チートな男装令嬢は婚約破棄されても気にしない

いちみやりょう

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7 リンローズ

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「ノエル~。返事してくれないから来ちゃった」

いつの間にか中に入ってきてしまっていたモルガンの恋人、リンローズが上目遣いでモルガンを見上げた。

「リンローズ! 入ってきたらだめじゃないか!」
「だってぇ、寂しかったんですもの。それにノエルを近くで応援したかったの」

リンローズがモルガンの腕にひっつきながらそう言って、チラリとルーナストを見た。
ルーナストはどうすれば良いの分からずとりあえずニコっと笑いかけてみると、途端にリンローズの頬が赤く染まった。

「の、ノエルっ。この殿方はどなたですかっ」
「俺に盾突く平民だ」
「あ、あの、私リンローズ・クロエ・アロン子爵令嬢です。あなたの名前は?」
「私ですか?」

ルーナストがなぜ自分の名前を聞かれるのか理解できず聞き返すと、リンローズはコクコクと必死に頷いて答えた。

「……私は、ルート・メイヴィン。平民ですよ」
「そうですか、ルート様……。私のことはどうかリンローズとお呼びくださいませ」
「いえ、それは」
「お願いします!」
「はぁ……まぁ、では、機会があれば」
「機会はこれからいくらでもありますわ。よろしくお願いします!」
「リンローズ!! どういうことだよ!!」

2人の会話をワナワナもたもたしながら聞いていたモルガンが叫んだ。

「ああ、ノエル。もちろんあなたの事が大好きよ。けど、こんな素敵な殿方が居たんじゃ、興味持っちゃうのは仕方ないじゃない」
「し、仕方ない……?」
「ええ、だって、あなただって婚約者が居る身で私と付き合っていたでしょう? 同じことだわ」
「ふざけるな! 俺はいいんだ!」

モルガンとリンローズが言い争いを初めたので、ルーナストとショーンはその場を静かに離れた。

「何だったんだろうね、あの人たち」
「あの人は……ねぇ」
「もしかしてルート、さっきのセクハラ野郎と顔見知り?」
「うん……あの方は、モルガン・ノエル・カンドルニア第三王子殿下だよ」
「へ~。え……それって、ルートの元婚約者の……?」
「うん」
「え……え? そんな……僕、打首?」

先ほど、自分の下半身を堂々と見せつけてしまったことを思い出しているらしい。
青い顔をしたショーンの肩を慰めるようにポンと叩いた。

「大丈夫だよ。彼は今他のことに夢中みたいだし」

いまだ言い争っている2人に目を向けそう言うと、ショーンは力なく肩を落とした。

「人ごとだと思って……」
「あれでショーンが打首になるんだったら、私も一緒に逝くよ」
「ルート……っ」

ショーンは感動で潤んだ瞳でルーナストを見つめた。

『試験番号が偶数の者は隣の演習場へ、奇数のものはここに残れ!!』

拡声魔導機を使った声が聞こえ、ルーナストは手元のゼッケンの番号に目を落とす。

「私は奇数だからこのままここにいればいいんだ」
「僕は偶数だった。ルート1人で大丈夫?」

心配そうにルーナストを見つめるショーンに、ルーナストはおかしくなって笑った。

「私より年下なのに何言ってるの。ショーンこそ、周りの人からはぐれちゃダメだよ」
「はぐれないよっ!!」

ショーンはプンスカと怒りの音が聞こえそうなほどの顔で、他の偶数のゼッケンの人たちの移動に着いて行った。けれど本人がどれだけ怒っていたとしても、その顔は愛くるしい。ルーナストは去っていく弟分であるショーンの背中を見つめながらまたこっそりと笑った。
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