最後の魔導師

蓮生

文字の大きさ
76 / 93
第3章 エイレン城への道

ニス湖畔、アルカット城⑨

しおりを挟む
 
 
「…まあ、そのくらいにはなるのかな。そんなに驚かなくても。もう何年も年齢ねんれいなんて数えてないよ」
 苦笑いを浮かべる顔の、切れ長のまゆが下がる。

「うそ…なんでそんなに若いんだ…もしかして若返る魔法とか使ってるの…?」
 
「ぷっ…ァハハハハ…ッ、ああ、可笑しいったらないな!こいつが魔導師になったころから全然変わりないのだ。きっと魔法を極めたらおとろえ方がゆっくりになるのだろう」

「…そうなの?」

「まあ、…そうだな。だからそのくらいからは歳を気にしたことがなくてな。おどろかせてすまないね。気味が悪いかい?」
「ううん!ぜんぜん!むしろすごいなって思ったよ!」 

 ニゲルもおかしくなって笑った。
 すっかり話が横道にそれてしまったが、サフィラスでさえ、30年前に一度だけ見たというなら、やっぱりめったに姿を現さない神様みたいな存在なのだろう。

「サフィラスはウロコとか歯とか、実物を今まで見たことある?」
「まあ、直接触ったことはあるよ」
「へっ?触ったって、身体に!?1回しか見たことないのに!?」
「ああ。一応その時にね」

「…」
 もうおどろいて開いた口からは声も出ない。

「…くくっ…!ったく、ニゲルを見ていると笑いがでる…!おいおいサフィラス、弟子にははずかしくて言えないのか?」

え?え?と二人の顔をキョロキョロと行ったり来たりしてながめていると、とつぜんアラン様がちょっと不機嫌になったサフィラスの横顔を見て、き出した。
「ブッ…くっ!ハハハハッ!ゴホッ…ああ、すまない…つい…!」
 サフィラスはあいかわらず、明後日あさっての方向を見て仏頂面ぶっちょうづらをしている。

「え?何?教えてよ、僕にも!」

「まあ、師匠として格好つけたいんだろう?ドラゴンから嫌われて落ちたなんて、きらきらした目で見つめられては、どうにも口にできない気持ちはわかるぞ!」

「ええ!?」
「ハハハハッ!」

「…アラン様、余計なことを…」
 サフィラスはひたいを押さえるとハアっと大きなため息をついた。
 アラン様はひとしきり笑った後、ごほんと咳払せきばらいをする。
「いいか、ニゲル。サフィラスの師匠はな、いだいな大魔導師だったが、竜騎手ドラゴンライダーでもあったのだ。…すごいだろう?」
 にやりとした、恐れを知らない顔をする城主様をニゲルはあおぎ見た。

「ドラゴンライダー?」

「ああ。まったく…人智じんちを超えたすさまじい超人だったよ」
 ドラゴンライダーというものは聞いたことがない、初めての言葉だった。

「もしかしてドラゴンライダー…って、ドラゴンに命令できる人??」

「…そう。この世でたった一人、竜に騎乗きじょうしてしたがえることが出来る人だった。サフィラスを弟子にしたころ、ライダーを育てようとしたらしいが、ことごとくみんな湖に突き落とされてな。竜は気に入った者にしかめったに姿を現さないし、背に乗せない。好みが激しいんだ。サフィラスは愛弟子まなでしだったから、ドラゴンにとっては余計気に入らないライバルだったのかもな」

「…そうなんだ…すごい。ドラゴンライダーか…。かっこいいんだろうな…」

 やっぱりサフィラスの師匠は特別な人だった。
 アラン様の顔は本当に心からの笑顔で、師匠の存在をいまでも大切に思っている事がありありと伝わってきた。
 だけど自分はそんな価値のある人間ではない。

 ふと、サフィラスのそばにそんな自分が居て良いのだろうかと、考えてしまう。
 ヴァネスでも結局迷惑をかけてしまった。そして、アラン様にも。

 だけど、その人みたいにすごい人にもしもなれたら。
 そしたら誰かからこうやって、慕われて、いつまでも覚えていてもらえるだろうか。

 そうしたらこんな自分でも、きっと寂しいと思わずに生きていけるんじゃないだろうか。


「ニゲルも運が良ければ会えるさ。案外気に入られるかもしれないしな。ここに我々はいる。また、訪ねてこい」




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

こわがり先生とまっくら森の大運動会

蓮澄
絵本
こわいは、おもしろい。 こわい噂のたくさんあるまっくら森には誰も近づきません。 入ったら大人も子供も、みんな出てこられないからです。 そんなまっくら森のある町に、一人の新しい先生がやってきました。 その先生は、とっても怖がりだったのです。 絵本で見たいお話を書いてみました。私には絵はかけないので文字だけで失礼いたします。 楽しんでいただければ嬉しいです。 まんじゅうは怖いかもしれない。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

処理中です...