最後の魔導師

蓮生

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1章 出会い

お兄さんの来訪

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 やっぱりお兄さんは来てくれたんだな。
 ニゲルは意気揚々と扉の取手を引いた。


 「あ、あれ?」

 玄関の扉を開けたところで、ニゲルは固まった。

 扉の外、キョロキョロと薄暗い辺りを見回すが、人影は無い。

 「おにいさん…?」

 呼びかけても、いっこうに返事は来ない。

 でも、たしかに、コンコンと扉を叩く音がした気がする。

 だってこんな場所、他に来る人なんて居ないのだ。

 仕方なく、擦り切れた靴底のクツをひっかけて玄関から出てみる。

 
 「おにいさぁん!来たの?」

 少し声を大きくして、呼びかけるものの、ジャリジャリと歩く足音に合わせて砂の音がする以外は、シィンとして、自分の声がこだますだけだ。

 それでも、今度は洞穴の入り口から外に向かって歩いていく。


 お兄さんは来るといった。
 それなら、来るはずだ。

 約束だと言ったから。

 そして、扉を叩く音もした。
 絶対間違いない。

 外にでると、冷たい風にからだを撫でられて、思わず身震いしてしまう。

 いつのまにか星が浮かんでいている夜空には、ぽっかりとお月様が浮かんでいた。
 まあるい、落ちてきそうなほどおっきな円盤だ。
 優しい光で、ニゲルや洞穴の周囲をてらしている。

 「お兄さん?いるの?」

 辺りをうろうろして人影をさがす。
 しかし、誰もいない。

 どうして。

「約束したのに…」

 ニゲルはウサギもすごく欲しかったけど、それと同じくらいアーラやマリウスにお兄さんを自慢したかった自分に気づいた。

 思わずしょんぼりとこうべをたれる。

 (ん?)

 ふと足元に、大きな何かが転がっている事に気付いた。

 黒っぽい、なんだかよく分からない布だ。

 (なんだろ……あっ)

 まさか。

 お兄さんが部屋に入るのをためらって、ノックしたものの、これを置いて小屋に帰ったのかもしれない。

 …僕が最初、家に来るのを良い顔しなかったから!


 そう思うと、夢中で布をたぐって口を開けた。

「あぁ!」

 プゥンと、焼いた香ばしい脂の匂い、肉の匂いが辺りに広がった。

 思わず、花が咲くように顔をほころばせて、ニゲルは輝くような笑顔を浮かべていた。


 「…お肉だ…!やっぱり来てくれたんだ…!」

 大きな葉っぱの包みが2つ。

 ひもをほどくと、一つは、焼いたうさぎ肉。

 沢山入っている。

 もう一つは、さらに大きな葉っぱに包まれた生のお肉の塊だ。汚れないように、大きな葉っぱを3枚も使って綺麗に包まれていた。



 ニゲルは、胸がいっぱいになった。

 こんなによくしてくれた大人ははじめてだった。

 昔、お母さんと暮らしていた頃だって、こんな立派なお肉の塊をタダでくれた人はいない。

 胸に2つの包みをだいじに抱いて、目をつぶる。


 もう、嬉しくて、嬉しくて、言葉が出なかった。

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