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1章 出会い
迎えの時間に
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牛舎の掃除は、この農場が始まった頃からいるという専属の人が、すでに朝早くからしてくれていた。
白髪が混じった茶色い髪だから、きっとこの農場では一番年上の人だろう。その人から、掃除は毎日朝一番にやらなければならないと聞き、申し訳ない気持ちになる。
マーロン達が今日はいなかったから、きっと大変だったはず。それなのに、笑顔でニゲル達を歓迎してくれた。
それからようやく子牛や具合の悪い牛のお世話を終えようかという頃、馬車の走るガタンガタンという音と共に、蹄の音が聞こえてきた。
おもてを上げたウエンさんが、ほぐしていた麦わらをよけて、牛舎の外に出ていく。
ニゲルも抱えていた麦わらを牛の足元に置いて急いで平にならすと、ウエンさんの後を追って外に出た。すると、ちょうど馬車が動きを止めたところであった。
とびらが開いて、ハキハキとした、通りの良いサフィラスの声が聞こえてくる。
「ウエン、もう帰っていたのか」
扉の前で仁王立ちしていたウエンさんの横顔が、サフィラスの姿を目にしたのか、にやりと口のはしを上げている。
「すまないな。今朝はちょっと急な野暮用が出来てな。先程帰宅したのだ」
今は帰ってきた時に着ていた、あの藍色の分厚いマントをしていないけれど、やっぱりサフィラスと並んでもウエンさんの身体の大きさは大きい。
すぐに馬車から降りてきたサフィラスに相対するその背も高いし、腕も足も盛り上がっている。農家は力仕事がそれだけ多いのかもしれない。やせて貧相な身体のニゲルにはうらやましいくらい、筋肉モリモリだ。
「しかしおまえ、どこに行っていたんだ?…やけに火薬の匂いがするな…」
しかめっ面で腰に手を当てているウエンさんは、サフィラスを怪しんだ目で見ている。
「…あぁ、洞穴付近を朝に晩に奴らがうろついているんだ。早朝なら大丈夫かと思ったが、ここに向かっている間、どうやら洞穴の辺りに監視が来ていたらしい。私がいないことが分かったのか、ニゲル達の家を危うく焼き払われるところだった」
「そうだったか。もしかして、バレたのか?」
その言葉を聞いて、ニゲルはびっくりして馬車に向かう足を止めた。
「やきはら、われる…?」
ニゲル達の居場所。
まさかあの家は燃やされてしまったのか。まだ農場で暮らすと決めたわけではない。ここに遊びに来ている間に家がなくなってしまうなんて、そんな恐ろしい事をされるとは思いもしなかった。また剣を恐ろしい顔つきで振り上げてきたあの男の人だろうか。そんなの、あんまりではないか。
燃やしてしまうなんて。
「…うちが、なくなったの…?」
細い息と共に吐き出された声に最初に反応したのはウエンさんだった。
ニゲルの姿に、慌ててこちらに向かってくる。
「あ、ニゲル…大丈夫だ。サフィラスが君たちの事は必ず守るから…」
しかし、そんな気休めなど、耳の穴を通過するばかりで、全く頭に入ってこない。ウエンさんは、ニゲルのそばにしゃがみ込んで、家は大丈夫だからと、頭をポンポンしてくれたけれど、安心など出来るはずもない。サフィラスを嫌うあの男の人は、何かしらの理由で、ニゲル達も殺そうとしている。とにかく狙われているのは間違いないようだ。2度来たなら、またやってくるに決まっている。そう、ニゲル達を始末するために。それを、その理由を、サフィラスに聞かなければ。
「…サフィラス…僕、僕たちどうなるの?」
「…ニゲル。うちは大丈夫だ。燃やされそうになったが、私が阻止したから。しかし、当面はあそこに帰らない方が良いかもしれない」
そう言うと、ニゲルの目をしっかりと見つめてくる。
「…そんな……僕たち、どうしてそんな事されなきゃいけないの…」
「それは…」
口をつぐんだサフィラスから、たしかに火薬のような、煙の匂いがただよってきた。なんだか、恐ろしい気配を含んでいる気がして、寒気がしてくる。
でもサフィラスはきっと、あの家を守るために、また1人で戦ってくれたのだ。思わず両手を握りしめた。
ーーーくやしい。
もう、大人じゃない自分が歯痒くて仕方ない。もっと自分が大きかったら、あんなヤツを自分で追い払えるかもしれないのに!
「まあ、ここで話すのもなんだ。お前も泊まって行くよな?3人とも泊まるつもりだぞ。…さ、みんな、早くうちに入ろう」
ウエンさんは、険しい顔つきであたりを見回すと、ニゲルの背中を押して歩き始めた。
みんなも牛舎の付近にいる。
「農場内とはいえ、外は目立つぞ。サフィラス、ここはバレてないだろうな?」
「ああ、きっちり撒いたから大丈夫だ」
2人はよくわからない会話をしながら、ニゲルの隣を歩く。
「夜はみんなで色々話すべきだ。昨日もお前にはそう言ったが、俺はその方がいいと思うぞ。お前もいつまでもいられるわけじゃないだろう。…スマルにはまだ詳しく話していないが、この子達の安全は保証する。心配するな。お前の代わりにできることは俺がやってやる」
フードをかぶってまるで顔を隠しているかのようなサフィラスは、ウエンさんには何も言わずに、ただうなずいていた。
白髪が混じった茶色い髪だから、きっとこの農場では一番年上の人だろう。その人から、掃除は毎日朝一番にやらなければならないと聞き、申し訳ない気持ちになる。
マーロン達が今日はいなかったから、きっと大変だったはず。それなのに、笑顔でニゲル達を歓迎してくれた。
それからようやく子牛や具合の悪い牛のお世話を終えようかという頃、馬車の走るガタンガタンという音と共に、蹄の音が聞こえてきた。
おもてを上げたウエンさんが、ほぐしていた麦わらをよけて、牛舎の外に出ていく。
ニゲルも抱えていた麦わらを牛の足元に置いて急いで平にならすと、ウエンさんの後を追って外に出た。すると、ちょうど馬車が動きを止めたところであった。
とびらが開いて、ハキハキとした、通りの良いサフィラスの声が聞こえてくる。
「ウエン、もう帰っていたのか」
扉の前で仁王立ちしていたウエンさんの横顔が、サフィラスの姿を目にしたのか、にやりと口のはしを上げている。
「すまないな。今朝はちょっと急な野暮用が出来てな。先程帰宅したのだ」
今は帰ってきた時に着ていた、あの藍色の分厚いマントをしていないけれど、やっぱりサフィラスと並んでもウエンさんの身体の大きさは大きい。
すぐに馬車から降りてきたサフィラスに相対するその背も高いし、腕も足も盛り上がっている。農家は力仕事がそれだけ多いのかもしれない。やせて貧相な身体のニゲルにはうらやましいくらい、筋肉モリモリだ。
「しかしおまえ、どこに行っていたんだ?…やけに火薬の匂いがするな…」
しかめっ面で腰に手を当てているウエンさんは、サフィラスを怪しんだ目で見ている。
「…あぁ、洞穴付近を朝に晩に奴らがうろついているんだ。早朝なら大丈夫かと思ったが、ここに向かっている間、どうやら洞穴の辺りに監視が来ていたらしい。私がいないことが分かったのか、ニゲル達の家を危うく焼き払われるところだった」
「そうだったか。もしかして、バレたのか?」
その言葉を聞いて、ニゲルはびっくりして馬車に向かう足を止めた。
「やきはら、われる…?」
ニゲル達の居場所。
まさかあの家は燃やされてしまったのか。まだ農場で暮らすと決めたわけではない。ここに遊びに来ている間に家がなくなってしまうなんて、そんな恐ろしい事をされるとは思いもしなかった。また剣を恐ろしい顔つきで振り上げてきたあの男の人だろうか。そんなの、あんまりではないか。
燃やしてしまうなんて。
「…うちが、なくなったの…?」
細い息と共に吐き出された声に最初に反応したのはウエンさんだった。
ニゲルの姿に、慌ててこちらに向かってくる。
「あ、ニゲル…大丈夫だ。サフィラスが君たちの事は必ず守るから…」
しかし、そんな気休めなど、耳の穴を通過するばかりで、全く頭に入ってこない。ウエンさんは、ニゲルのそばにしゃがみ込んで、家は大丈夫だからと、頭をポンポンしてくれたけれど、安心など出来るはずもない。サフィラスを嫌うあの男の人は、何かしらの理由で、ニゲル達も殺そうとしている。とにかく狙われているのは間違いないようだ。2度来たなら、またやってくるに決まっている。そう、ニゲル達を始末するために。それを、その理由を、サフィラスに聞かなければ。
「…サフィラス…僕、僕たちどうなるの?」
「…ニゲル。うちは大丈夫だ。燃やされそうになったが、私が阻止したから。しかし、当面はあそこに帰らない方が良いかもしれない」
そう言うと、ニゲルの目をしっかりと見つめてくる。
「…そんな……僕たち、どうしてそんな事されなきゃいけないの…」
「それは…」
口をつぐんだサフィラスから、たしかに火薬のような、煙の匂いがただよってきた。なんだか、恐ろしい気配を含んでいる気がして、寒気がしてくる。
でもサフィラスはきっと、あの家を守るために、また1人で戦ってくれたのだ。思わず両手を握りしめた。
ーーーくやしい。
もう、大人じゃない自分が歯痒くて仕方ない。もっと自分が大きかったら、あんなヤツを自分で追い払えるかもしれないのに!
「まあ、ここで話すのもなんだ。お前も泊まって行くよな?3人とも泊まるつもりだぞ。…さ、みんな、早くうちに入ろう」
ウエンさんは、険しい顔つきであたりを見回すと、ニゲルの背中を押して歩き始めた。
みんなも牛舎の付近にいる。
「農場内とはいえ、外は目立つぞ。サフィラス、ここはバレてないだろうな?」
「ああ、きっちり撒いたから大丈夫だ」
2人はよくわからない会話をしながら、ニゲルの隣を歩く。
「夜はみんなで色々話すべきだ。昨日もお前にはそう言ったが、俺はその方がいいと思うぞ。お前もいつまでもいられるわけじゃないだろう。…スマルにはまだ詳しく話していないが、この子達の安全は保証する。心配するな。お前の代わりにできることは俺がやってやる」
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