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特別編8
プロローグ『喜び包まれる教室にあの人が来ない』
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特別編8
6月24日、月曜日。
今日も起きたときから雨がシトシトと降っている。2週間ほど前に梅雨入りしてからはこういう天候の日が多い。
梅雨入り直後は涼しかったけど、日にちが経つにつれて蒸し暑く感じる日の方が多くなってきた。その蒸し暑さも日に日にキツくなってきて。あと1週間で7月になるのも納得だ。
月曜日でしかも蒸し暑い気候だと気怠くなりやすい。ただ、幸いにも俺・桐生由弦は、1学年上の恋人の白鳥美優先輩と一緒に住んでいる。しかも、住まいのあるアパート・あけぼの荘は通学する私立陽出学院高等学校まで徒歩数分ほどの近さ。高校の校舎も全館エアコンが効いていて快適な環境。そのため、週が明けても嫌な気持ちは全然ない。
「ごちそうさま。由弦君が作った玉子焼きと味噌汁美味しかったよ」
「良かったです。ありがとうございます」
「こちらこそありがとうだよ。じゃあ、後片付けは私がやっておくね。その間に由弦君は学校に行く準備をしてて」
「分かりました」
朝ご飯をしっかりと食べたし、俺の作った玉子焼きと味噌汁を褒めてもらえたから、今日だけでなく今週の学校生活も頑張れそうだ。
寝室に戻り、忘れ物がないかどうか。勉強机に置いてある鏡を見て、制服や髪に乱れがないかどうかを確認する。
「大丈夫だな」
必要なものはバッグに入っているし、服装や髪も特に問題ない。これなら今日も平穏な学校生活を送れるだろう。
普段、登校するときは、隣の部屋の住人で俺のクラスメイトの姫宮風花と、美優先輩の親友・花柳瑠衣先輩がインターホンを鳴らしてくれる。そのときが来るまで、俺と美優先輩はゆっくりとした時間を過ごす。俺の淹れた温かい日本茶をすすりながら。外は蒸し暑いけど、リビングはエアコンで涼しくなっている。なので、温かい飲み物もいいなと思う。
そして、朝食を食べ終わってから20分ほど。
――ピンポーン。
インターホンが鳴った。この時間帯からして、風花と花柳先輩だろう。
美優先輩は食卓の椅子から立ち上がり、廊下に出る扉の側にあるインターホンのところに向かい、応対する。
「すぐに行くね。……瑠衣ちゃんと風花ちゃんだよ」
「そうですか。では、行きましょうか」
「うんっ」
俺達は寝室にあるスクールバッグを持って、玄関へ向かう。
ローファーを履いて、玄関の扉を開ける直前、
「いってきます、先輩」
「うん。いってきます、由弦君」
そう言葉を交わして、俺から美優先輩にいってきますのキスをする。最近は登校時に家を出る際、こうしてキスすることが多くなってきた。
唇を離すと、すぐ目の前にはニコッと笑う美優先輩の顔が。そんな先輩を見ていると、今日も頑張ろうって思える。
美優先輩が玄関を開けると、そこには制服姿の風花と花柳先輩が立っていた。
おはよう、と笑顔で挨拶を交わし、4人で陽出学院高校に向かって歩き出す。雨が降っているので、俺は美優先輩と相合い傘をして。空気は蒸しているけど、手や腕から伝わってくる先輩の温もりは心地いい。
「風花ちゃん。体調はどう? 疲れは残っていない?」
優しい声で風花にそう問いかける美優先輩。
なぜ、美優先輩が風花に今のような問いかけをするのか。なぜなら、先週末に開催された水泳の都大会に風花が出場したからだ。風花は100m自由形、400m個人メドレー、学校対抗の400mメドレーリレーの自由形の選手として出場し、その全てで関東大会の進出を決めた。
美優先輩達と一緒に応援しに行ったけど、風花は頑張って泳いでいたな。泳いでいる姿はもちろんのこと、泳いだ後に俺達へ見せる笑顔はとても素敵だった。
「元気ですよ! 昨日はぐっすり寝たので!」
ハキハキとした声で風花はそう答える。今の言葉に嘘偽りないと証明するかのように、風花の顔には持ち前の明るい笑みが浮かんでいて。
「元気なら良かった。その様子なら大丈夫そうだね」
「ええ。レースも楽しかったですし、関東大会に進出できて、とても気分のいい中で眠れましたから! 元気いっぱいです!」
「いつも以上に元気よね、風花ちゃん。そんな風花ちゃんを見ていると、元気をお裾分けしてもらっている感覚になるわ」
そう話す花柳先輩の笑顔はいつもより明るく感じられる。花柳先輩も俺達と一緒に風花を応援して、風花が関東大会に出場したのが決まったときにはとても喜んでいた。その喜びも今の明るさに繋がっているのかもしれない。
「これから関東大会に向けて頑張るぞ……といきたいところですけど、その前に期末試験を頑張らないといけないですね。中間試験ではあまり良くなかった教科もありましたし。それに、今日から試験前期間で部活動も禁止ですから」
「……そうだねー、風花ちゃん」
花柳先輩はさっきよりも小声でそう言い、「はあっ」とため息をついている。期末試験が近づいている現実を目の当たりにし、風花からお裾分けしてもらった元気が吹き飛んでしまったのだろうか。
陽出学院高校は来週の月曜日から5日間かけて期末試験が行なわれる。校則により、試験1日目の1週間前から、部活動は原則禁止となっている。つまり、今日から活動ができなくなるのだ。
「風花ちゃんの言う通りだね。前に話したかもしれないけど、もし期末試験で赤点を取って、1学期の評定でも赤点だったときには、夏休みに特別課題を出されたり、補習に参加せられたりするからね。成績が酷いと、部活やバイトも禁止させられちゃうし」
「水泳部の先輩からも同じようなことを言われました、美優先輩。不安な教科もありますし、中間試験のときのように美優先輩達と一緒に勉強会したいです」
「あたしも風花ちゃんに賛成。不安な教科は美優に教えてほしいわ」
そう言い、右手を軽く挙げる花柳先輩。
中間試験のときは、試験前と試験期間中は美優先輩と俺の家で、この4人で試験勉強をすることが恒例だった。俺達に加えて、あけぼの荘の住人達や俺と風花の友人達とも一緒に勉強したことも多かったな。
「俺も勉強会に賛成です。中間試験のときは、勉強会をして捗りましたから」
美優先輩から分からないところを教えてもらったり、風花や友人達に勉強を教えたりするのもいい勉強になったから。勉強会をしたのもあって、中間試験ではいい点数を取ることができたと考えている。
「みんなで勉強するのっていいよね。不安な教科がある子もいるし、今回の試験でも放課後や休日にはみんなで勉強会をしようか」
美優先輩はいつもの優しい笑みを浮かべながらそう言った。先輩の今の言葉を受け、風花と花柳先輩は嬉しそうにしている。中間試験での勉強会では風花は俺、花柳先輩は美優先輩に質問することが結構多かったからなぁ。
期末試験でも美優先輩達と一緒に勉強して、高得点を取っていきたい。来年も特待生でいられるためにも。
その後も、週末の都大会や期末試験の話をしながら歩き、陽出学院高校に登校した。
昇降口に入ると、エアコンがかかっていて涼しい。中学までは職員室とパソコン室くらいしかエアコンがなかったので快適さが雲泥の差である。東京の私立高校は凄いって何度思ったことか。
いつも通り、4人で階段を上がっていき、俺と風花のクラス・1年3組の教室がある4階で美優先輩と花柳先輩と別れた。
風花と駄弁りながら1年3組の教室を入ると、
「おっ、桐生と姫宮。おはよう」
「おはよう、風花ちゃん、桐生君」
俺達と特に親しいクラスメイトの加藤潤と橋本奏さんが挨拶をしてくれる。ただ、2人ともいつもよりもいい笑顔をしているような。
「あと、風花ちゃんは水泳の関東大会進出おめでとう!」
さっきよりも大きな声でそう言うと、橋本さんはこちらに駆け寄ってきて、風花のことをぎゅっと抱きしめた。加藤も「おめでとう」と言い、拍手をしながら俺達のところにやってきた。なるほど。2人がいい笑顔だったのは、風花の関東大会出場をお祝いするためだったのか。
橋本さんと加藤から祝福の言葉をもらったからか、風花はとても嬉しそうな表情になり、
「2人ともありがとう! 1ヶ月後の関東大会も頑張るよ!」
元気のいい声で、お礼と今後の抱負を話していた。
その後も女子中心にクラスメイトの多くが風花のところにやってきて、風花に関東大会出場を祝福する言葉をかけられていた。中にはお祝いに飴やグミをあげる女子生徒もいて。風花はクラスメイト達にたくさん「ありがとう」と言っていた。そんな光景を見ていると俺まで嬉しくなってくるなぁ。
朝礼まであと2、3分になったところで、ようやく風花は自分の席に辿り着いた。ちなみに、風花の席は俺の一つ前の席である。
「教室に来てから自分の席に着くまで、こんなに時間がかかったのは初めてだよ」
ニッコリと笑みを浮かべながらそう話す風花。
「たくさん祝ってもらえたな」
「うんっ! 昨日の夜に、奏ちゃんとか何人かの友達に関東大会行けるってメッセージを送ったんだ。たぶん、そこから広まったんだと思う」
「そうだったんだな」
「みんなから祝ってもらえたし、ますます関東大会を頑張ろうって思えたよ」
「そうか」
きっと、風花ならみんなからの祝福を糧にして、関東大会に挑むことができると思う。俺も自分のできることで、風花のことを応援していきたい。
風花とは前後の席なので、雑談しながら担任の霧嶋一佳先生が来るのを待つ。先生も一緒に都大会を応援したし、朝礼のときに風花のことを話すかもしれないなぁ。
風花と喋りながら、たまに教室の中を見渡す。風花のこともあってか、普段よりも教室の中の雰囲気がいいなぁ。何人かの生徒は風花のことを見ているし。
――キーンコーンカーンコーン。
やがて、朝礼を知らせるチャイムが鳴る。もうすぐ霧嶋先生が来るだろう。そう思いながら、風花と喋り続ける。しかし、
「遅くない? 一佳先生」
「……そうだな」
チャイムが鳴ってから数分ほど。霧嶋先生は一向に現れない。いつもなら、遅くとも鳴ってから2、3分経てば来るのに。俺達と同じようなことを考える生徒がいるのか、
「どうしたんだろう?」
「一佳先生、何かあったのかな」
といった心配の声が聞こえてくる。朝の職員会議が長引いているのか。それとも、先生は学校に来ていないのか。
――ガラガラッ。
教室がザワザワする中、前方の扉が開く音が聞こえる。廊下から入ってきたのは霧嶋先生……ではなく、数学Ⅰを担当している男性教師だった。
「みなさん。霧嶋先生は体調不良でお休みします。なので、今日の朝礼と終礼は僕が担当します」
数学の先生のその言葉に、クラスメイトの「えー」とか「まじかぁ」という落胆の声が聞こえてくる。
「一佳先生、お休みなんだ……」
心配そうな様子でそう言う風花。一昨日も昨日も、霧嶋先生は都大会の会場で風花達を元気よく応援していたからなぁ。
霧嶋先生が欠勤するのはこれが初めて。だから、いつもとは違う学校生活が始まるのであった。
6月24日、月曜日。
今日も起きたときから雨がシトシトと降っている。2週間ほど前に梅雨入りしてからはこういう天候の日が多い。
梅雨入り直後は涼しかったけど、日にちが経つにつれて蒸し暑く感じる日の方が多くなってきた。その蒸し暑さも日に日にキツくなってきて。あと1週間で7月になるのも納得だ。
月曜日でしかも蒸し暑い気候だと気怠くなりやすい。ただ、幸いにも俺・桐生由弦は、1学年上の恋人の白鳥美優先輩と一緒に住んでいる。しかも、住まいのあるアパート・あけぼの荘は通学する私立陽出学院高等学校まで徒歩数分ほどの近さ。高校の校舎も全館エアコンが効いていて快適な環境。そのため、週が明けても嫌な気持ちは全然ない。
「ごちそうさま。由弦君が作った玉子焼きと味噌汁美味しかったよ」
「良かったです。ありがとうございます」
「こちらこそありがとうだよ。じゃあ、後片付けは私がやっておくね。その間に由弦君は学校に行く準備をしてて」
「分かりました」
朝ご飯をしっかりと食べたし、俺の作った玉子焼きと味噌汁を褒めてもらえたから、今日だけでなく今週の学校生活も頑張れそうだ。
寝室に戻り、忘れ物がないかどうか。勉強机に置いてある鏡を見て、制服や髪に乱れがないかどうかを確認する。
「大丈夫だな」
必要なものはバッグに入っているし、服装や髪も特に問題ない。これなら今日も平穏な学校生活を送れるだろう。
普段、登校するときは、隣の部屋の住人で俺のクラスメイトの姫宮風花と、美優先輩の親友・花柳瑠衣先輩がインターホンを鳴らしてくれる。そのときが来るまで、俺と美優先輩はゆっくりとした時間を過ごす。俺の淹れた温かい日本茶をすすりながら。外は蒸し暑いけど、リビングはエアコンで涼しくなっている。なので、温かい飲み物もいいなと思う。
そして、朝食を食べ終わってから20分ほど。
――ピンポーン。
インターホンが鳴った。この時間帯からして、風花と花柳先輩だろう。
美優先輩は食卓の椅子から立ち上がり、廊下に出る扉の側にあるインターホンのところに向かい、応対する。
「すぐに行くね。……瑠衣ちゃんと風花ちゃんだよ」
「そうですか。では、行きましょうか」
「うんっ」
俺達は寝室にあるスクールバッグを持って、玄関へ向かう。
ローファーを履いて、玄関の扉を開ける直前、
「いってきます、先輩」
「うん。いってきます、由弦君」
そう言葉を交わして、俺から美優先輩にいってきますのキスをする。最近は登校時に家を出る際、こうしてキスすることが多くなってきた。
唇を離すと、すぐ目の前にはニコッと笑う美優先輩の顔が。そんな先輩を見ていると、今日も頑張ろうって思える。
美優先輩が玄関を開けると、そこには制服姿の風花と花柳先輩が立っていた。
おはよう、と笑顔で挨拶を交わし、4人で陽出学院高校に向かって歩き出す。雨が降っているので、俺は美優先輩と相合い傘をして。空気は蒸しているけど、手や腕から伝わってくる先輩の温もりは心地いい。
「風花ちゃん。体調はどう? 疲れは残っていない?」
優しい声で風花にそう問いかける美優先輩。
なぜ、美優先輩が風花に今のような問いかけをするのか。なぜなら、先週末に開催された水泳の都大会に風花が出場したからだ。風花は100m自由形、400m個人メドレー、学校対抗の400mメドレーリレーの自由形の選手として出場し、その全てで関東大会の進出を決めた。
美優先輩達と一緒に応援しに行ったけど、風花は頑張って泳いでいたな。泳いでいる姿はもちろんのこと、泳いだ後に俺達へ見せる笑顔はとても素敵だった。
「元気ですよ! 昨日はぐっすり寝たので!」
ハキハキとした声で風花はそう答える。今の言葉に嘘偽りないと証明するかのように、風花の顔には持ち前の明るい笑みが浮かんでいて。
「元気なら良かった。その様子なら大丈夫そうだね」
「ええ。レースも楽しかったですし、関東大会に進出できて、とても気分のいい中で眠れましたから! 元気いっぱいです!」
「いつも以上に元気よね、風花ちゃん。そんな風花ちゃんを見ていると、元気をお裾分けしてもらっている感覚になるわ」
そう話す花柳先輩の笑顔はいつもより明るく感じられる。花柳先輩も俺達と一緒に風花を応援して、風花が関東大会に出場したのが決まったときにはとても喜んでいた。その喜びも今の明るさに繋がっているのかもしれない。
「これから関東大会に向けて頑張るぞ……といきたいところですけど、その前に期末試験を頑張らないといけないですね。中間試験ではあまり良くなかった教科もありましたし。それに、今日から試験前期間で部活動も禁止ですから」
「……そうだねー、風花ちゃん」
花柳先輩はさっきよりも小声でそう言い、「はあっ」とため息をついている。期末試験が近づいている現実を目の当たりにし、風花からお裾分けしてもらった元気が吹き飛んでしまったのだろうか。
陽出学院高校は来週の月曜日から5日間かけて期末試験が行なわれる。校則により、試験1日目の1週間前から、部活動は原則禁止となっている。つまり、今日から活動ができなくなるのだ。
「風花ちゃんの言う通りだね。前に話したかもしれないけど、もし期末試験で赤点を取って、1学期の評定でも赤点だったときには、夏休みに特別課題を出されたり、補習に参加せられたりするからね。成績が酷いと、部活やバイトも禁止させられちゃうし」
「水泳部の先輩からも同じようなことを言われました、美優先輩。不安な教科もありますし、中間試験のときのように美優先輩達と一緒に勉強会したいです」
「あたしも風花ちゃんに賛成。不安な教科は美優に教えてほしいわ」
そう言い、右手を軽く挙げる花柳先輩。
中間試験のときは、試験前と試験期間中は美優先輩と俺の家で、この4人で試験勉強をすることが恒例だった。俺達に加えて、あけぼの荘の住人達や俺と風花の友人達とも一緒に勉強したことも多かったな。
「俺も勉強会に賛成です。中間試験のときは、勉強会をして捗りましたから」
美優先輩から分からないところを教えてもらったり、風花や友人達に勉強を教えたりするのもいい勉強になったから。勉強会をしたのもあって、中間試験ではいい点数を取ることができたと考えている。
「みんなで勉強するのっていいよね。不安な教科がある子もいるし、今回の試験でも放課後や休日にはみんなで勉強会をしようか」
美優先輩はいつもの優しい笑みを浮かべながらそう言った。先輩の今の言葉を受け、風花と花柳先輩は嬉しそうにしている。中間試験での勉強会では風花は俺、花柳先輩は美優先輩に質問することが結構多かったからなぁ。
期末試験でも美優先輩達と一緒に勉強して、高得点を取っていきたい。来年も特待生でいられるためにも。
その後も、週末の都大会や期末試験の話をしながら歩き、陽出学院高校に登校した。
昇降口に入ると、エアコンがかかっていて涼しい。中学までは職員室とパソコン室くらいしかエアコンがなかったので快適さが雲泥の差である。東京の私立高校は凄いって何度思ったことか。
いつも通り、4人で階段を上がっていき、俺と風花のクラス・1年3組の教室がある4階で美優先輩と花柳先輩と別れた。
風花と駄弁りながら1年3組の教室を入ると、
「おっ、桐生と姫宮。おはよう」
「おはよう、風花ちゃん、桐生君」
俺達と特に親しいクラスメイトの加藤潤と橋本奏さんが挨拶をしてくれる。ただ、2人ともいつもよりもいい笑顔をしているような。
「あと、風花ちゃんは水泳の関東大会進出おめでとう!」
さっきよりも大きな声でそう言うと、橋本さんはこちらに駆け寄ってきて、風花のことをぎゅっと抱きしめた。加藤も「おめでとう」と言い、拍手をしながら俺達のところにやってきた。なるほど。2人がいい笑顔だったのは、風花の関東大会出場をお祝いするためだったのか。
橋本さんと加藤から祝福の言葉をもらったからか、風花はとても嬉しそうな表情になり、
「2人ともありがとう! 1ヶ月後の関東大会も頑張るよ!」
元気のいい声で、お礼と今後の抱負を話していた。
その後も女子中心にクラスメイトの多くが風花のところにやってきて、風花に関東大会出場を祝福する言葉をかけられていた。中にはお祝いに飴やグミをあげる女子生徒もいて。風花はクラスメイト達にたくさん「ありがとう」と言っていた。そんな光景を見ていると俺まで嬉しくなってくるなぁ。
朝礼まであと2、3分になったところで、ようやく風花は自分の席に辿り着いた。ちなみに、風花の席は俺の一つ前の席である。
「教室に来てから自分の席に着くまで、こんなに時間がかかったのは初めてだよ」
ニッコリと笑みを浮かべながらそう話す風花。
「たくさん祝ってもらえたな」
「うんっ! 昨日の夜に、奏ちゃんとか何人かの友達に関東大会行けるってメッセージを送ったんだ。たぶん、そこから広まったんだと思う」
「そうだったんだな」
「みんなから祝ってもらえたし、ますます関東大会を頑張ろうって思えたよ」
「そうか」
きっと、風花ならみんなからの祝福を糧にして、関東大会に挑むことができると思う。俺も自分のできることで、風花のことを応援していきたい。
風花とは前後の席なので、雑談しながら担任の霧嶋一佳先生が来るのを待つ。先生も一緒に都大会を応援したし、朝礼のときに風花のことを話すかもしれないなぁ。
風花と喋りながら、たまに教室の中を見渡す。風花のこともあってか、普段よりも教室の中の雰囲気がいいなぁ。何人かの生徒は風花のことを見ているし。
――キーンコーンカーンコーン。
やがて、朝礼を知らせるチャイムが鳴る。もうすぐ霧嶋先生が来るだろう。そう思いながら、風花と喋り続ける。しかし、
「遅くない? 一佳先生」
「……そうだな」
チャイムが鳴ってから数分ほど。霧嶋先生は一向に現れない。いつもなら、遅くとも鳴ってから2、3分経てば来るのに。俺達と同じようなことを考える生徒がいるのか、
「どうしたんだろう?」
「一佳先生、何かあったのかな」
といった心配の声が聞こえてくる。朝の職員会議が長引いているのか。それとも、先生は学校に来ていないのか。
――ガラガラッ。
教室がザワザワする中、前方の扉が開く音が聞こえる。廊下から入ってきたのは霧嶋先生……ではなく、数学Ⅰを担当している男性教師だった。
「みなさん。霧嶋先生は体調不良でお休みします。なので、今日の朝礼と終礼は僕が担当します」
数学の先生のその言葉に、クラスメイトの「えー」とか「まじかぁ」という落胆の声が聞こえてくる。
「一佳先生、お休みなんだ……」
心配そうな様子でそう言う風花。一昨日も昨日も、霧嶋先生は都大会の会場で風花達を元気よく応援していたからなぁ。
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