チートな男装令嬢は婚約破棄されても気にしない

いちみやりょう

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ルーナストが城の門番に名前を告げると、すぐに面会の許可がおり城の中に入れてもらえた。
前回来たときは、門前払いだったのでルーナストは初めて中に入る。
帝国の城は花壇に植えてある花や、侍女や侍従の佇まいまで、ルーナストの知っているものよりレベルが違う。カンドルニア王国の城にも数えるほどだが行ったことはあったが、そこと比べても全然違った。

案内された客間のソファに座って待っていると、さほど待たされることもなく呼び出した主は現れた。

「お待たせしました。早速お越しいただけて良かっ……た」

扉を開けるなり言葉を発してきたグランツェは、ルーナストの姿を見るなり固まった。

(どうしたんだろう?)

不思議に思いながらもルーナストはグランツェを観察した。
グランツェの姿は、ベルガリュードとよく似ている。
ベルガリュードから、強面の成分と筋肉量を取った姿というような見た目だった。

「失礼ですが、本当にあなたはルーナスト・メディスタム・ブラクルト辺境伯令嬢?」

そう言われてルーナストは自分が今軍服を着ていることを思い出した。

「あ……そうです。私はルーナスト・メディスタム・ブラクルトと申します。このような格好で申し訳ありません」
「いや、構わないが……。そうか、なるほど」

グランツェは何に納得したのかうなずき、黙ってしまった。

「あ、の。何かお話があるということでしたが」

ルーナストが痺れを切らして、そう尋ねるとグランツェは静かに口を開いた。

「知っての通り、俺はドラスティールの皇帝、グランツェ・グオド・ドラスティールだ。いきなり呼びつけてしまって申し訳なかったな」
「いえ」
「話というのは他でもない。戴冠や執務の引き継ぎで手が回らなく、弟の婚約について放置してしまっていたのだが、最近はそれも落ち着き、やっとそのことに手を回せる時間ができた」
「……はぁ」

何を言いたいのかわからず、ルーナストが不敬にも気の抜けた返事をしてしまったが、グランツェはそのことに対して特に気に留める様子はなく、落ち着いた声で続きを話した。

「つかぬことを聞くが、ルーナスト嬢はベルガリュードを好いているか?」
「はい。もちろんお慕いしております」

即答すると、グランツェはやや面食らった顔をして、それから気まずげな顔になった。

「……そうか。それなら申し訳ないな。政略結婚と割り切っていたら、ルーナスト嬢を傷つけることもなかったかもしれんが……。仕方がない」
「あの……?」
「頼む。ルーナスト嬢には必ず良い縁談を紹介する。だからベルガリュードと、婚約を解消してほしい」

何を言われたのか、一瞬理解ができなかったルーナストは、言葉を理解したと同時に足元が崩れ去るようなショックがおそった。

「な……なぜですか」

「ベルガリュードはこの婚姻を望んでいなかった。父上が勝手に持ってきた縁談で、あいつは断ってくれと頼んでいたのに俺が忙しいからと断っていたんだ。ベルガリュードがあそこまで嫌がることは珍しい。だから、引き継ぎが落ち着いた今、気になって仕方なくなった」

(閣下は、私との縁談を嫌がって、断ろうとしていた。いや、そんなこと知っていた。閣下が最初に乗り気じゃなかったって言ってたし)

けれど、それを改めて言われるとズキズキと心臓に負担がかかる。

「そう、ですか」

(でも閣下は、私を好ましく思っていると言ってくれた。だから、それを伝えないといけない。伝えて、婚約解消なんて取り消してもらわないと)

「申し訳ない。俺がもっと早くに婚約解消を申し出ていれば、ルーナスト嬢もベルガリュードを好ましく思うこともなかったかもしれないのに」

グランツェの口からは、もう婚約解消が決定したかのように言葉が出てくる。

「……いえ」
「俺は、妻と仲良くしている。だから、ベルガリュードにもそういう相手と結婚して欲しいと思っているんだ。妻は観劇が好きでね。連れて行くと可愛らしく喜ぶ。その上、皇妃として公務をしっかりとこなしてくれる」

グランツェはよほど妻のことが好きなのか、嬉しそうに惚気話を続けた。

「先代の皇帝である父上もそうであった。母は自由な人なのだが、そこが父上のツボなのかもしれないな。ちなみに俺の妻は刺繍もうまいんだ。ほらこれは妻が作ってくれた刺繍入りのハンカチ。うまいものだろう? あ……失礼。妻の話になるとどうも我を忘れていかん。つまりは、弟にそんな風に仲睦まじい相手を見つけてほしいと思っているんだ」

(確かに。閣下はかっこいいし、優しいし、強いし。とても私が相手では)

ルーナストは婚約解消の話に加え、皇妃の作ったという刺繍入りのハンカチの出来にすっかり打ちのめされた。

「わかってくれるか?」

だからグランツェのその問いに、ルーナストは静かにうなずき「はい」と答えた。
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