい。ところで、きみもまともな口もきけるんだな、驚いたよ」
「ふん、あれは擬態だ。……ここだ、入るぞ」
丹野が顎をしゃくった先には、ハーレーに乗っている死神ライダーのTシャツがぶら下がっている。その隣にはヒョウ柄のロングコート。ロックとパンクとヒップホップが喧嘩せずに同居してる、男性向けカジュアルファッションを扱っている店のようだ。ウインドウには販売員募集のチラシが貼られている。
探偵の仕事と言いながらアルバイトの面接に来たのではなかろうか。
「ぼくさ、高校生のころ、インテリアショップでバイトしていたことがあるんだけど、販売は人との出会いもあるし、けっこう楽しいよね」
「はっきりと言っておくが、おれが受けた依頼は販売員のバイトではない!」
「なんだ、読まれたか」
「ほら、びっしりと鋲が打ちこまれたこのキャップ、野田に似合いそうだぞ」
「それじゃ、はりねずみだ。丹野にはあっちのジラフ柄のスラックスがいい。背高のっぽにぴったりだ。おい、まじにサイズを確認するな」
姿見に合わせたあと眉を寄せ、「遊んでいる場合ではない」と叫んで、丹野は近くの店員に店長を呼んでほしいと声をかけた。名前を名乗るや、すぐに奥に通される。
「お待ちしてましたー!」
北斗の拳のヒャッハーが現れた。盛り上がった上腕二頭筋にはタトゥーがびっしり、首にはチェーンネックレスがじゃらじゃら、手首には数珠のようなブレスレット、金髪に剃りこみ。着ているTシャツには「平和」の文字。これがかえって怖い。
店長はバックヤードを案内した。倉庫兼納品作業場になっていて、ダンボールが無造作に積んである。店名入りの紙タグや値札シールが衣類とともに作業台を占領している。
「店長の山田徹です。盗みが頻発しているので調べてほしくてお願いしました。助けてください。よく盗まれるのはここ。おれを含めて、店番はどうしてもこんなような感じの……」店長はくるりとターンして見せた。「アクセサリーを身に着けてるんですが、倉庫作業のときは邪魔なので外しているんです。それが置いておいた場所から忽然と消える」店長は台を叩いた。
「ここは倉庫ですね。納品と検品もしている。売り物のアクセサリーも多いはず。なのに盗まれるのはあなたの身に着けていたアクセサリーだけ?」丹野は淡々とした口調で訊ねる。
「そうなんだ、他の従業員は被害にあってない。おれのアクセサリーだけなんだ。店出し前の在庫がなくなったこともない。誰かが盗んでいったのだろうが、できれば従業員を疑いたくはない」
「いつから?」
「今年の春ごろからかな。夏を過ぎても続いている。もう半年以上だ。こっそりと調べて真相を教えてもらえないか」
「従業員は何人?」
「おれ以外に、バイトを含めて4人だ」
「ふうむ」丹野は野田を振り返って問う。「きみはどう思う」
「え、ぼく?」
「店長に質問したいことはあるか」
ぼくは周囲を見回した。
バックヤードは納品場所を兼ねているため裏手の道路に接している。今は戸を閉め切っているが温かい季節は解放しているのではないだろうか。フロアのほうにはエアコンがあったが、バックヤードには見当たらない。
外部からこっそりと入ることは可能だ。
「どんなアクセサリーだったんですか?」
「いろいろ、だな。チェーンネックレスや太幅の指輪、天然石のブレスレットなど、ギラギラした威圧感のあるもので、どれも安物だ」
「安物を盗む人なんかいるかな? 盗む意味あるのかな?」
「金銭的価値がないというだけで意味を否定することはできない。拝見しても?」丹野は店長のそばに寄った。ネックレス、ブレスレット、リング。店長が身につけている秋背サリーをじっくりと検分する。「……本当に安物だ」
「やはり、おれへのいやがらせなのかな。従業員とはうまくやってるつもりなんですが……」
店長はがっくりと肩を落とした。外見は怖いが性格は善良そうだ。見ていて気の毒になった。
店長への嫌がらせ。正直なところ、それが正解のような気がする。どんなに善良な人間でも本人の気づかないうちに恨みを買うことはある。店長が落ち込むことはない。従業員募集の貼紙があったのは、店長ともめて辞めた人間がいたことの傍証ではないだろうか。
無理のない推理だと思う。ぼくは丹野を振り返った。
「おれは真相に辿りついた。ヒントをやろうか、野田」
丹野は片方の口角を引き上げて笑った。挑発しているつもりか。
「人に憎まれるのはやだよ。ああ、早く解決してほしい。ところで、きみもまともな口もきけるんだな、驚いたよ」
「ふん、あれは擬態だ。……ここだ、入るぞ」
丹野が顎をしゃくった先には、ハーレーに乗っている死神ライダーのTシャツがぶら下がっている。その隣にはヒョウ柄のロングコート。ロックとパンクとヒップホップが喧嘩せずに同居してる、男性向けカジュアルファッションを扱っている店のようだ。ウインドウには販売員募集のチラシが貼られている。
探偵の仕事と言いながらアルバイトの面接に来たのではなかろうか。
「ぼくさ、高校生のころ、インテリアショップでバイトしていたことがあるんだけど、販売は人との出会いもあるし、けっこう楽しいよね」
「はっきりと言っておくが、おれが受けた依頼は販売員のバイトではない!」
「なんだ、読まれたか」
「ほら、びっしりと鋲が打ちこまれたこのキャップ、野田に似合いそうだぞ」
「それじゃ、はりねずみだ。丹野にはあっちのジラフ柄のスラックスがいい。背高のっぽにぴったりだ。おい、まじにサイズを確認するな」
姿見に合わせたあと眉を寄せ、「遊んでいる場合ではない」と叫んで、丹野は近くの店員に店長を呼んでほしいと声をかけた。名前を名乗るや、すぐに奥に通される。
「お待ちしてましたー!」
北斗の拳のヒャッハーが現れた。盛り上がった上腕二頭筋にはタトゥーがびっしり、首にはチェーンネックレスがじゃらじゃら、手首には数珠のようなブレスレット、金髪に剃りこみ。着ているTシャツには「平和」の文字。これがかえって怖い。
店長はバックヤードを案内した。倉庫兼納品作業場になっていて、ダンボールが無造作に積んである。店名入りの紙タグや値札シールが衣類とともに作業台を占領している。
「店長の山田徹です。盗みが頻発しているので調べてほしくてお願いしました。助けてください。よく盗まれるのはここ。おれを含めて、店番はどうしてもこんなような感じの……」店長はくるりとターンして見せた。「アクセサリーを身に着けてるんですが、倉庫作業のときは邪魔なので外しているんです。それが置いておいた場所から忽然と消える」店長は台を叩いた。
「ここは倉庫ですね。納品と検品もしている。売り物のアクセサリーも多いはず。なのに盗まれるのはあなたの身に着けていたアクセサリーだけ?」丹野は淡々とした口調で訊ねる。
「そうなんだ、他の従業員は被害にあってない。おれのアクセサリーだけなんだ。店出し前の在庫がなくなったこともない。誰かが盗んでいったのだろうが、できれば従業員を疑いたくはない」
「いつから?」
「今年の春ごろからかな。夏を過ぎても続いている。もう半年以上だ。こっそりと調べて真相を教えてもらえないか」
「従業員は何人?」
「おれ以外に、バイトを含めて4人だ」
「ふうむ」丹野は野田を振り返って問う。「きみはどう思う」
「え、ぼく?」
「店長に質問したいことはあるか」
ぼくは周囲を見回した。
バックヤードは納品場所を兼ねているため裏手の道路に接している。今は戸を閉め切っているが温かい季節は解放しているのではないだろうか。フロアのほうにはエアコンがあったが、バックヤードには見当たらない。
外部からこっそりと入ることは可能だ。
「どんなアクセサリーだったんですか?」
「いろいろ、だな。チェーンネックレスや太幅の指輪、天然石のブレスレットなど、ギラギラした威圧感のあるもので、どれも安物だ」
「安物を盗む人なんかいるかな? 盗む意味あるのかな?」
「金銭的価値がないというだけで意味を否定することはできない。拝見しても?」丹野は店長のそばに寄った。ネックレス、ブレスレット、リング。店長が身につけている秋背サリーをじっくりと検分する。「……本当に安物だ」
「やはり、おれへのいやがらせなのかな。従業員とはうまくやってるつもりなんですが……」
店長はがっくりと肩を落とした。外見は怖いが性格は善良そうだ。見ていて気の毒になった。
店長への嫌がらせ。正直なところ、それが正解のような気がする。どんなに善良な人間でも本人の気づかないうちに恨みを買うことはある。店長が落ち込むことはない。従業員募集の貼紙があったのは、店長ともめて辞めた人間がいたことの傍証ではないだろうか。
無理のない推理だと思う。ぼくは丹野を振り返った。
「おれは真相に辿りついた。ヒントをやろうか、野田」
丹野は片方の口角を引き上げて笑った。挑発しているつもりか。
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