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4 婚約破棄
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「お嬢さんごと突き刺してもいいんだよ? 今のうちにどきな? それに第三王子殿下、女の子に守ってもらって恥ずかしくないんでちゅか?」
「なっ!!!」
「挑発に乗ってはいけません」
すぐに怒鳴り散らそうとするモルガンにそう伝えると、ルーナントはそのままモルガンの腰についた剣を抜き、掴まれている髪の毛をバサリと切り、その勢いで振り返りながら立ち上がって男の首を切り落とした。
ボトリと落ちた首を見たモルガンはもう情けない声すらも上げられずに、ズボンを濡らしていた。
「お……お前……」
「婚約破棄でしたっけ。いいですよ」
モルガンを見下ろしそう告げたルーナストに、悲壮感は少しも見えない。
モルガンはしばらく呆然としていたが、自分のズボンが濡れていることに気がついて顔を赤くし、それから急いで前を隠した。
「お……お前とは、婚約破棄だ!! いいか、このことは誰にも言うなよ!?」
「誰にもは無理です。みんな見てましたから」
「な……」
モルガンが周りを見渡し、令嬢やご夫人がモルガンを冷たい目で見ていることに気がついて、涙目になりながら、誰にも聞こえないような小さな声で何かをぶつぶつと呟いて走り去っていってしまった。
「大丈夫ですか?」
声をかけてきたスティールを見るとあれだけの矢が降り注いだと言うのに先ほどと全く同じ場所に座ったままだった。
「え、ああ。みなさん怪我もないようで、大丈夫のようですね」
いつの間にか騒ぎに気がついた護衛の人たちが入ってきて参加者達の安全を確認している。
「それは良かった」
「スティール様もご無事でしたか?」
「ええ。私も御令嬢に助けていただけたので平気でした。ありがとうございます」
ニコニコと笑っているスティールを見ると何者なのだろうと疑問に思った。
女性ばかりとはいえ、他の参加者はショックを受けたように青い顔をしている人が多い。
(若い頃は軍人だったのかな?)
ルーナストはそう思うにとどめた。
「婚約破棄だとおっしゃられていましたが、そちらの方は」
「あー、令嬢の嗜みの努力の必要は無くなったみたいです」
ルーナストは全然気にしていないというように、笑った。
ただこれまで王子妃教育を受けたのは無駄になるのだなという感想くらいしかない。
実際に今日初めて会った第三王子のことなどその程度にしか気にしてはいなかったのだが、スティールにはそう見えなかったようで、心配げな視線を送られた。
「無理して笑うことはないのですよ」
「いえ、本当に。さっきので初めて会ったので、特に悲しくは。むしろ自由に生きていけるのでほっとしています」
そしてやっとルーナストが心からそう言っているのが分かったのか、スティールはならばと提案した。
「そうでしたか、それなら良いですが。ところでそれならば次の婚約相手にうちの息子はどうでしょうか」
「え? いやいや、私みたいな人間は結婚よりも前戦にいることの方が合ってますから。ご子息だって、私のようなものより、貴族令嬢として普通と言われていることを苦痛に感じず楽しめる令嬢が良いはずです」
「それは息子に聞いてみなければ分からないでしょう。うちの次男坊は軍事バカといいますか、長男を支えるというのを口実に、戦うことばかりを考えておりまして、勝手ながらご令嬢はうちの次男坊とうまくいく気がするのですよ」
ルーナストはスティールの息子と話が合いそうだと少し気になったが、それで結婚してしまってはせっかく将来の自由を手に入れたのがもったいないと思い直した。
「お気持ちだけ、ありがたく頂戴しておきます」
ルーナストの軍人のような礼の仕方に、スティールはますます気をよくしたように微笑んだが、それ以上は何かを言ってくることはなかった。
「なっ!!!」
「挑発に乗ってはいけません」
すぐに怒鳴り散らそうとするモルガンにそう伝えると、ルーナントはそのままモルガンの腰についた剣を抜き、掴まれている髪の毛をバサリと切り、その勢いで振り返りながら立ち上がって男の首を切り落とした。
ボトリと落ちた首を見たモルガンはもう情けない声すらも上げられずに、ズボンを濡らしていた。
「お……お前……」
「婚約破棄でしたっけ。いいですよ」
モルガンを見下ろしそう告げたルーナストに、悲壮感は少しも見えない。
モルガンはしばらく呆然としていたが、自分のズボンが濡れていることに気がついて顔を赤くし、それから急いで前を隠した。
「お……お前とは、婚約破棄だ!! いいか、このことは誰にも言うなよ!?」
「誰にもは無理です。みんな見てましたから」
「な……」
モルガンが周りを見渡し、令嬢やご夫人がモルガンを冷たい目で見ていることに気がついて、涙目になりながら、誰にも聞こえないような小さな声で何かをぶつぶつと呟いて走り去っていってしまった。
「大丈夫ですか?」
声をかけてきたスティールを見るとあれだけの矢が降り注いだと言うのに先ほどと全く同じ場所に座ったままだった。
「え、ああ。みなさん怪我もないようで、大丈夫のようですね」
いつの間にか騒ぎに気がついた護衛の人たちが入ってきて参加者達の安全を確認している。
「それは良かった」
「スティール様もご無事でしたか?」
「ええ。私も御令嬢に助けていただけたので平気でした。ありがとうございます」
ニコニコと笑っているスティールを見ると何者なのだろうと疑問に思った。
女性ばかりとはいえ、他の参加者はショックを受けたように青い顔をしている人が多い。
(若い頃は軍人だったのかな?)
ルーナストはそう思うにとどめた。
「婚約破棄だとおっしゃられていましたが、そちらの方は」
「あー、令嬢の嗜みの努力の必要は無くなったみたいです」
ルーナストは全然気にしていないというように、笑った。
ただこれまで王子妃教育を受けたのは無駄になるのだなという感想くらいしかない。
実際に今日初めて会った第三王子のことなどその程度にしか気にしてはいなかったのだが、スティールにはそう見えなかったようで、心配げな視線を送られた。
「無理して笑うことはないのですよ」
「いえ、本当に。さっきので初めて会ったので、特に悲しくは。むしろ自由に生きていけるのでほっとしています」
そしてやっとルーナストが心からそう言っているのが分かったのか、スティールはならばと提案した。
「そうでしたか、それなら良いですが。ところでそれならば次の婚約相手にうちの息子はどうでしょうか」
「え? いやいや、私みたいな人間は結婚よりも前戦にいることの方が合ってますから。ご子息だって、私のようなものより、貴族令嬢として普通と言われていることを苦痛に感じず楽しめる令嬢が良いはずです」
「それは息子に聞いてみなければ分からないでしょう。うちの次男坊は軍事バカといいますか、長男を支えるというのを口実に、戦うことばかりを考えておりまして、勝手ながらご令嬢はうちの次男坊とうまくいく気がするのですよ」
ルーナストはスティールの息子と話が合いそうだと少し気になったが、それで結婚してしまってはせっかく将来の自由を手に入れたのがもったいないと思い直した。
「お気持ちだけ、ありがたく頂戴しておきます」
ルーナストの軍人のような礼の仕方に、スティールはますます気をよくしたように微笑んだが、それ以上は何かを言ってくることはなかった。
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******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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