106 / 176
幻の家
(8)
しおりを挟む
書物の中に現れる愛は、もっと思慮があり、時に情熱的だが、穏やかに互いを求め認めあうものだった。父母のそれには思慮がなく、表面上は穏やかだがその内は爛熟しており、かすかに腐臭すら漂うようだった。その美しくあやうい狂気はひたひたと伯爵邸を覆い、そこに暮らす者すべてを不幸にした――ただ二人を除いて。
ゆえに父が亡くなった時、新伯爵となった異母兄は早々に母とレジナルドを追い出した。
また昔のような穏やかな暮らしに戻れる。大学を卒業したら、堅い職業に就いて母と暮らそう。むしろ希望を持ってレジナルドが用意した新しい家――新伯爵からわずかに渡された金で借りた二階建ての長屋は、しかし数ヵ月の後に解約することになる。
レジナルドの懼れた父母の愛は、母の命を奪い、母のいる場所――レジナルドの帰るべき『家』も奪った。
どうぞお好きなように、と呟いて受話器を置いた。
あらためて、自分には何も――真に誰かに必要とされたことすらもないのだと知った。
心の底に澱のように溜まり続けるその事実に、何年も蓋をしてきたものに、意外なほど消耗していることも。
ゆえに父が亡くなった時、新伯爵となった異母兄は早々に母とレジナルドを追い出した。
また昔のような穏やかな暮らしに戻れる。大学を卒業したら、堅い職業に就いて母と暮らそう。むしろ希望を持ってレジナルドが用意した新しい家――新伯爵からわずかに渡された金で借りた二階建ての長屋は、しかし数ヵ月の後に解約することになる。
レジナルドの懼れた父母の愛は、母の命を奪い、母のいる場所――レジナルドの帰るべき『家』も奪った。
どうぞお好きなように、と呟いて受話器を置いた。
あらためて、自分には何も――真に誰かに必要とされたことすらもないのだと知った。
心の底に澱のように溜まり続けるその事実に、何年も蓋をしてきたものに、意外なほど消耗していることも。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
118
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる