焦げ付いた砂糖水のように

小島秋人

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 「新婚旅行のついでに観劇がしたい」と言い出した。二人とも別段趣味でもないのだが、思い出作りには悪くない提案だった。

 劇、と言うよりはアトラクションの趣が強いショーらしく会場は賑わっている。色とりどりのライトに照らされたステージを上階のボックス席から見下ろしていた。随分と奮発してしまったが、新婚旅行と言えば多少の贅沢も許される。

 「椅子が低くて欄干越しにステージが見にくい」と言うので膝の上に乗せていたが身動きがし難い。
 「じゃあ代わってやるよ」と巫山戯て体勢を交換するが当然「ステージが見えない!」と文句を言われる。どないせぇっちゅうねん。

 折衷案として床に座らされ彼の膝に頭を置いてみる。いや、今度は俺が見えないと頸を擡げた所で目が合った。コイツ最早ショーを見る気ないな…。

 「楽しいね」
 否応を返さず笑みを浮かべた。徐に上体を倒した彼の顔が近付く。

逆さまにする口付けは普段と感触が違って新鮮だった。好みかと言われれば、勿論普段の方が良いけれど。
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