26 / 93
1章 出会い
農場にて 新たな出会い
しおりを挟む翌朝早く、サフィラスが洞穴まで迎えにくると、ニゲル達は身一つでその農場に向かった。
3人とも持っている服で一番綺麗なものを着て、アーラには、可愛く見えるように寝癖をなおして、髪をちゃんと解いてあげた。
お母さんの貯金のお金は家に置いておくのも心配になったけれど、サフィラスが家の鍵にこっそり魔法を使って絶対に開かないし壊せないようにしようと耳打ちしてくれたので、全て置いてくることに決めた。
農場には、洞穴の家から1時間ほど馬車に揺られてついた。
脇に植えられた背の高い木が並ぶ道を進み、レンガの門を通り抜けると、左には牧草地が広がり、遠くに牛が見える。右には庭があって、なんだか見たことのない花も沢山咲いている。それに、木の柵に囲われた鶏がいたり、畑が見える。そして、洞穴の家には無い、窓が沢山ある大きな二階建ての建物があった。きっとこれから会う人はそこにすんでいるのだろう。そのそばには離れの建物も3つある。
あまりに広々とした庭や建物の大きさに、マリウスもアーラも馬車の窓にへばりついて外を眺めては緊張した面持ちで目を瞬いている。ニゲルも窓の外を眺めて、こんなに明るい場所で走り回って暮らせたら楽しいかもと思った。
「私がみんなの紹介をしよう。そしたらしばらく席を外すから、みんなで色々お話をたのしむといい。また昼過ぎに迎えにくるよ」
サフィラスはみんなに声をかけると、隣に座るニゲルの頭を撫でた。
「…ニゲル、心配することはない。私を信じて。悪いようにはしない」
ニゲルはうなずいた。
「わかったよ。必ず迎えにくる?」
「あぁ。迎えにくる」
その時、ガタンと揺れて馬車が止まった。
御者と何やら外で誰かが話している声が聞こえてきた。
おっとりした女の人の声だ。
そして、ガチャンととびらが開かれた。
「あら、みなさん、はじめまして。…あぁ!久しぶりじゃないサフィラス!」
「やあ、久しぶりだね、スマル。ウエンは?」
スマルと、サフィラスから呼ばれたその女の人は、後ろで赤茶色い髪を一つに束ねていて、なんだかすっきりとした表情で明るく笑っている。おそらく、お母さんと同じくらいの歳か、それよりすこし年上みたいな気がした。
「ウエンは今朝急に用事が出来ちゃってね、本当はみんなと沢山時間を過ごす予定だったんだけど、朝早く出ちゃって…夕方まで帰ってこないのよ」
「そうか…。ちょっと話があったんだが…仕方ない」
「あら。もう行っちゃうの?」
「ああ。用を済ましてまた夕方迎えに来るつもりだ。それまでよろしく頼む。女の子がアーラちゃん、この子はマリウスくん。そして、」
サフィラスはアーラとマリウスに続き、馬車から降りたニゲルをじっと見て声をかけた。
「この子が、ニゲル。…ではまた後で迎えにくる。スマル、頼んだよ。…ニゲルも楽しんで」
ニゲルはサフィラスの何か物言いたげな表情をじっと見つめたが、心配しないでほしいという気持ちを込めて、なんとか笑顔でうなずく。
「…うん。またね」
アーラとマリウスも、馬車に乗り込んだまま降りないサフィラスをふり返る。
サフィラスは右手をあげてニゲルたち3人に手を振ると、御者と共に颯爽と元来た通りへ消えていった。
「さあ、みんな!中に入りましょ!まずは朝ごはんを一緒に食べましょう」
棒のように突っ立ったままの3人に、その女の人は晴れた日の太陽のような瞳で元気よく笑いかけた。
そうしてうながされて屋敷に入って、ニゲルはとにかくすべてに驚いていた。
まず、洞穴の家とは比べられないくらいものすごく広い。
こんな広い台所は見たことがないというくらい広々として明るい台所。炉も大きいけれど、そのそばにはパンを焼くことが出来る石窯があるのだ。部屋の中に石窯があるなんて、いままで見たことがない。石造りの壁の間には細長い窓がいくつかあって、天井も高い。そしてそれに続く部屋には10人くらいが囲んでもまだ余裕がありそうなほどの大きな四角い、黒っぽい木の机があって、すでに白いお皿や木のカップがたくさん並んでいる。中央にはパンがいっぱい入ったカゴが見える。
「…すごい…」
マリウスがあっけにとられて部屋中をぐるぐる見回している。アーラは石の壁にかけられている葉っぱや押し花で作られた綺麗な飾りを食い入るように見ていた。
女の人はニゲル達のそばにくると、背中を押して着席をうながす。
「あなた達のことは食事をしながらゆっくり聞かせてね。さあさあ、席について!まずはうちにいる子たちの紹介だわ」
そう言ったとたん、廊下からドタバタとした足音と共に大きなしゃべり声が聞こえてきた。
「あーもう!ラモったらなんであんな寝坊助なの!?私達お母さんに早く起きなさいって言われてたのに!」
「…仕方ないよ。俺とラモは昨日、新しく来る奴のための準備で夜更かししたし、疲れてんだよ」
マリウスとニゲルは、はつらつとした女の子の声と、ラモという子をかばうような男の子の声が耳に届いて、2人して顔を見合わせた。
「…ちょっとあんた達!静かにね。もうみんな来てるんだから!」
パッとその2人の視線が、机のところの椅子に大人しく腰掛けているニゲル達をとらえた。
「あ!!本当だわ」
「おっと、これは失礼」
ちょっと背の高い女の子はびっくりして丸い目をさらに丸く見開いている。男の子は、口元を押さえてチラッとスマルという女の人を見た。その時、横顔しか見えない時にはわからなかった黒い眼帯が見えた。左目が悪いのだろうか。
「2人とも、ラモはどうしたの?」
「ラモは寝てて起きやしない。俺もヴェシカも起こしたけど、布団、頭からかぶっちまってるよ」
「…んもう!今日は朝からお客さんが来るって話したのに!…仕方ないわ。貴方達も席に着いて!自己紹介よ!」
0
あなたにおすすめの小説
こわがり先生とまっくら森の大運動会
蓮澄
絵本
こわいは、おもしろい。
こわい噂のたくさんあるまっくら森には誰も近づきません。
入ったら大人も子供も、みんな出てこられないからです。
そんなまっくら森のある町に、一人の新しい先生がやってきました。
その先生は、とっても怖がりだったのです。
絵本で見たいお話を書いてみました。私には絵はかけないので文字だけで失礼いたします。
楽しんでいただければ嬉しいです。
まんじゅうは怖いかもしれない。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる