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8 ベルガリュード・リック・ドラスティール
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『私は試験官のベロムだ。今回の試験は、ドラスティール帝国軍と提携し行うこととなった。各自心して励むように』
試験官のいるあたりーーーー試験を受けに来た人が溢れかえったさらに前方には緑の軍服と、黒の軍服が入り乱れている。
自国の軍服は緑地に赤の装飾が施されているが、帝国軍のものは真っ黒の生地に赤と金の飾りが施されていた。
ルーナストが住むカンドルニア王国は小国であり、ドラスティール帝国の属国だ。
おまけに帝国の治める国の中で端っこに位置するカンドルニア王国は、小国といえど他国との攻防の要になることがある。
その戦力となる軍人を含めた軍事力の把握をするために、こういった試験にも監視の目を怠らないのだろう。
「お前、リンローズを誑かすな」
横から声をかけられ、ルーナストがそちらを見ると、元婚約者である第三王子のモルガンが居た。モルガンはルーナストをしっかり見てはいるものの、その正体にはかけらも気がついていない様子だ。
「誑かしてなどいませんが」
そう答え、また壇上を向くとモルガンはイラついたような雰囲気を出した。
「お前、俺が誰だか分かってないだろっ」
「貴方がなんと言うお名前なのかは存じておりますが」
「はぁ!? 知ってたらそんな態度なわけないんだよ!」
「モルガン・ノエル・カンドルニア第三王子殿下……、でしょ? ですがここでは貴族も平民も男であれば誰でも平等に試験を受けられる場所です。身分をひけらかし威張り散らそうとするのはやめてください」
「なっ……なっ……」
誰かから強く言われるのに慣れていないのかモルガンは絶句した様子でルーナストを見た。
その情けない様子をルーナストは冷めた目で一瞥し、また壇上の方に向き直った。
その時ちょうど壇上に先ほど案内した試験官とは別の人間が上がった。
(黒い軍服……ってことは帝国軍の軍人か)
ルーナストの興味は一瞬でその軍人に移った。
何せ遠巻きに見ても立派な体躯で、鍛え上げられてるのが見て取れ、一部の隙もない雰囲気を纏っていたからだ。
(強そう……。あの人と戦ってみたい)
ルーナストの中のブラクルトの血が騒ぐ。
『私は、ドラスティール帝国軍元帥ベルガリュード・リック・ドラスティールだ』
軍人がそう告げた途端、周りからどよめきが起こった。
カンドルニア王国に住うものにおいて……いや、ドラスティール帝国の治める全ての国において知らぬものは居ないだろう。その名前はドラスティール帝国の第二皇子の名前である。そして別名ドラスティールの鬼神。
他国の王が言った。
ドラスティール帝国にベルガリュードがいる限り帝国を崩すことは叶わぬと。
そう言わせしめるほど軍人としての才と力を持つベルガリュードは全軍人の憧れだ。
もちろんルーナストの憧れでもある。
『静かに』
騒ぎを沈めるその声は低く、けれどよく通り有無を言わせぬ貫禄がある。
黒い髪を短めに切りそろえ、その瞳は軍服の装飾と同じで赤と金のオッドアイだ。
『今から君たちには2人ずつ戦ってもらう。トーナメント形式で行うが、その成績によって配属される部隊を決める。最後の1人に勝ち上がったものには私直々にその者の願いを聞こう。だが全員が軍人になれるわけではないので予め覚悟しておけ。では健闘を祈る』
そう告げるとベルガリュードは優雅に壇上から降り、壇上横の特別席に戻り深く椅子に腰掛けて足を組んだ。
試験官のいるあたりーーーー試験を受けに来た人が溢れかえったさらに前方には緑の軍服と、黒の軍服が入り乱れている。
自国の軍服は緑地に赤の装飾が施されているが、帝国軍のものは真っ黒の生地に赤と金の飾りが施されていた。
ルーナストが住むカンドルニア王国は小国であり、ドラスティール帝国の属国だ。
おまけに帝国の治める国の中で端っこに位置するカンドルニア王国は、小国といえど他国との攻防の要になることがある。
その戦力となる軍人を含めた軍事力の把握をするために、こういった試験にも監視の目を怠らないのだろう。
「お前、リンローズを誑かすな」
横から声をかけられ、ルーナストがそちらを見ると、元婚約者である第三王子のモルガンが居た。モルガンはルーナストをしっかり見てはいるものの、その正体にはかけらも気がついていない様子だ。
「誑かしてなどいませんが」
そう答え、また壇上を向くとモルガンはイラついたような雰囲気を出した。
「お前、俺が誰だか分かってないだろっ」
「貴方がなんと言うお名前なのかは存じておりますが」
「はぁ!? 知ってたらそんな態度なわけないんだよ!」
「モルガン・ノエル・カンドルニア第三王子殿下……、でしょ? ですがここでは貴族も平民も男であれば誰でも平等に試験を受けられる場所です。身分をひけらかし威張り散らそうとするのはやめてください」
「なっ……なっ……」
誰かから強く言われるのに慣れていないのかモルガンは絶句した様子でルーナストを見た。
その情けない様子をルーナストは冷めた目で一瞥し、また壇上の方に向き直った。
その時ちょうど壇上に先ほど案内した試験官とは別の人間が上がった。
(黒い軍服……ってことは帝国軍の軍人か)
ルーナストの興味は一瞬でその軍人に移った。
何せ遠巻きに見ても立派な体躯で、鍛え上げられてるのが見て取れ、一部の隙もない雰囲気を纏っていたからだ。
(強そう……。あの人と戦ってみたい)
ルーナストの中のブラクルトの血が騒ぐ。
『私は、ドラスティール帝国軍元帥ベルガリュード・リック・ドラスティールだ』
軍人がそう告げた途端、周りからどよめきが起こった。
カンドルニア王国に住うものにおいて……いや、ドラスティール帝国の治める全ての国において知らぬものは居ないだろう。その名前はドラスティール帝国の第二皇子の名前である。そして別名ドラスティールの鬼神。
他国の王が言った。
ドラスティール帝国にベルガリュードがいる限り帝国を崩すことは叶わぬと。
そう言わせしめるほど軍人としての才と力を持つベルガリュードは全軍人の憧れだ。
もちろんルーナストの憧れでもある。
『静かに』
騒ぎを沈めるその声は低く、けれどよく通り有無を言わせぬ貫禄がある。
黒い髪を短めに切りそろえ、その瞳は軍服の装飾と同じで赤と金のオッドアイだ。
『今から君たちには2人ずつ戦ってもらう。トーナメント形式で行うが、その成績によって配属される部隊を決める。最後の1人に勝ち上がったものには私直々にその者の願いを聞こう。だが全員が軍人になれるわけではないので予め覚悟しておけ。では健闘を祈る』
そう告げるとベルガリュードは優雅に壇上から降り、壇上横の特別席に戻り深く椅子に腰掛けて足を組んだ。
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