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翌日、昼過ぎに目を覚ました桜介は、昨夜途中で眠ってしまったことを後悔した。
蓮と会えるのは多くて月に二回ほど。
今月は、昨日で2回目だった。
なかなか会えない蓮と、せっかく宅飲みができたのにもったいないことをしたなと、桜介は頭を抱えた。
「どうした。二日酔いか」
「えっ!?!? えっ、蓮さん!? な、なんで」
「あー? 桜介が寝ちまって、鍵の場所も分からねぇし。桜介は揺すっても起きねぇし仕方ねぇから勝手に泊まらせてもらった」
「ごめんっ、今日仕事とかなかったの!?」
「おう、今日は非番だ。流石に仕事だったら無理やりにでも起こしてるよ」
「別に仕事じゃなくても無理やり起こしてくれて良かったのに。でも、ごめん。床じゃよく休めなかったでしょ」
「別にそんなでもねぇよ」
「でも……。あ、えっと。朝ごはん……は、作ろうと思ったけどだめだ。うち今全然材料ないし」
「昨日急に来たもんな。俺の分はいいから桜介は気にせず食ってくれ」
「そんな訳にはいかないよ。というかそもそも、俺の分の材料もないんだ」
「買い忘れか?」
「いや、そーいうんじゃないんだけど……。あ! そうだ、どっかこの辺に」
桜介は朝ご飯になりそうな食材のありかを思い出し、戸棚を開けた。
奥の方に追いやられた目当ての缶を引っ張り出し蓮に見せる。
「これ前に知り合いからもらったんだけど、非常食のパン。缶詰だけどふわふわで美味しいとかで一時期話題になってたんだ」
「へ~。だが、非常食なのに今食って良いのか?」
「良いんだよ。今、非常事態だもん」
桜介は嬉々として缶を一つ蓮に手渡し、自分の分も手に取って居間に戻った。
缶を開けるとふわりとパンの香りが漂い、2人のお腹を刺激した。
「結構良い匂い。ん、あ、本当だ。ふわふわで美味しいよ」
「うん、結構うまいな」
蓮と笑い合って桜介はきゅっと心臓を鷲掴みにされる。
ーーこんなん、新婚さんみたいじゃん
桜介は自分が経験することのないだろう、夢のような願望を描きドキドキした。
最近ではドキドキと共に訪れるモヤモヤやズキズキには気付かないようにあえて思考を逸らす。
そして、蓮といる時には、幸せだけを感じるように意識していた。
「今日は仕事するのか?」
「え、うん。昨日は休んじゃったし今日は行くかな」
桜介が名残惜しさを感じながらそう言うと蓮はただ、そうかと言った。
「じゃあまた飲みに誘ってくれるの、待ってる!」
「おう」
片手を上げて答える蓮と、家の前で別れ桜介は駅へと歩いた。
駅前に着いた桜介は早速自転車を借りる手続きをスマホで済ませ、電動自転車の中から一台を引き出した。
近くのファーストフード店の前で注文が入るのを待ち始めると、人気のエリアなのですぐにアラームが鳴った。
そうして桜介が何件か配達を済ませると、メッセージアプリにメッセージが入った。
ーー佐々木和也が写真を送信しました
桜介はロック画面に表示されたその文字列に首をかしげる。
「なんの写真だろ」
そのまま指紋認証でスマホを開いた桜介は佐々木から届いたメッセージの画面を開く。
「ぁ……、これ」
ーー俺、こういうことすんのせこいって分かってるけど、本気だから。桜介くんが好きなのっていつも一緒に来るこの人でしょ?
既読を付けたからか、佐々木からはすぐに追加の文章が届いた。
画面に写っていたのは、蓮だった。
蓮が女性と仲良く歩いている写真。
撮ったのは今日じゃないと分かるものの、最近であることは分かった。
仲睦まじい様子を見て、桜介の心はズキっと痛んだ。
ーーなんだ。もう新しい彼女がいたんだ
付き合っているわけでもないのに振られた時と同じくらいショックは大きかった。
蓮と一緒に写っているのは気の強そうな美しい女性だった
優しいけどどこかふわっとしたところのある蓮さんを引っ張っててくれそうな人だな、桜介はどこか冷静な気持ちでそう思った。
蓮と会えるのは多くて月に二回ほど。
今月は、昨日で2回目だった。
なかなか会えない蓮と、せっかく宅飲みができたのにもったいないことをしたなと、桜介は頭を抱えた。
「どうした。二日酔いか」
「えっ!?!? えっ、蓮さん!? な、なんで」
「あー? 桜介が寝ちまって、鍵の場所も分からねぇし。桜介は揺すっても起きねぇし仕方ねぇから勝手に泊まらせてもらった」
「ごめんっ、今日仕事とかなかったの!?」
「おう、今日は非番だ。流石に仕事だったら無理やりにでも起こしてるよ」
「別に仕事じゃなくても無理やり起こしてくれて良かったのに。でも、ごめん。床じゃよく休めなかったでしょ」
「別にそんなでもねぇよ」
「でも……。あ、えっと。朝ごはん……は、作ろうと思ったけどだめだ。うち今全然材料ないし」
「昨日急に来たもんな。俺の分はいいから桜介は気にせず食ってくれ」
「そんな訳にはいかないよ。というかそもそも、俺の分の材料もないんだ」
「買い忘れか?」
「いや、そーいうんじゃないんだけど……。あ! そうだ、どっかこの辺に」
桜介は朝ご飯になりそうな食材のありかを思い出し、戸棚を開けた。
奥の方に追いやられた目当ての缶を引っ張り出し蓮に見せる。
「これ前に知り合いからもらったんだけど、非常食のパン。缶詰だけどふわふわで美味しいとかで一時期話題になってたんだ」
「へ~。だが、非常食なのに今食って良いのか?」
「良いんだよ。今、非常事態だもん」
桜介は嬉々として缶を一つ蓮に手渡し、自分の分も手に取って居間に戻った。
缶を開けるとふわりとパンの香りが漂い、2人のお腹を刺激した。
「結構良い匂い。ん、あ、本当だ。ふわふわで美味しいよ」
「うん、結構うまいな」
蓮と笑い合って桜介はきゅっと心臓を鷲掴みにされる。
ーーこんなん、新婚さんみたいじゃん
桜介は自分が経験することのないだろう、夢のような願望を描きドキドキした。
最近ではドキドキと共に訪れるモヤモヤやズキズキには気付かないようにあえて思考を逸らす。
そして、蓮といる時には、幸せだけを感じるように意識していた。
「今日は仕事するのか?」
「え、うん。昨日は休んじゃったし今日は行くかな」
桜介が名残惜しさを感じながらそう言うと蓮はただ、そうかと言った。
「じゃあまた飲みに誘ってくれるの、待ってる!」
「おう」
片手を上げて答える蓮と、家の前で別れ桜介は駅へと歩いた。
駅前に着いた桜介は早速自転車を借りる手続きをスマホで済ませ、電動自転車の中から一台を引き出した。
近くのファーストフード店の前で注文が入るのを待ち始めると、人気のエリアなのですぐにアラームが鳴った。
そうして桜介が何件か配達を済ませると、メッセージアプリにメッセージが入った。
ーー佐々木和也が写真を送信しました
桜介はロック画面に表示されたその文字列に首をかしげる。
「なんの写真だろ」
そのまま指紋認証でスマホを開いた桜介は佐々木から届いたメッセージの画面を開く。
「ぁ……、これ」
ーー俺、こういうことすんのせこいって分かってるけど、本気だから。桜介くんが好きなのっていつも一緒に来るこの人でしょ?
既読を付けたからか、佐々木からはすぐに追加の文章が届いた。
画面に写っていたのは、蓮だった。
蓮が女性と仲良く歩いている写真。
撮ったのは今日じゃないと分かるものの、最近であることは分かった。
仲睦まじい様子を見て、桜介の心はズキっと痛んだ。
ーーなんだ。もう新しい彼女がいたんだ
付き合っているわけでもないのに振られた時と同じくらいショックは大きかった。
蓮と一緒に写っているのは気の強そうな美しい女性だった
優しいけどどこかふわっとしたところのある蓮さんを引っ張っててくれそうな人だな、桜介はどこか冷静な気持ちでそう思った。
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