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37 モルガンの計画
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思いが通じあったルーナストは、ニマニマと広角が上がるのを抑えるのが大変だった。
「ニヤニヤと、気持ち悪い。早くお茶を持ってこい」
「はい」
モルガンには相変わらずこき使われているが、モルガンと時間が合うのは昼休憩くらいで、今のルーナストからすればハッピーすぎてモルガンへのイライラは取るに足りない出来事になっている。もちろん、監視任務に影響が出ないよう最新の注意は払ってはいる。
けれどもうすぐ訓練所での生活も終わってしまう。
何の手がかりも掴めていないままだ。
ベルガリュードとのことで浮かれてばかりはいられない。
そんな日々を送っている時だった。
「お前、最近やけに素直で従順だな」
「そうですか? 私は、モルガン殿下を付き従うべき相手だと認識しているので、そう思っていただけたのなら嬉しいです」
「ふん。そうか。大方、リンローズから俺について何か聞いているんだろうが……、あいつの言ったことは、おそらく全て真実だろう」
「っ。なるほど」
つまりは、モルガンは国家転覆を狙うモヒートという名の組織のリーダーで、いずれは王の座を狙っているということだろう。
ルーナストの反応で、リンローズから話を聞いていたことを確信したのか、モルガンは目を細めてルーナストを見た。
「誰かに言ったか」
「いえ。誰にも言うつもりはありませんし、もしも言ったとしても私のような平民の言葉には誰も耳を傾けないでしょう」
「ふんっ。そうだな。だが、平民にも使い道はある」
「私でもお役に立てることが?」
ルーナストの言葉に気を良くしたのかモルガンはニタリと笑った。
「魔力の少ない平民でも、戦争の道具にくらいなれるだろう? 来週にはここでの生活も終わる。その日にクーデターを起こそうと計画している」
「っ」
「すでに人員は確保してある。数は200人しかいない。だが、高魔力保持者もいる。隙をつけば王や王太子の首を取ることも容易だ」
「来週……200人……」
「どうした? 怖気付いたか?」
「いえ。その戦いで活躍すれば少佐にしていただけるのですよね」
「ははっ。ああ。お前の活躍次第では中佐も大佐も考えてやろう」
「詳細を、教えてください」
モルガンは嬉々として戦いの詳細について語った。
ルーナストを地位を餌に釣れ、裏切ることはないと信じ切っている様子だった。
もちろんルーナストはモルガンから聞いた情報をベルガリュードに報告した。
モルガンは、一度ルーナストに婚約破棄を告げ罵った相手だが、ルーナストは何故だかモルガンを憎めなかった。ベルガリュードの側に身を置くことは絶対に変わりはしないけれど、モルガンとも出会いさえ違えば友人になれていたかもしれないと思うと少し寂しい気持ちになった。
「報告ご苦労。その日は全力で警戒態勢に当たる」
「……はい」
「どうした」
「いえ」
「何を考えているんだ?」
ベルガリュードは先ほどまで報告を聞いていた上司然とした態度を崩し、優しい声でルーナストの話を促してくる。ルーナストはポツリポツリと本音を漏らした。
「モルガン殿下を思うと、悲しい気持ちになっただけです。モルガン殿下からすれば、国王陛下も王太子殿下も父や兄なのに……。殺そうと思うまでにどういう経緯があったのか私は知らないけど、そんな決断を下すまでには相当辛い思いをしたのかもしれないと」
まとまらない頭のまま、ただ感情を吐露した。
「そうか」
ベルガリュードは相変わらず優しい声で一言そう言った。
「ルーナストがそう考えるのも、分からないでもない。ただ、第三王子は国王には向かない。それだけはわかる。王太子も、第二王子も会ったことはあるがどちらも優秀だった。その上努力を怠らない」
「そう、なんですか」
「ああ。だから、何があっても第三王子を国王にさせるわけにはいかない。帝国の管理する国が、滅んでしまうのは見過ごせないからな」
言い聞かせるような声だ。
だが、もちろんそんなことはルーナストだって分かっている。
「はい」
「第三王子は生かして捕らえることは出来ないかもしれない。見たくない場合は参加を辞退しても」
「いえ。参加させてください」
「だが」
「特別扱いはいりません。私は、閣下の役に立ちたい」
「……そうか。では、当日までに作戦を練る。明日また来い」
「はい」
ルーナストは小さくうなずき、自室に帰った。
「ニヤニヤと、気持ち悪い。早くお茶を持ってこい」
「はい」
モルガンには相変わらずこき使われているが、モルガンと時間が合うのは昼休憩くらいで、今のルーナストからすればハッピーすぎてモルガンへのイライラは取るに足りない出来事になっている。もちろん、監視任務に影響が出ないよう最新の注意は払ってはいる。
けれどもうすぐ訓練所での生活も終わってしまう。
何の手がかりも掴めていないままだ。
ベルガリュードとのことで浮かれてばかりはいられない。
そんな日々を送っている時だった。
「お前、最近やけに素直で従順だな」
「そうですか? 私は、モルガン殿下を付き従うべき相手だと認識しているので、そう思っていただけたのなら嬉しいです」
「ふん。そうか。大方、リンローズから俺について何か聞いているんだろうが……、あいつの言ったことは、おそらく全て真実だろう」
「っ。なるほど」
つまりは、モルガンは国家転覆を狙うモヒートという名の組織のリーダーで、いずれは王の座を狙っているということだろう。
ルーナストの反応で、リンローズから話を聞いていたことを確信したのか、モルガンは目を細めてルーナストを見た。
「誰かに言ったか」
「いえ。誰にも言うつもりはありませんし、もしも言ったとしても私のような平民の言葉には誰も耳を傾けないでしょう」
「ふんっ。そうだな。だが、平民にも使い道はある」
「私でもお役に立てることが?」
ルーナストの言葉に気を良くしたのかモルガンはニタリと笑った。
「魔力の少ない平民でも、戦争の道具にくらいなれるだろう? 来週にはここでの生活も終わる。その日にクーデターを起こそうと計画している」
「っ」
「すでに人員は確保してある。数は200人しかいない。だが、高魔力保持者もいる。隙をつけば王や王太子の首を取ることも容易だ」
「来週……200人……」
「どうした? 怖気付いたか?」
「いえ。その戦いで活躍すれば少佐にしていただけるのですよね」
「ははっ。ああ。お前の活躍次第では中佐も大佐も考えてやろう」
「詳細を、教えてください」
モルガンは嬉々として戦いの詳細について語った。
ルーナストを地位を餌に釣れ、裏切ることはないと信じ切っている様子だった。
もちろんルーナストはモルガンから聞いた情報をベルガリュードに報告した。
モルガンは、一度ルーナストに婚約破棄を告げ罵った相手だが、ルーナストは何故だかモルガンを憎めなかった。ベルガリュードの側に身を置くことは絶対に変わりはしないけれど、モルガンとも出会いさえ違えば友人になれていたかもしれないと思うと少し寂しい気持ちになった。
「報告ご苦労。その日は全力で警戒態勢に当たる」
「……はい」
「どうした」
「いえ」
「何を考えているんだ?」
ベルガリュードは先ほどまで報告を聞いていた上司然とした態度を崩し、優しい声でルーナストの話を促してくる。ルーナストはポツリポツリと本音を漏らした。
「モルガン殿下を思うと、悲しい気持ちになっただけです。モルガン殿下からすれば、国王陛下も王太子殿下も父や兄なのに……。殺そうと思うまでにどういう経緯があったのか私は知らないけど、そんな決断を下すまでには相当辛い思いをしたのかもしれないと」
まとまらない頭のまま、ただ感情を吐露した。
「そうか」
ベルガリュードは相変わらず優しい声で一言そう言った。
「ルーナストがそう考えるのも、分からないでもない。ただ、第三王子は国王には向かない。それだけはわかる。王太子も、第二王子も会ったことはあるがどちらも優秀だった。その上努力を怠らない」
「そう、なんですか」
「ああ。だから、何があっても第三王子を国王にさせるわけにはいかない。帝国の管理する国が、滅んでしまうのは見過ごせないからな」
言い聞かせるような声だ。
だが、もちろんそんなことはルーナストだって分かっている。
「はい」
「第三王子は生かして捕らえることは出来ないかもしれない。見たくない場合は参加を辞退しても」
「いえ。参加させてください」
「だが」
「特別扱いはいりません。私は、閣下の役に立ちたい」
「……そうか。では、当日までに作戦を練る。明日また来い」
「はい」
ルーナストは小さくうなずき、自室に帰った。
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