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父親
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父親も一緒に後部座席に乗り込み、父親の指示に従って運転手が車を出発させた。
車は寮とは反対方向に進み、しばらくして学校からそう離れていない畦道でスッと停車した。
「今日は帰してあげると言っただろう? そんなに身構えられると、帰したくなくなるなぁ」
ぞわり、ぞわりと不快感が体を覆う。
「ご用件は」
何とか絞り出した俺の言葉に、父親は愉快そうに片眉を上げた。
「ははは。そう拗ねてはダメだよ。道に誘惑されたおかげで、アルファといえど大変不名誉を浴びてしまってね。結構大変だったんだ。罪に問わない代わりにと、国からいろいろ仕事をさせられていたおかげで道のことを探してあげる時間もなかったんだから。だがそれも落ち着いたし、そろそろ道もあんなベータの女どもの家を出て、私たちと共に過ごしたいだろうと思って迎えに来てあげたんだ」
その身勝手な言い分に俺は奥歯をギリっと噛み締めた。
国は、オメガを冷遇する。
けれど、国をあげて大々的には差別することが出来ないことを逆手に取り、アルファの犯罪者はそうやって国に搾取されることになることがあるらしい。とは言っても父親が言うほどに大変な目にはあっていないのだろう。何せ、国はアルファを国外に流出させるのを嫌がるから。アルファで生まれたその瞬間から、大量殺戮でも犯さない限り丁重に扱われる。
「一緒に過ごしたいだって? そんなこと頼んでない。義母さんたちは俺のことを本当の息子のように可愛がってくれる。父さんや兄さんみたいに気持ちの悪い目で俺のことを見ないし、無闇に触れたりもしない。あの人たちの息子にしてもらえて、俺は良かったって思ってる」
そう告げると、父親は一瞬ぽかんとした顔をした。
「そうか……そうかぁ……くくく」
本当におかしそうに笑う父親を見て、不安が襲う。
「市原凛子さんと市原はるみさんだったかな。小さな会社を経営していてお金だけは多少ある様だが、ベータが社長をやっている会社なんて、簡単に潰れる。ね? そう思わないかい?」
ニタァと笑ったその顔は虫唾が走る。
「義母さんたちは優秀な人たちです。簡単に潰れるなんて、そんな勝手なこと言わないでください」
ベータだとか関係ない。彼女たちは目の前の性犯罪者のアルファよりもよっぽど有能で人格者だ。
「くっ、あはは。道、お前が素直に自分の意思で私の家に戻ってこないと言うのなら、私はどんな手も使うつもりだよ。道の大切だと言う人たちを傷つけたくないのなら、戻ってくると言いなさい」
「っ……まさか、義母さんたちに何かするつもりですか」
「さぁ? それは道の行動しだいじゃないかな? 1週間後にまた迎えに来る。荷物をまとめて待っているんだよ?」
父親は、俺が断ることなんて1ミリも想像していない様だった。
話は終わりだと言われ、俺はその場で車を降りて、そう離れていない寮までの道を歩いて帰った。
俺を引き取り愛情もって育ててくれた義母さんたちを、大変な目に合わせたくない。
帰り道に真っ白な頭でいくら考えたって、きっと俺は父親の思惑通りに、1週間後荷物をまとめて父親を待つのだろう。
義母さんたちに引き取られて、この学園に来て、少しずつ、少しずつ平穏な暮らしに慣れてきて。
けれどもやっぱり、その平穏な暮らしをあの人にぶち壊されるのを、俺はただ受け入れるしかできないことが……自分ではその選択肢以外どうにもできないことが悔しくて悔しくて仕方がなかった。
車は寮とは反対方向に進み、しばらくして学校からそう離れていない畦道でスッと停車した。
「今日は帰してあげると言っただろう? そんなに身構えられると、帰したくなくなるなぁ」
ぞわり、ぞわりと不快感が体を覆う。
「ご用件は」
何とか絞り出した俺の言葉に、父親は愉快そうに片眉を上げた。
「ははは。そう拗ねてはダメだよ。道に誘惑されたおかげで、アルファといえど大変不名誉を浴びてしまってね。結構大変だったんだ。罪に問わない代わりにと、国からいろいろ仕事をさせられていたおかげで道のことを探してあげる時間もなかったんだから。だがそれも落ち着いたし、そろそろ道もあんなベータの女どもの家を出て、私たちと共に過ごしたいだろうと思って迎えに来てあげたんだ」
その身勝手な言い分に俺は奥歯をギリっと噛み締めた。
国は、オメガを冷遇する。
けれど、国をあげて大々的には差別することが出来ないことを逆手に取り、アルファの犯罪者はそうやって国に搾取されることになることがあるらしい。とは言っても父親が言うほどに大変な目にはあっていないのだろう。何せ、国はアルファを国外に流出させるのを嫌がるから。アルファで生まれたその瞬間から、大量殺戮でも犯さない限り丁重に扱われる。
「一緒に過ごしたいだって? そんなこと頼んでない。義母さんたちは俺のことを本当の息子のように可愛がってくれる。父さんや兄さんみたいに気持ちの悪い目で俺のことを見ないし、無闇に触れたりもしない。あの人たちの息子にしてもらえて、俺は良かったって思ってる」
そう告げると、父親は一瞬ぽかんとした顔をした。
「そうか……そうかぁ……くくく」
本当におかしそうに笑う父親を見て、不安が襲う。
「市原凛子さんと市原はるみさんだったかな。小さな会社を経営していてお金だけは多少ある様だが、ベータが社長をやっている会社なんて、簡単に潰れる。ね? そう思わないかい?」
ニタァと笑ったその顔は虫唾が走る。
「義母さんたちは優秀な人たちです。簡単に潰れるなんて、そんな勝手なこと言わないでください」
ベータだとか関係ない。彼女たちは目の前の性犯罪者のアルファよりもよっぽど有能で人格者だ。
「くっ、あはは。道、お前が素直に自分の意思で私の家に戻ってこないと言うのなら、私はどんな手も使うつもりだよ。道の大切だと言う人たちを傷つけたくないのなら、戻ってくると言いなさい」
「っ……まさか、義母さんたちに何かするつもりですか」
「さぁ? それは道の行動しだいじゃないかな? 1週間後にまた迎えに来る。荷物をまとめて待っているんだよ?」
父親は、俺が断ることなんて1ミリも想像していない様だった。
話は終わりだと言われ、俺はその場で車を降りて、そう離れていない寮までの道を歩いて帰った。
俺を引き取り愛情もって育ててくれた義母さんたちを、大変な目に合わせたくない。
帰り道に真っ白な頭でいくら考えたって、きっと俺は父親の思惑通りに、1週間後荷物をまとめて父親を待つのだろう。
義母さんたちに引き取られて、この学園に来て、少しずつ、少しずつ平穏な暮らしに慣れてきて。
けれどもやっぱり、その平穏な暮らしをあの人にぶち壊されるのを、俺はただ受け入れるしかできないことが……自分ではその選択肢以外どうにもできないことが悔しくて悔しくて仕方がなかった。
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