36 / 57
13章:不安と喧嘩と仲直り
13-1
しおりを挟む社長室から逃げた先の廊下で呆然としていると、副社長があちらから秘書の女性とともに歩いてきた。
「……柊さん?」
泣き顔の私の顔を見て、副社長が足を止め、その顔色が一瞬で変わる。
そして私の腕を掴むと、
「もしかして、僕のこと、何か聞いた?」
と私の耳元で言った。思わず自分の顔が青くなるのがわかった。
そんな私を見た副社長は、
「ごめん、ちょっとだけ二人にして」
と秘書に告げると、そのまま私を副社長室に押し込むように入れた。
部屋に入ると、副社長が申し訳なさそうに眉を下げ、頭をまっすぐと下に下げる。
「ごめん、僕のせいだ」
「イヤ、それは違います!」
それは絶対に違う。社長が言ったことがホントだったとして、副社長が謝ることじゃない。なのに副社長は心底申し訳なさそうに頭を下げたままだった。
「お願いですから顔を上げてください」
私が言うと、副社長は、でも、と呟き、
「僕もね、あれだけずっと健人が好きだった人と結ばれて、もし子どもができて、その子が僕の跡を継いでくれるなら、僕に子どもができなくても良いかなぁって思っちゃったんだ」
とはっきりと言う。
私はあまり副社長のこと知っているわけじゃないけど、前に話した時とか、先輩の話とかも合わせても、副社長は悪い人には思えない。むしろ……絶対にいい人だ。
私もできることなら、この人の力になれればいいのに、とは思う。でも子どものことは……今言われてもどうすることもしてあげられないのだ。
そんな私に、副社長はもう一度頭を下げると、
「これって、柊さんにとっては失礼な話だったよね……。本当にごめん。申し訳ない」
と言って続けた。「僕が言うのもなんだけど、そういうの全部抜きにしてさ……。健人とずっと一緒にいたいかどうかで、最後は決めたらいいんだよ」
と優しい声で言う。
「そんなこと言われても……」
「健人のことは、好き?」
そう問われて、どきりとした。
でも、その答えはもう決まってた。いつの間にか、それだけは迷いようもない事実になってる。
「好きです」
そう言い切った私を見て、副社長は目を細めると、よかった、と笑う。
「健人はね。『キミといる未来』以外の可能性を、1㎜も考えてもいないんだよ」
せめてだれかが大反対してくれたらちょっとはこの勢いが止まれるかもしれないのに……。でも、それは誰もしてくれない。うちの父ですら、まったくだめだ。
なんだか、急ピッチで周りを固められていき、結婚を推し進められていくようで……私は不安になってきていた。
みんなが祝福していて、あとは私が頷くだけなんて……。
なんでこうも舞台がきっちりと用意されているのだろう……。
と思っても、その原因はどう考えても、私なんかに固執する先輩のせいなんだろうけど……。
次の日の夜、先輩が戻ってきて会える日だったけど、私はなんとも複雑な気持ちだった。
先輩と顔を合わせて、自分がどう思うか、想像もできなかった。
10
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる