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9 レン
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桜介から見たら映画の中の女子高生はひどく勝手に見えて。けれど同時に、なんの垣根もなしにアタックできて、断られてもめげない強さを持つ女子高生に憧れのような気持ちも持った。
ーーだけど俺にはこれ以上踏み込むことなんてできないな
「蓮さん、ビール次持ってくる?」
「おう、頼む」
「はーい」
映画の最中に500mlのビールを2本消費した蓮は、それでもまだほろ酔い状態のようだ。
桜介は冷蔵庫から取り出したビールを蓮に手渡し、蓮が持って来てくれた銀杏を封筒に入れて電子レンジにセットした。
すぐにレンジの中からパチンパチンと銀杏の殻が割れる音が聞こえ、わずか1、2分で食べ頃の銀杏が出来上がる。
「やっぱ、こうやって食べる銀杏が一番ワクワクする」
「揚銀杏買ってくるより、そっちのが喜ぶと思ってよ」
「うん! ありがとう」
桜介は笑顔でうなずき、銀杏を剥き始めた。
割れ目ができた箇所から殻を剥き、中の身を取り出すと、綺麗な黄緑色をしていて食べるとほのかな苦味ともちもち感を味わえる。
「今日、ショッピングモールに呼び出されてな。万引きした子がいるとかで」
「へぇ」
守秘義務などがあるからか、仕事の話などはほとんどしない蓮の突然の話に、桜介がびっくりしつつ返事をすると、蓮は何かに言い淀むように後頭部を何回か掻いた。
「そこで、桜介を見たんだ」
「ああ、あそこのショッピングモールだったんだ」
そう言ってから桜介は気がついた。
ーー俺、他の人とデートしているところ見られたんだ
そんなこと、蓮が気にするはずはないし、そもそも男が2人遊んでいたところで、普通に見ればそれがデートなどと思われないはずだった。
けれど、相手はあの佐々木だ。佐々木はあの居酒屋で相手が男でも女でも誰彼構わずナンパする。それを蓮も知っているのだ。
「一緒にいた奴は……、いつも行く居酒屋の店長だよな」
「えっ、う、うん。映画を見に行ったんだ」
桜介はデートだということは言わなかった。
桜介の心はいい知れぬ不安でいっぱいだった。
「映画を見て、それで?」
「それでって、カフェで話したくらいだよ。17時くらいには解散して、帰って来たんだ」
「そうか」
「そうだよ。どうしたんだよ、突然」
「……いや。付き合っているのかと思っただけだ」
「……は」
桜介は一瞬何を言われたのか理解できなかった。
桜介が佐々木と付き合ってると思われたことがショックだった。
いや、桜介はそう思われる可能性を考えなかったわけではなかったが、それでも8年もの付き合いで、自分がそんな風に気の多い人間だと思われていたのだということがショックだった。
「いや、その」
桜介の唖然とした表情を前に焦り出した蓮に、桜介は無理やり笑顔を作った。
「はは。それもいいかも。和也さんって意外と紳士的なとこあるし、可愛いとこもあるし」
「和也、さん……?」
「そう呼んで欲しいって言われたんだ。俺も、そろそろ彼氏欲しいなって思ってさあ」
桜介は緊張して乾く口の中を潤すように手に持った酒の缶をゴクゴクと飲んでいった。
「か、彼氏」
呆然と呟く蓮を見て、桜介は面白くなってふふふと笑った。
ーー彼氏の単語でそんな顔するなんて。まるで、俺は蓮さんの娘にでもなった気分だ
「うん。すっごいかっこいい彼氏作るからさ、そしたら、蓮さんにも紹介するしぃ……」
ーー何だか、頭がふわふわする。まるで酔っ払ってるみたいだ
「おい、もしかして桜介飲み過ぎなんじゃないのか?」
「え~。そんなこと、ないけど~?」
ーーでも、眠い。
桜介はモゾモゾとベットに移動して、マグロのぬいぐるみの“レン”を抱きしめた。
「レン~。ふかふかだなあ」
「レンって……。まさかそのマグロの名前じゃないよな? な? マグロなんて不名誉すぎるんだが」
「ふふ。かわいいレン。俺の」
桜介の火照った顔に、マグロの表面が気持ちよくてスリスリと頬擦りした。
何か困った声をあげる蓮の声は、もはや桜介には聞こえずに、桜介はスーッと意識を手放した。
ーーだけど俺にはこれ以上踏み込むことなんてできないな
「蓮さん、ビール次持ってくる?」
「おう、頼む」
「はーい」
映画の最中に500mlのビールを2本消費した蓮は、それでもまだほろ酔い状態のようだ。
桜介は冷蔵庫から取り出したビールを蓮に手渡し、蓮が持って来てくれた銀杏を封筒に入れて電子レンジにセットした。
すぐにレンジの中からパチンパチンと銀杏の殻が割れる音が聞こえ、わずか1、2分で食べ頃の銀杏が出来上がる。
「やっぱ、こうやって食べる銀杏が一番ワクワクする」
「揚銀杏買ってくるより、そっちのが喜ぶと思ってよ」
「うん! ありがとう」
桜介は笑顔でうなずき、銀杏を剥き始めた。
割れ目ができた箇所から殻を剥き、中の身を取り出すと、綺麗な黄緑色をしていて食べるとほのかな苦味ともちもち感を味わえる。
「今日、ショッピングモールに呼び出されてな。万引きした子がいるとかで」
「へぇ」
守秘義務などがあるからか、仕事の話などはほとんどしない蓮の突然の話に、桜介がびっくりしつつ返事をすると、蓮は何かに言い淀むように後頭部を何回か掻いた。
「そこで、桜介を見たんだ」
「ああ、あそこのショッピングモールだったんだ」
そう言ってから桜介は気がついた。
ーー俺、他の人とデートしているところ見られたんだ
そんなこと、蓮が気にするはずはないし、そもそも男が2人遊んでいたところで、普通に見ればそれがデートなどと思われないはずだった。
けれど、相手はあの佐々木だ。佐々木はあの居酒屋で相手が男でも女でも誰彼構わずナンパする。それを蓮も知っているのだ。
「一緒にいた奴は……、いつも行く居酒屋の店長だよな」
「えっ、う、うん。映画を見に行ったんだ」
桜介はデートだということは言わなかった。
桜介の心はいい知れぬ不安でいっぱいだった。
「映画を見て、それで?」
「それでって、カフェで話したくらいだよ。17時くらいには解散して、帰って来たんだ」
「そうか」
「そうだよ。どうしたんだよ、突然」
「……いや。付き合っているのかと思っただけだ」
「……は」
桜介は一瞬何を言われたのか理解できなかった。
桜介が佐々木と付き合ってると思われたことがショックだった。
いや、桜介はそう思われる可能性を考えなかったわけではなかったが、それでも8年もの付き合いで、自分がそんな風に気の多い人間だと思われていたのだということがショックだった。
「いや、その」
桜介の唖然とした表情を前に焦り出した蓮に、桜介は無理やり笑顔を作った。
「はは。それもいいかも。和也さんって意外と紳士的なとこあるし、可愛いとこもあるし」
「和也、さん……?」
「そう呼んで欲しいって言われたんだ。俺も、そろそろ彼氏欲しいなって思ってさあ」
桜介は緊張して乾く口の中を潤すように手に持った酒の缶をゴクゴクと飲んでいった。
「か、彼氏」
呆然と呟く蓮を見て、桜介は面白くなってふふふと笑った。
ーー彼氏の単語でそんな顔するなんて。まるで、俺は蓮さんの娘にでもなった気分だ
「うん。すっごいかっこいい彼氏作るからさ、そしたら、蓮さんにも紹介するしぃ……」
ーー何だか、頭がふわふわする。まるで酔っ払ってるみたいだ
「おい、もしかして桜介飲み過ぎなんじゃないのか?」
「え~。そんなこと、ないけど~?」
ーーでも、眠い。
桜介はモゾモゾとベットに移動して、マグロのぬいぐるみの“レン”を抱きしめた。
「レン~。ふかふかだなあ」
「レンって……。まさかそのマグロの名前じゃないよな? な? マグロなんて不名誉すぎるんだが」
「ふふ。かわいいレン。俺の」
桜介の火照った顔に、マグロの表面が気持ちよくてスリスリと頬擦りした。
何か困った声をあげる蓮の声は、もはや桜介には聞こえずに、桜介はスーッと意識を手放した。
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