チートな男装令嬢は婚約破棄されても気にしない

いちみやりょう

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モルガンは手柄をあげろと言った。
そうすればルーナストに地位を約束すると。

けれど、当日になりクーデターのメンバーが王都に現れた時、ルーナストは王国軍側に立っていた。ベルガリュードやロイなど、帝国軍も数名混ざってはいるがほとんどはカンドルニア王国軍で、その中のほとんどは、国王直轄の軍と王太子直轄の軍だった。

モヒートのメンバーは、ルーナストが聞いていた通り200名前後。
そしてカンドルニア王国軍側は、千名ほどの人員だった。

「ルート……裏切ったのか」

敵同士で顔を合わせたモルガンは、青い顔をして呟いた。

「モルガン殿下。私は、最初から地位や金には興味はありません。持っているのは戦うことに対する欲と、ベルガリュード閣下に対する忠誠心のみです……大人しく、投降してください」

ルーナストの言葉に、モルガンは体から力が抜けたように膝をついた。
嫌っているようでいて、存外にルーナストのことを信頼していたようだった。
そもそも武力差が大きすぎる。
モルガンに対してはじめは同情する気持ちもあった。
けれどルーナストは、モルガンに同情の気持ちだけを持つことはできなかった。
調べにより、リンローズが言っていたようにリンローズを襲わせたのはモルガンだと分かっている。
リンローズはルーナストが助けることができたが、王位を狙うために犠牲になった命はもしかしたらあったかもしれない。そしてこれからも出るかもしれない。


「なぜ……。なんで、俺についてこない」

呆然と呟くモルガンをルーナストは冷たく見下ろした。

「ついて行きたいと思わせる背中ではないからではないですか」
「ついて行きたいと思わせる背中だと」
「王になりたかったのなら少なくとも、強く、優しく、時に厳格に、自分を律する精神が必要だと、私は思います。人は、金や地位を目の前にぶら下げられたところで、大体の人はそれがハリボテだと分かるものです」
「ハリボテ、だと。俺が」

モヒートのメンバーが、もう戦う気のなくなったようなモルガンを後ろから抱え上げた。

「話しているところ悪いが、俺たちは投降はしない。貴様ら第三王子殿下がどうなっても良いのか。俺たちに剣を向ければ第三王子を殺すぞ。道を開けろ」
「な……」

周りの兵たちは明らかに動揺し、後ずさった。
それは男に抱え上げられているモルガンも同じだったようで、ただ顔面蒼白で信じられないことでも起こったかのような顔で震えていた。

「俺たちは冗談を言っているわけじゃない。早く剣を置き道を開けろ」

周りの兵は、剣を置くことはなかったものの、道を開けようとする兵もいた。
ここにいるほとんどの兵は、王直轄と王太子直轄の兵だ。
いくら反乱軍のリーダーだとはいえ、主君の家族を盾に取られれば、戸惑うのも無理はない。
けれど冷酷な声が響いた。

「殺せ」

声の主はルーナストの横にいたベルガリュードだ。静かな、けれどよく通る声だった。

「は? こいつはこの国の第三王子だぞ!」

モルガンを抱えた男は焦ったようにそう言った。

「カンドルニアの第三王子がどうした。国家転覆を狙う反乱軍のリーダーであることには変わりはない。それを仲間自らが殺す? 願ったり叶ったりだ。殺せ」
「な……。お前、何の権限があってこの国の王子を殺すなんて命令ができる!」
「権限もなにもない。お前は私を知らないのか」
「知らないねぇ。王国軍の部隊長以上は把握しているが、その中にはお前みたいなのはいない。大方、少しばかり戦果を上げたただけの思い上がった平民だろう」

王国軍はベルガリュードの後ろに控えているのに、それに対して気がつくことはないらしい。
どうせハッタリだと思ったのか、男はモルガンを足元に下ろし、その首に剣を突きつけた。

「ひ……」

モルガンは喉を引きつらせた音を出し、ブルブルと震えそのせいで剣に首が小刻みに当たって傷が出来、血が滲み出てしまっていた。
男はその状態でニヤリと笑ってベルガリュードを見た。けれど、驚きの表情で固まった。

ルーナストもベルガリュードを見ると、ベルガリュードは本当になんでもないことかのように、成り行きを見守っていた。男がベルガリュードを見たことにベルガリュードは首を傾げた。

「どうした。殺さないのか」
「な……なんなんだよ!!」

「おい! リーダー。第三王子なんて祭り上げてもなんの意味もないんじゃないか!?」
「ど、どうするんだよ! それじゃあ作戦も何もうまくいかない!!」

男の後ろからモヒートのメンバーが叫びだす。
リーダーと呼ばれた男は、負けを悟ったのかその場にへたりと座り込んだ。

「無理だろ……。もう、計画は何もかもめちゃくちゃだ……」

ベルガリュードの手によって男と、モルガンに拘束魔術がかけられ、完全に動けなくなった2人見て、残りのメンバーも動かなかった。けれど、我に帰った何人かが動き出そうとした。だがそれもベルガリュードの一言で完全に動きを止めた。

「大人しく捕まるなら、殺しはしない」

有無を言わせないその迫力は、さすがベルガリュードというところだ。
反乱軍はあっという間に捕縛され、今回の騒動でベルガリュード自らが潜入していたわりには拍子抜けするほどあっさりと解決した。
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