(完結)好きな人には好きな人がいる

いちみやりょう

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好きな理由

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「んっ……ぁぁっ、ふっ、んん」

先輩はセフレの俺相手にも、優しい手つきで抱いてくれる。
俺のうなじのケロイドを気遣うようにそっと撫でる手にゾクゾクする。
いつもは長めに伸ばした髪の毛で隠しているうなじには幼い頃、父や兄に噛まれた傷跡が残っていた。
噛まれたのは幼い頃で発情も迎えておらず、オメガとして体が出来上がっていないほどに幼い頃だったがゆえに、噛まれても番になることはなく、ただ傷跡としてそこに残っている。でも今、もしも発情してアルファに噛まれることがあっても番になることができるのかは分からない。

俺は未だに発情期を迎えていないからだ。


『心因性フェロモン不全』

それが俺の病名だ。
特にオメガ性に多い病気らしい。
過去に起きたショックな出来事で、フェロモンを抑制したり、逆に放出したりその症状は人によって様々らしいけど、俺の症状で言えば、オメガとしてのフェロモンが全く出ない状態だ。だけど俺はこの病気を別に治そうとは思っていない。
これのおかげで俺はベータとして先輩のセフレを続けられているからだ。
ただ性欲を発散させるためだけのセフレって、俺にぴったりのポジションだと思う。

「んっ、先輩、いつもそこ触るね」

触られると違和感しかないうなじは、けれど触っているのが先輩だと思うだけで性感帯に早変わりする。

「うちの実家で、こういう傷跡を治す治療法を研究している」

普段よりもかすれた、情事の時の先輩の声は色っぽくて腰にくる。

「ぁっ、ぁ、そうなんだぁ」
「うまくいけば、お前のこれも治せるはずだ」
「んっ、ぁ、はぁ……ふふ、それ……いいね」
「完成したら、うちの病院に来るといい」

先輩は体力おばけだ。
休むことなく俺に腰を打ち付けて、息切れもせずに世間話なんかできるんだから。

「……いく。出すぞ」
「うんっ、ん、ぁあっ、出してっ……俺に先輩のちょうだいっ、アッ、ぁあっ!!」

いっそう早く動かれて揺さぶられ、気持ちよさの限界を迎えて目の前にチカチカと光が散った。

先輩がいつもの通りゴム越しに射精したのを感じながらしばらく余韻に浸った。

先輩もしばらく俺の中に入ったまま休憩して、少しして中からずるりと出ていき、自身のそれから抜き取ったゴムの入り口をキュッと結んでゴミ箱に投げ捨てた。

「気持ちよかったぁ……あ、そういえばね。今、律葉は好きな人がいるんだって」

もう少しだけ、先輩のそばに居たくて、俺は先輩の好きな人の話を振った。

「……そうか」

心なしか沈んだ声に、俺は少しおかしくなる。
だって、「好きな人って自分だったり?」なんて期待一ミリもしてないみたいで、先輩はめちゃくちゃかっこいいしモテるのに、変なところで自信がないのが面白かった。

「でもね、相手が誰なのかは聞いてないけど、律葉はその人からは嫌われてるんだって。だからきっと先輩にもチャンスがあるよ」
「……そうだろうか」
「そうだよ。だって、先輩はかっこいいもん。それに、律葉を嫌うなんて、そんなのろくな奴じゃないと思う。だから先輩、きっと今が踏ん張りどころだよ」

先輩は「そうだといいな」と小さく笑った。
ただのセフレでしかない俺に対してはあまり笑顔は見せてくれないけど、たまに笑ってくれると俺は天にも昇る気持ちになる。それと同時に先輩の笑った顔は、あの小児科で会った時と変わってなくて、いつも心臓がギュッと掴まれたように切ない気持ちにもなった。

「律葉って、憎めないって言うか。可愛いよね。先輩は律葉のどこが好きなの?」
「……そうだな」

先輩は律葉を思い出すように目を閉じて、また小さく笑った。

「素直に人に甘えるところ、かもしれない。人は自分にないものに惹かれるとよく言うだろう。俺は人を頼ったり甘えたりするのは昔から苦手だったから、律葉に惹かれるのかもしれない、と思う」

ゆっくり考えるようにそう言った先輩の言葉は俺も共感できた。
ただ、俺にはかけらもない部分なので、完全なる脈なし決定に、胸がツキと痛むと同時に逆に笑えた。

「そっか。分かるよ。律葉のお願い事ってなんだか断れないし、あんな可愛い顔で「ありがとう」って言われたら好きになっちゃうよね」
「ああ、そうだな」

先輩は優しい顔をして頷いた。

先輩にこんな顔をして思い出してもらえる律葉が羨ましい。先輩にこんなに想われているのに、律葉はこんな素敵な先輩がタイプじゃないなんておかしいと、理不尽にむかついたりもして、先輩といるときはいつも感情がジェットコースターみたいに起伏が激しくなってしまう。

「ん」

先輩が俺の体をそろりと撫でて、汚れたところをティッシュで拭ってくれた。

俺は先輩が律葉のことを好きだと知っているのに。その理由も聞いたのに。先輩がセフレでしかない俺に対してもどこまでも優しいから、「もしかしたら」なんて勘違いしてしまいそうになるのを耐えるのに必死だった。
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